ナツ・サマー最新シングルEP発売記念インタビュー 東洋化成末広工場 体験レポート付き!
洗練されたポップ・センスとレゲエの心地良いビートを併せ待ったシンガー、ナツ・サマー。今年7月にデビュー・シングル「夏・NATSU・夏」をリリースして注目を集めた彼女の最新シングル「Tropical Winter」が、2枚のEP「トロピカル・クリスマス」「一緒に夢を見ましょう」としてリリースされる。そのリリースにあたって、ナツ・サマーが東洋化成の末広工場を訪問。レコードを内袋に入れ、ジャケットを同封して出荷状態にする〈仕上げ作業〉を体験した。実はこれまで何度も末広工場に来たことがあり、「ここで働きたいと思ったこともあるんです」と言う彼女は東洋化成の大ファンで、作業着を着ただけで大喜び。スタッフの話に熱心に耳を傾けながら、一枚一枚丁寧に作業をこなしていった。そんな彼女に作業の感想や新作について話を訊いた。
取材/文:村尾泰郎
撮影:福士順平
——初めて仕上げ作業をやってみていかがでした?
「感激しました! レコードを内袋に入れる時に、きちんと向きが決められていたり、そこまで考えているのって日本ならではだなって思いました」
——作業のなかで、とくに印象に残ったところは?
「これが皆さんの手に届くんだなあって思ってやっていたので、レコードを内袋に入れる時は緊張してしまって、ちょっと手が震えましたね。でも、ジャケットを入れていく作業は楽しかったです。作業員の方がナツサマーのレコードをかけてくれたりして、もうノリノリでした(笑)。仕上げ作業も良いですけど、プレスを見るのも好きなんですよ。巨大な機械が規則正しく〈ガシャン!〉ってプレスするのを見ながら、こうやってレコードが出来るんだなあって」
——そういえば、これまでにも末広工場に来られたことがあるそうですね。
「今回で5回目です」
——5回も!
「夏に7インチを出させてもらったんです。その時にカッティングに立ち会ったんですけど、その時は座って見ているだけで。作業させてもらうのは今回は初めてです。作業着を着てテキパキ働いている職人の方々を見て〈カッコいい!〉って思いました」
——ナツ・サマーさんも似合ってましたよ。
「ありがとうございます。初めてこの工場に来た時、〈ここで働きたいな〉って本気で思ったんですよ。でも、家から遠いなあって思って」
——どんなところに惹かれたんですか?
「そもそも職人さんが好きなんですよ、前世に何かあったのかって思うほど(笑)。ひとつのことに打ち込む、その道のプロフェッショナルの方ってカッコイイなって思いますね」
——働くなら、どのセクションが良いですか?
「プレスかな、やっぱり」
——カッティングとかじゃなくて?
「ああ、カッコいいですね! カッティング、教えてもらいたいです。いま、手塚さんと西谷さんのお二人だけですもんね、やられているの」
——エンジニアの方の名前もしっかり覚えているんですね(笑)。
「はい(笑)。でも、カッティングって一人前になるまで10年かかるっていうし、大変だろうなあ」
——今回、完成した7インチをご覧になっていかがでした? どちらもカラービニールが映えてましたね。
「すごく綺麗だなって思いました。思っていたよりクリアで。どんな色にするか、結構悩んだんですけど、やっぱりクリスマス・ソングなので赤と緑にしたんですけど、お家でかける時も楽しいと思います」
——なるほど。7インチを出そうと思われたのはどうしてですか?
「やっぱり、現場でかけて欲しかったからです」
——現場というのはクラブとか?
「そうですね。自分がいちばん欲しかったというか(笑)。今回、カセットも作ったんですけど、それも自分が欲しかったからなんです」
——でも、ナツ・サマーさんが物心ついた時には、もうレコードは無かったんじゃないですか?
「なかったですね。でも、両親が映画音楽が好きで、映画のパンフレットと一緒にサントラも集めていたんです」
——それを聴いて育った?
「いえ、そのレコードはもうカビてしまっていて聴けませんでした。モノとして見てるだけ」
——じゃあ、実際に聴くようになったのは、いつ頃からのことだったんですか?
「大学の時にクラブで歌い始めたんですけど、その時に7インチを目にするようになったんです。それまでは12インチしか知らなかったので、こんな可愛いレコードがあるんだと思って。それでレコード屋さんに出入りするようになったんです。でも、その頃は家にターンテーブルがなかったので、家ではCDを聴いて、レコードはクラブで聴いてました。大学を卒業してから、DJをやりたいと思って、テクニクスのターンテーブルを2台買ったんです」
——じゃあ、クラブでは歌とDJをやってたんですか?
