Last Update 2023.12.27

Features

カクバリズムから7インチ・シングルを出したポニーのヒサミツが語る大切な6枚のレコード

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Rab Noakes
『Red Pump Special』(1974年)

img_9153

 

「“想像力で描くアメリカ”に共感」

 

――そういう意味では、1943年スコットランド生まれのこのフォーク系シンガー・ソングライターの3作目は、よりポニーのヒサミツに近い感覚かもしれないですね。

 

「そうなんですよ。これ、ナッシュヴィル録音なんですけど、でも、ナッシュヴィルそのものではない。どこかちょっと違うんですよね。でもそこがよくって」

 

――ボブ・ディランの『ナッシュビル・スカイライン』などでもサポートしていたナッシュヴィルのスタジオ・ミュージシャン・グループ、エリアコード615が全面的にバックアップしている。なのに、どこかやっぱり違う。

 

「違いますよね。もともとリンデスファーンに曲を提供したり、ブリティッシュ・トラッドの範疇にも入るような人だから、どことなく湿ったような、曇ったようなところがある。でも、その“なりきれない”感じにすごく共感できるんですよ。しかも、アルバムの内容が本当に素晴らしくて……。実はポニーのヒサミツとしての「羊を盗め」をレコーディングしている時にこのアルバムをものすごく聴いていたんです。前から名前は知ってたんですけど、聴いたのがそういうわけで割と最近で。で、ずっと聴きながら、このアルバムは特にメロディが魅力的だなと思っていたんです。メンフィス・ホーンズを起用してたりもして、アメリカの当時の音をすごく意識した作品ではあるんですけど、自分の音楽というか、自分のメロディを自然に出していて無理がない。そういうところも、今の自分のやろうとしていることにつながっているようで、すごく共感できますね。」

 

Rab Noakes「Branch」

 

――細野さんのさきほどのアルバム同様、仲間同士の気のおけない雰囲気も味わえますね。前田さんは、今一緒に活動されているサボテン楽団さんのような仲間とはどのように知り合ったのですか?

 

「彼とは大学の『フォークソング愛好会』……という名前だけど実際は誰もフォークソングを聴いていない(笑)サークルで一緒だったんです。互いに影響し合って、一緒に活動するようになって。で、僕がポニーのヒサミツを名乗るようになった頃、彼もサボテン楽団の名前で音源を発表するようになりました。気がついたら、いい仲間に恵まれていたんですよ。『休日のレコード』はそのサボテン楽団、芦田勇人くん(yumboほか)、バンビくん(シャムキャッツの大塚智之)らと録音したんですけど、今回の「羊を盗め」は、芦田くんがドラムからスティールに回って、バンビくんは変わらずベースで、新しくドラムに同じ大学の仲間だった唐沢隆太くん(ヤバイネーション)を誘って、キーボードは『休日のレコード』のジャケットのイラストを描いてくれた佐藤洋くん……というメンバーです。サボテン楽団、佐藤くん、唐沢くんとは大学の同じ『フォークソング愛好会』の仲間で、佐藤くんとは以前やっていたstudent aを一緒に組んでいました。ほんと、いい仲間に巡り合ったと思います」

 

――残念ながら私は見られなかったのですが、先ごろ、渡瀬賢吾さん(roppen)、谷口雄さん(ex森は生きている、1983)、サボテン楽団と一緒に『タワー・レコード』のインストア用にラヴィン・スプーンフルのカヴァー・バンドもやっていましたよね。気のおけないくだけた雰囲気でポップスを鳴らしてこそグッドタイム・ミュージックだってつくづく思いますよ。

 

「そうですよね。感覚的に近いなって思える仲間は、解散しちゃいましたけど森は生きているとか、1983とかですかね…。森(は生きている)の増村(和彦)くんは飲み友達です(笑)。エリアコード615じゃないですけど、いろいろな形でああやって仲間と一緒にやるのは楽しいです。ラヴィン・スプーンフルのあのイベントもすごく楽しかったので、また何かの機会にあのメンバーで集まりたいなと思っています」

 

The Beatles
『The Beatles』(1968年)

img_9144

 

「『ホワイト・アルバム』は人生で最初に買ったレコード」

 

――ポニーのヒサミツといえば、前田さんは『ドラえもん』の大ファン、藤子・F・不二雄の熱烈な読者としても有名ですが、F先生の描く『SF短編集』のパラレルな世界はポニーのヒサミツの歌詞にも通じるものがありますね。

 

