Last Update 2017.10.17

Interview

2010年代屈指のポップ・マエストロ=ayU tokiOが語る、アンチとしてのキザなカッコつけ方

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たとえば、デスク・トップ・ミュージックとフリー・ソフトの普及。あるいは、デジタル・ガジェットの進化と、ソーシャル・ネットワーク・サービスの拡大。いまや音楽は誰もがいとも簡単につくれるものとなり、さらにはインターネットを通じて、誰もがそれを世界へと発信できるようになった。そう、あなたが望めば音楽なんていつでも作れるし、なにかが聴きたければ、ネット上を探れば音楽はいくらでも転がってるのだ。しかも、タダで。そうした時代の変化が、ポップスを取り巻く状況にどんな結果を生んだのかは、おそらくあなたもよくご存知だろうと思う。

さて、そんな時代において、猪爪東風(いのつめあゆ)のソロ・ユニット=ayU tokiO(アユ・トーキョー)の音楽は一体どう響くのだろう。そこで彼のファースト・アルバム『新たなる解』に耳をそばだててみる。管弦楽を贅沢に配した、優雅なバンド・サウンド。思わずビーチ・ボーイズを引き合いにしたくなるほどの、芳醇なコーラス・ワーク。そして、ファルセットを多用した甘美なヴォーカルと、とびきりロマンチックで気のきいたリリック。そう、この作品から聴こえてくるのは、それこそ「インディー」ということばから連想されるものとはかけ離れた、とてつもなくゴージャスでウェルメイドなポップ・ソングばかり。言うまでもなくそれは、現在の主流とあきらかに一線を画したものだ。

2016年の音楽シーンに、『新たなる解』という作品がどれだけアピールできるのかは、私にはわからない。ただ、ひとつだけたしかなのは、ここにはテクノロジーに支えられた同時代の音楽からはあまり見出せなくなった、ある種の普遍的な輝きとぬくもりが宿っているということ。少なくともここには、手間暇とそれを支えるスキル、そしてポップスに捧げられた並々ならぬ情熱と愛が込められている。だから、あえてここは言い切ってしまいたい。2010年代後半のシーンを牽引していける作家は、まちがいなくこのひと、猪爪東風だ。『新たなる解』を聴くと、そう確信せずにはいられなくなる。

以下にお届けするのは、ayU tokiOの7インチ・シングル「犬にしても」の完成にあてて、2015年末に行われたインタヴューだ。会話はayU tokiOのディスコグラフィをたどるところから始まり、結果として猪爪の抱えるポップ・カルチャーへの愛着と、その音楽的なルーツを掘り下げることにもなった。最新作『新たなる解』にいたるまでの道のりをとらえたテキストとして、楽しんでいただけると幸いだ。

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ーーこのインタヴューでは、ayU tokiOのディスコグラフィをひとつひとつ振り返ってみたいと思います。ということで、まずはカセットテープ作品『New Teleportation』(201212月リリース)からいきましょう。

あの作品に関しては、まず「80年代末くらいにメジャー・レーベルに送られてきたであろうインディペンデントに制作されたデモ・テープ」というコンセプトがあったんです。

僕の青春時代はちょうどCD-Rのリリースが増えた頃だったんですが。その時期はGarageBand(アップル社が開発した音楽制作ソフトウェア)が普及したのもその頃だったから、だいたい2004年あたりのことです。

ーー誰もが簡単にレコーディングできるようになって、インディー・シーンに自主制作のCD-Rが出回りはじめた時期ですね。

そうです。僕はその頃から、今でもよく見かけるようなCD-R作品群に「物」としてあまり魅力を感じられなかったんです。製品らしさもないし、そういうCD-R作品をあまり買って聴く気にもなれなくて。それなら自分は、高校生の頃から好きだったカセットMTRで「80年代末くらいにメジャー・レーベルに送られてきたであろうインディペンデントに制作されたデモ・テープ」を作ってお店の同じ棚に並べたいなと。そんな意地悪な考えもありました。

ーーそのカセットMTRはいつ手に入れたんですか。

高校生の頃ですね。で、それを後輩に自慢したら、その後輩が「僕も買いました」と言ってきて、新しいデジタルMTRを僕に見せてきたんです。そうしたら、そっちのほうがはるかに音がいいっていう(笑)。

ーーそれから“New Teleportation”はシリーズ化して、20138月には『New Teleportation 2』がリリースされています。こちらについては?