「DJは繋げるのがうまくできなくて、結局やらなかったんです。家ではやってましたけど(笑)」
——家DJ(笑)。そもそも、どういう経緯でクラブで歌うようになったんですか。
「友達に誘われたんです。〈友達がDJをやってるから歌いに行かない?〉って。それで誘ってくれた子と二人で歌ったんです」
——それまで何か音楽活動とかはやられてたんですか。
「やってないです。カラオケで歌うくらい。子供の頃に合唱団に入ってましたけど」
——歌うことは好きだったんですね。
「好きでしたね。その友達に誘ってもらってクラブで歌ってみて、すごい緊張するし恥ずかしいけど、楽しいなって思ったんです」
——ちなみにその時はどんな歌を歌われたんですか?
「R&Bのカヴァーです」
——具体的に言うと。
「DOUBLEやbird(照)。その時はR&Bばっかり聴いてたんですよ。久保田利伸さんのラジオとかよく聴いてましたね」
——レゲエとは、いつ出会ったんですか。
「初めて歌った後、すぐ別の友達に〈一緒に歌わない?〉って誘われて。彼女がレゲエが好きだったんです。その時、付き合ってた彼もレゲエのDJをやってたりして。誘ってくれた女の子とは、二人でジャマイカの国旗を身体に巻いて歌ったりしてました(笑)」
——すっかりレゲエに染まって(笑)。それは上京してきてからのことですか。
「まだ愛媛にいる頃です。地元ではCDを出したり、フェスに出たりしてたんです」
——なるほど。それで東京進出の夢が膨らんでいったと。
「そうですね。あわよくばと(笑)。でも、そんなに現実的に考えてたわけではなくて」
——そんななかで、ナツ・サマーとしてデビューすることになった経緯というのは。
「プロデューサーのクニモンド瀧口(ポップ・ユニット、流線形の中心人物で、ソングライター/プロデューサー/DJとして多方面で活躍中)さんにお会いして、2年くらい方向性をいろいろ探ってたんです。それで去年の夏ぐらいから制作に入って、今年の夏にデビュー・シングル『夏・NATSU・夏』を出しました」
——結構、時間をかけて準備されたんですね。
「自分としては、あまりガッツリとやっていきたくなかったんです。仕事をしながら、3ヶ月に1回ぐらいライヴをやって……ぐらいで、ゆるく続けていければいいかなって思ってました。今もゆるいですけど」
—これまで、すべての曲の作詞作曲をクニモンドさんが手掛けていますが、どんな曲を歌うかはクニモンドさんにお任せなんですか。それとも2人で話し合って?
「私の方からもいろいろ言ったりするんですけど、瀧口さんがブレないようにちゃんとプロデュースしてくれてます」
——例えば「トロピカル・クリスマス」については、どんな話をされたんですか。
「90年代のトレンディ・ドラマみたいな感じかなって。遠距離恋愛の歌詞で、彼がクリスマスなのに帰ってこれない。仲間と過ごして寂しさを紛らわしたりするんだけど、ふとした瞬間に彼のことを思い出したりして、、そんな切なくなる曲です。MVも作ったので観てみてください。これまで私自身、寂しいクリスマスを過ごすことが多かったんで(笑)、歌詞にはすっと入れました。きっと瀧口さんは、私の性格とかを、ちゃんと理解されて歌詞を書かれたんだと思います」
——さすがプロデューサーですね。サウンド面ではどんな話を?
「具体的にはキーのことぐらいしか話をしてないですけど、佐野元春さんの〈CHRISTMAS TIME IN BLUE〉っていうクリスマス・ソングみたいに、毎年かかる定番のクリスマス・ソングを作ろうっていう話しはしました。〈CHRISTMAS TIME IN BLUE〉はレゲエの曲なんですけど、私が愛媛のクラブで歌っていた時、クリスマスには必ずかかる曲だったんです。DJ全員がかけてましたね」
——もう一枚のEP「一緒に夢を見ましょう」は?
「これも、ちょっと悲しい歌詞なんです。〈悲しい歌はあまり歌いたくないんですけど…〉って瀧口さんに言ったんですけど、〈こういう曲が1曲あってもいいんじゃない〉って説得されて」
——どういう内容の歌詞なんですか。
「嫉妬に狂う女性の話です(笑)。初めて歌った時は泣いちゃいました。こういう女性の気持ちもわかるし、曲を聴いて共感する人もたくさんいるんじゃないかと思います」
——やっぱり、歌う時は歌詞の世界に気持ちが入ったりします?
