Last Update 2023.12.27

Interview

No Lie-Sense(鈴木慶一+KERA)「Twisted Globe」発売記念インタビュー

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ムーンライダーズでの活動はもとより、映画音楽などさまざまなジャンルにおいて音楽家として唯一無二のことをやり続けてきた鈴木慶一。かたや有頂天、KERA & Broken Flowers、ソロなどの音楽活動だけでなく、演劇界においても唯一無二のことをやり続けてきたKERA。この二人が組むことで、さらに唯一無二のサウンドを作り出す。そんなミラクルを毎回起こしてきたユニット、No Lie-Senseが約3年半ぶりとなる新作『Twisted Globe』を12月27日にリリースする
前作『駄々録~Dadalogue』(2020)はダダイズムをさらに曲解&暴走させた一大巨編アルバムであったが、今作は5曲入りアナログ10インチのミニ・アルバム。自身のバンドはもとよりソロ、別ユニットなどをアナログでも積極的にリリースしてきた両者ならではの粋な試みであり、アナログ・レコード愛好家には最高の贈り物だ。
結成10周年を迎え、今なお唯一無比であり続けるユニットの特性から新作の話まで、鈴木慶一とKERAに語ってもらった。
取材・文:小暮秀夫

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10周年で10インチ
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――今回アナログだけで出すという発想は、制作に入る前からあったのですか?
鈴木慶一(以下・慶一):作っている途中で、10インチでいこうと。10周年で10インチ(笑)。
――CDとアナログの両方出すのかと思ったら、今回はCDはないわけですよね。
慶一:ない。配信もない。とりあえず先行は10インチだけで。10インチだけで出すってのは、私は生まれて初めてだね。10インチ自体、出したことがないもんな。今までに。
――KERAさんは今回アナログだけでリリースすることについては?
KERA:面白いんじゃないかなと思いますけどね。 やっぱり10インチは懐かしいなっていう感じ。
慶一:私だともうガキの頃に、イージーリスニングなクラシックを集めたホーム・ミュージック集とか、ダークダックスが世界各国の民謡を歌うのとかがあったね。沖縄民謡も10インチで子供の頃初めて聴いた。
――世代によって10インチに対するイメージが違うわけですよね。テクノポップ/ニューウェイヴ世代だと、YMOの『増殖』とか。
KERA:あー、そうか、あれが10インチか。
――変わったジャケット仕様だなと思って買ったら……
KERA:外側が段ボールで。
慶一:苦肉の策のアルバムだよ、あれは。最高に面白いけど。
――近年、海外での再評価が高いペッカーの『インスタント・ラスタ』や坂田明さんの『テノク・サカナ』も10インチでした。日本のインディーズ・レーベルからも色々なバンドが10インチを出していましたよね。
KERA:VOICE(立川芳雄氏のバンド)とかね。
慶一:タイツ(一色進氏のバンド)とか10インチなかった?
――『ゴールデン・ポップス』がそうでしたね
KERA:8 1/2(久保田慎吾氏、上野耕路氏が在籍したバンド)もあった。
慶一:2曲じゃなくて、もうちょっと入るってことだろうな。シングルと違って。
KERA:10インチって25センチじゃないですか。ナゴムは20センチ(8インチ)は出したことあるんですけど。オレンジチューブとか、空手バカボンとか。25センチはないですね。でも、なんか、らしいんじゃないですか。No Lie-Senseには。
――今回のレコーディングはミニ・アルバムを作ろうというところからスタートしたのでしょうか?
KERA:それはそうですね。
慶一:最初は4曲。一人2曲ずつ、計4曲でミニ・アルバムにしようと思ったら、10インチになったんで、もう1曲増やしたらどうだろうかと。インストでね。で、KERAに作ってもらって。
KERA:結局、最後に歌入れてるんですけど。
――それがB面の最後を飾る「デンドロカカリヤ」ですね。
KERA:最初はインストのつもりだったんですけど、慶一さんが最後歌おうよって。
慶一:ちょこっとつけたほうがいいんじゃないかなって。