『2』に関しては、1作目の宅レコ感を残しつつ、もうちょっとハイファイでクリアな音で録ってみたいという感じでした。そのときMTRを変えたんです。そのMTR2004年に発売されたハードディスクに記録していくタイプのデジタルのものでした。

ーーほう。つまりそれは、それこそGarageBandが普及した頃のハードを、あえて使ったということ?

はい。2004年頃はDTMが徐々に市民権を得ていく一方で、スタンドアローン機(ワープロに代表される孤立機器のこと)が売れなくなっていった時期であったと思います。パソコンを使えば、安価に、誰でも手軽にレコーディングできるようになっていく。でも、本来はレコーディングというのはものすごくめんどくさくて時間がかかって、本当はお金もかかる作業だと思うんです。

そしてその全く逆の話なんですが、僕はFRUITYというバンド(現YOUR SONG IS GOODのサイトウジュン率いた90年代のパンクバンド)などの作品からも影響を受けていて。たとえば一発録音に使用するラジカセを、スタジオのどこに配置するかといった、そういう録音のこだわり方にものすごく面白さを感じたんです。一見単純そうに見えて実はフィジカルな試行錯誤が作品に残っているように思えて。そう言った思いが混ざり合っていって、2004年頃の実機を使用してめんどくさいことをいっぱいやろうと思うようになったんです。他にも含まれる思いは色々とあったのですが。

とにかく僕は現代のインディーの、「もの」を制作するスタイルに対して不満を持っていたので。

ーーその不満というのは?

最近インディーズから発表される作品に触れるとき「せっかくインディーズなんだからもうちょっと色々と凝ったほうがいいんじゃないか?」みたいな気持ちになることが多くあったんです。色々と安くパッパと済ませてしまうことはインディペンデントらしくない気もして。

ーーだからこそ、同時代の人たちも録音の細部にもっとこだわるべきだと。

はい。要は、周りで通念として広がっているように思えた「ローファイ」と、僕の思う「ローファイ」には違いを多く感じたんです。少なくとも“New Teleportation”シリーズを作っていた頃に関しては。

ーーというのは?

僕が求めていた「人が操作するメカが醸し出す感じ」と違いました。だから、同時代のインディーズにあった録音物のムードが、僕はあまり得意じゃなかった。よく友達とも、いい音と悪い音について話すんですけど、あまり共感できなかったりしたし。

ーーその感覚はなんとなく理解できます。だからこそ、『恋する団地』(ミニアルバム。20147月リリース)のものすごくウェルメイドなサウンドが「インディー」というフィールドに放たれたことは、ものすごく痛快でしたね。

そう言っていただけると、つくった甲斐がありますね。あれは名刺代わりの一枚というか、とにかく“New Teleportation”シリーズの流れの先で、一度キレイにキレイに録ろうとした作品だったので。エンジニアの池内亮さんと一緒に作れたことも、すごく大きかったです。

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ーー更にいうと、「犬にしても」も、そのムード的なローファイとは対極の作品だと思うんですよ。というのも、この作品はほぼ宅録的な環境下で制作されたそうですが、むしろ質感としては『恋する団地』とそこまで大きく変わらないというか。これはどういうことなのかなって。

『恋する団地』はレコーディングとミックスが池内さんで、マスタリングはマイクロスターの佐藤清喜さんにお願いしたんですけど、その時の仕上がりがすごくよかったので、『犬にしても』はミックスから佐藤さんにやってもらったんです。レコーディング作業の時に佐藤さんから90年代当時の話をいろいろ聞いて。「犬にしても」のテーマは「90年代の頑張ってる自主制作デジタル録音」ってことなんですけど。

ーーなるほど。

New Teleportation 2』の録音に使ったYAMAHAのデジタルMTRを、今度こそ使いこなしてやろうと思って、マイキングも佐藤さんにいろいろ教わって、その時代のマイクプリアンプを手に入れて。コンデンサーマイクもリボンマイクも多用して録音しました。スタジオには当然プロトゥールズもあるんですけど、それもぜんぶ取っ払って、自分のこだわりに寄せて録る。結果的には、それがうまくいったんじゃないかな。

ーーここまでのお話をすこし整理すると、東風さんのディスコグラフィは『New Teleportation』の「80年代のデモ・テープ」からはじまって、『犬にしても』で「90年代のデジタル録音」にいたるっていう