「入りますね。歌入れの最初の頃、気持ちが入り過ぎちゃって、瀧口さんから〈ちょっと圧があり過ぎるから、もうちょっと軽く歌ってみて〉って言われたりして。でも、重い内容だけど曲はすごいオシャレなので、そのギャップを楽しんでもらえたら良いなと思います」
——ヴォーカルに関して意識していることはありますか。
「まわりから〈あまりうまく歌わないで〉って言われることは多いですね。こっちとしては一生懸命練習してレコーディングに挑むので、〈あれ、ちゃんと歌わなくていいの?〉って思ったり。でも、歌詞がしっかり伝わるように歌う、っていうことは昔から心掛けています」
——ソウルフルな節回しはつけずにナチュラルに歌われてますよね。だから、レゲエとか聴いていない人にも親しみやすいというか。
「だとしたら嬉しいです。瀧口さんからも〈あんまり力を入れずにストレートに歌ってほしい〉って言われてるんです。でも、私は元々そんなクセのある歌い方をしてないので、聴く人にとっては物足りないんじゃないかな? と思ったりするんですけど」
——思い切りソウルフルに歌ってみたいとか思います?
「それはないですけど、いつかバラードは歌ってみたいと思ってます。瀧口さんにも〈バラード歌いたいです〉って言ってるんですけど、〈うーん〉って感じで」
——バラード、是非聴いてみたいです。そういえば、今回のEPのジャケは永井博さんのイラストですね。ビル街にクリスマスツリーがぽつんと飾ってあって曲のイメージにぴったりです。
「もともと永井さんの絵が大好きで、展覧会に行ってお話させて頂いたりしたんですよ。それで、永井さんの引っ越しのお手伝いをすることになって。私、愛媛で何ヶ月か引っ越し屋で働いてたことがあるんですよ(笑)。それがきっかけです。」
——引っ越しのおかげですね。
「きっと働きぶりを気に入って頂いたんだと思います(笑)」
——ジャケットをじっくり楽しめるのもレコードならではですよね。CDよりサイズがい大きいし飾ったりできる。
「そうなんですよ! カセットと7インチとCDを並べて眺めながらお酒を飲みたい(笑)」
——美味しい酒が飲めそうですね(笑)。今後の予定は?
「来年の夏はいろいろフェスに出て、もっとナツ・サマーをアピールして、海外でもライヴをやりたいですね。あと、アルバムも出す予定です」
——来年はナツ・サマーの夏になるわけですね。そういえば、このユニークなアーティスト名の由来は?
「2年前に決まったんですけど、その頃、ドナ・サマーが亡くなったんですよ。それで私の本名が〈なつき〉って言うんですけど、瀧口さんが〈じゃあ“ナツ・サマー”でいいんじゃない?〉って。シモキタの焼き鳥屋で言われたんですけど、私は〈はあ〉って感じでした」
——抵抗はなかったんですか。「冬はどうするんですか?」とか。
「確かにまわりから〈冬だと“フユ・ウィンター”なの?〉って言われたりすることもありますけどね。そこは一年通じてナツ・サマーを貫こうと」
——一年を通じて、夏でレゲエだと。
「そうです。でも、今回クリスマスソングを歌って、ちょっと裏切った感ありますよね」
——でも、トロピカルだし、レゲエだから、筋は通してますよね。この感じで季節を通じて歌えるんじゃないですか。
「そうですね。春には卒業ソングとか良いかも」
——念願のバラードで。
「がんばります(笑)」
Natsu Summer(ナツ・サマー)
【プロフィール】
愛媛出身、東京在住のシティポップ・レゲエシンガー。海沿いに住んでいた幼少の頃からシティポップやレゲエを聴いて育つ。音楽と自然を愛するナチュラルなキャラクターが、親しみやすくファン心をくすぐる。クニモンド瀧口のプロデュースで、2016年7月6日発売シングル『夏・NATSU・夏』でデビュー。DJやレコードを買う音楽好きを中心に注目され、数々のイベントからオファーが殺到。12月14日に2nd EP『Tropical Winter』発売決定。ジャケットは永井博氏によるイラストレーション。
CONTACT: cooleveningrecords@gmail.com
Twitter : http://twitter.com/natsusummer888
OFFICIAL SITE : http://www.natsusummer.com/
【作品情報】
2016/12/14(水)2タイトル同時発売!
EP「トロピカル・クリスマス/ X’DUB “mixed by Jagabe”」
レーベル:THINK! RECORDS/品番:THEP412/価格:1,836円(税込)
(収録曲)
A1. トロピカル・クリスマス B1. トロピカル・クリスマス(X’DUB“mixed by Jagabe”)
EP「一緒に夢を見ましょう/ Dub from Dream “mixed by e-mura”」
レーベル:THINK! RECORDS/品番:THEP413/価格:1,836円(税込)
(収録曲)
A1. 一緒に夢を見ましょう B1. 一緒に夢を見ましょう(Dub from Dream“mixed by e-mura”)