「それはもう絶対にあると思っていて。僕の中で、細野さん、ポール・マッカートニー、藤子・F・不二雄はよく並べているんですけど、いろんなフィールドに足をかけても、作ったものは自分のものになる、というのは似ているなと。しかも、どこかに少年性というか、ドリーミーな感じがある。ポールもそうですよね。いろんなスタイルをやれるけど、どれも憎めない夢のある雰囲気で。ビートルズはもちろんどれも好きなんですけど、特にこの『ホワイト・アルバム』は中1の時にお年玉を握りしめて買いに行ったアルバムで思い出深いんですよ。というより、そもそもレコードとして最初に買ったのがこれなんです。『ラバー・ソウル』『サージェント・ペパーズ』『マジカル・ミステリー・ツアー』は家にあったんですけど、このアルバムはなかったというのもあって」

 

――これまで紹介した3作品はどれも制作現場のいい雰囲気が出ているアルバムですが、これはメンバー全員バラバラに録音したアルバムとして有名ですよね。

 

「買った時はそれを最初知らなくて。だから最初聴いた時は正直すごく面食らいました。でも、その多彩性の素晴らしさにどんどんハマっていって。ビートルズが4人の人の集まりなんだってことをすごく認識した作品でもあるんです。それまで聴いていた作品ではメンバーの個性……この曲は誰が作って誰が歌って…ってことをあまり意識しないで聴いていたんですけど、このアルバムを聴いてからは個々の特徴を気にしながら聴くようになりましたね。しかも、このアルバムを聴いて、自分はポールの曲が一番好きなんだってことが気づいて、ここからポールの曲をどんどん聴くようになっていったんです。もちろん他のメンバーの曲も好きなんですけど、メンバーがバラバラに録音したこういうアルバムの中でも、ポールは「アイ・ウィル」とか「ブラックバード」とか「ロッキー・ラクーン」とかをちゃんと書いていて。シンプルにいい曲を書くポールの良さが際立っているんですよね」

 

The Beatles「Honey Pie」

 

――ポニーのヒサミツの「あのこのゆくえ」は「ハニー・パイ」へのオマージュのような曲ですね。

 

「そうなんです。「ハニー・パイ」本当にすごい曲ですよね。1920~30年代の雰囲気を下地にして、60年代後半にこういう曲を作ったって、本当に驚きですよ。こないだ、宮崎貴士さん(グレンスミス、図書館ほか)と話していたんです、「ジョン・レノンといえば「イマジン」って誰でもすぐ出てくるけど、ポールってそういう曲がソロではないよね」って。ビートルズ時代にはあるんですよ。「イエスタデイ」とか。でも、それをナシにしちゃうと、意外にもないじゃないですか。「セイ・セイ・セイ」とか「エボニー・アンド・アイボリー」とか、誰かとの共演曲とかの方が知られている感じがして。ただ、そういうところが好きなんですよ。ヘンに流行をとりいれてダメになっちゃうところとか(笑)。きっといい人なんでしょうね、サービス精神旺盛で。あと、聴き始めた頃にはジョンはもう亡くなっていて神格化されていたけれど、ポールはずっと活動しているっていうのも大きかったかな。ジョンはカッコ良すぎて目指せないけど……っていうのもあったのかも(笑)。でも、コードとメロディだけでここまで聞かせることができるっていうのはやっぱりすごいし、自分もそうでありたいって思いますね。デモとか鼻歌でもいい曲だって思わせることができるといいなって」

 

――前田さんは曲をどのようにして作っているのですか?

 

「作ろうと思っても作れないことが多くて。ギター弾いてて、なんとなく鼻歌でいいメロディが出てきたら、そこから広げていくって感じで。だから、まずはコードですね。でも、「羊を盗め」を作った時は……って、この曲は実は『休日のレコード』を作った後にもう出来てた曲なんですけど、一時期すごくポール・マッカートニーの作曲法を参考にしようってことでコード転調を意識して作った曲なんです。一時期はこういう転調しよう転調しよう…ってことを考えてよく作っていたんですけど、今はまたシンプルな方に戻りました(笑)。ただ、アルバム自体はいろんなタイプのものがある、多彩な作品であるといいなっていう気持ちはあって。僕、音楽を始めた頃は宅録で。トイポップみたいなのを最初はやっていたんです。それをバンドで合わせてみたら、「あれ、これ、カントリーじゃん」ってなって。だから『休日のレコード』には宅録でやるインストがあったり、バンドで聴かせる曲があったり…って感じだったんです。でも、今はバンドで合わせてやるのが気持ちいいんで、少なくとも次のアルバムは今のバンド編成で録音したいなと思います」

 

――ニュー・アルバムの予定は?

 

「いや、まだ具体的には全然決まってないんですけど、曲はたまってるんで来年には出したいですね」《つづく》

1 2 3
ポニーのヒサミツ
カクバリズム
羊を盗め
私とレコード
David Bowie
Hoagy Carmichael & Orchestra
The Beatles
細野晴臣
Little Feat
Rab Noakes

Recommended Posts