そうです、ちょっとずつ今の時代に寄ってきてるんですよね。

ーーあと、『New Teleportation 2』以降はストリングス・アレンジがふんだんに使われていますよね。東風さんは、スコアの書き方をどうやって覚えたんですか。パンクのシーンを出自としながらもストリングス・アレンジが出来るひとって、他にあんまりいないと思うんですが。

僕は、3歳からピアノを習わされていたんです。結局それは小6で辞めちゃうんですけど、それをいま思い出しながらやってる感じなのかも。あと、90年代のポップスってストリングスがたくさん使われてたじゃないですか。そういうものが自分にも刷り込まれてるんだと思う。当然、ロジャー・ニコルスの影響もすごく大きいし。菅とか弦に限らず、どんな楽器にも興味があります。今のところ、民族楽器以外。

ーー民族楽器以外?

それは僕が、「分かりやすくポップスに関係するような楽器」を修理する人間だからってことかもしれません。自分が直したりして触るようなものにはやっぱり興味を持つんですが、、、

ーーインストゥルメント・エンジニアとしての仕事が、ayU tokiOの音楽性にもおおいに反映されていると。そしてもうひとつ、ayU tokiOの音楽的なルーツがうかがえるトピックとして、「犬にしても」には来生たかお〈官能少女〉、そして同じく来生たかおと斉藤由貴のデュエット曲〈ORACION-祈り〉が、ボーナス・トラックとして収録されていますよね。この選曲については?

〈官能少女〉について話すと、僕は年に一度必ずあだち充の『みゆき』を読み返すか、アニメを見返すんですけど、その挿入歌に使われていたのが、この曲だったんですね。〈ORACION-祈り〉に関しては、平澤さん(なりすレコード主宰の平澤直孝)に斉藤由貴のコンサートに連れて行ってもらって。それで「〈卒業〉の人」くらいの知識で見に行ったんですけど、知ってる曲はビシバシでてくるし、隣で平澤さんは泣いているし、もう最高だなと思いました。その後平澤さんから借りたCDに〈ORACION-祈り〉が入ってたから、これをMAX(やなぎさわまちこ。ayU tokiOの鍵盤/コーラス担当にして、かつて猪爪がメイン・ソングライターを務めていたバンド=MAHOΩの元メンバー)と一緒に歌ったら、平澤さんも喜ぶかなと思って。

ーーこの東風さんのヴォーカル、かなり来生さんの歌い方に寄せてますよね。

もっと精進しなきゃいけないなと思いました。来生さんの歌い方はものすごいキザでカッコいいですよね。僕はカッコつける人が好きです。もっというと、日本人的なカッコつけ方が大好きです。

ーーここ数年、シティポップという言葉とともに再評価されたミュージシャンがたくさんいたじゃないですか。でも、来生さんはニュー・ミュージックの方ですよね。つまり、どちらかというとフォークの文脈上にいるひとであって、黒人音楽の影響から生まれたシティ・ポップとはちょっと違う。そこにいま東風さんが注目したのはすごく興味深いなと思って。

僕のムードに大きく影響しているのは、リチャード・カーペンターやバート・バカラックだと思います。バート・バカラックなんて、まわりが殺伐としたことを歌っていた頃に、〈世界は愛を求めている〉なんていうポップミュージックを送り出しているんだから素敵です。僕もそうでありたいと思います。

ーーまさに来生さんもそっちですよね。

来生さんは最高です。ちょっとキザにするのは人生のテーマの一つにしたいです。

取材・文/渡辺裕也
撮影/豊島望

ayU tokiO

猪爪東風(イノツメアユ)によるソロ・プロジェクト。
the chef cooks meのギタリストやMAHOΩでのソングライターとしての活動を経て、2013年よりカセットテープ・フォーマットのシリーズ『NEW TELEPORTATION』をsuburbiaworksよりリリース。
ライヴではヴァイオリン、ヴィオラ、フルート、キーボード、ギター、ベース、ドラムスなどのサポートメンバーを迎えての大人数バンドセットから単独での弾き語りまで、様々な編成で活動中。

2014年、初の全国流通盤CD『恋する団地』を発表。

2015年、『NEW TELEPORTATION1+2』『恋する団地』のアナログLP版をリリース。

2015年、秋、7インチEP『犬にしても』を発表。
2016年、1stフルアルバム『新たなる解』、7インチEP『乙女のたしなみ』発表。

その他、若手シンガーソングライターのプロデュースやアイドルユニットの楽曲リアレンジ、レコーディングに録音エンジニアとして参加する等、幅広く活動中。

公式サイト:http://www.ayutokio.net/ 

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