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色々なアイデアをぶち込みやすい
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――今までNo Lie-Senseはスタジオでそれぞれのアイデアをキャッチボールしながらふくらませていくような作り方をしていましたよね。
KERA:いつもそうです。こういう作り方するのはNo Lie-Senseだけなんで、僕が関わってるのでは。
慶一:断片を準備するっていう感じだよね。
――KERAさんの場合はソロや自身のバンドをやる時には、事前に曲をきっちり作り込んでいく感じですか?
KERA:バンドは2人じゃなくて、もっとメンバーが多いじゃないですか。昔は鼻歌でみんなでアレンジしたりしましたけど、 今はある程度デモの段階まで誰かの力を借りてデモにして、それを若干いじくったり、全くいじくらなかったりみたいなことが多いですね。No Lie-Senseはその断片の素材を初めて聴いた日に形にし始めますから。すごいスピード感だとは思いますね。例えばKERA & Broken Flowersって、まだ1枚も音源出してないんですけど、アルバム作ろうかみたいなことには、ずっと前から言ってるんです。でも、デモテープを集めて聴いても、「これをどういうアレンジにしたらいいんだろう?」 ってみんな慎重になって、なかなか進まない。それに比べると、全く別のものですね。素材を持ってきたら、下手するとその日の夜には曲になってるっていう。今回、僕は初めてコードから曲を作ったんですけど、それもインスタコードという(指1本でコードが弾ける)楽器を買ったからなんですけど。
――KERAさんがインスタコードを買った理由は?
KERA:コードの楽典的な知識がないから、ボタン押すとそのコードの並びの和音が出るので、色々便利かなと思ってですね。買って割とすぐ、スタジオにもっていってみたんです。なんか使えないかなって。
慶一:インスタコード使い倒してるね。ほとんどの曲で。生涯初めて?コードから曲を作るのは。
KERA:いや、鍵盤でやったことはありますけど、今世紀初めてかもしれない。
慶一:いつもメロディを持ってきて、それにコードを付けていくんだけど、今度はインスタコードのおかげで、コードがある。
KERA:メロとコードを持ってきてって感じで。でも、そのコードとメロしかないから、どんなサウンドになるかわかんないじゃないですか。それで午後2時か3時ぐらいにゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ氏)のスタジオ(Studio no-nonsense)に行って、夜の9~10時にはそれがサウンドに彩られているっていう、夢のような(笑)。今後もよそではあんまりないんじゃないですかね。コロナの時に作ったカバーのソロ・アルバム『まるで世界』とかはそんな感じでしたけどね。原曲を持ってって、これをどうしようかって言って。 それはNo Lie-Senseの作業が頭の中にありましたよね。慶一さんは他の人とやってるバンドとかユニットとかで、こういう作り方をしたりするものってあるんですか?
慶一:ビートニクスは何も無し。現場でリズムから作る。ま、曲によっちゃ準備してるのもあるけど。(パソコンの)ビートニクス・フォルダーに入っているものをもっていくとか。ムーンライダーズはデモを集めるね。鈴木マツヲ(鈴木慶一&松尾清憲)もデモ集める。断片をいじくっていくっていうのは、No Lie-Senseだけだよね。断片があるということによって、これを1日でどこまで行けるかなというようなことだ。その断片がKERAの場合、メロディとコード、この2つだけなんで、イントロを考えたりとか色々なアイデアをぶち込みやすい。デモがしっかりしてる人は、もう壊せないっていうか、変更があまり必要ないってことになる。だから私も、割と最小限の音だけを持っていって、それでゴンドウくんのスタジオでさらに練り込んでいって被せていく。ライダーズだったら全トラック分持っていくけどね。もちろん、元の断片がなければ進まないと思うんだ。でも断片があれば、1日で結構いけると思う。(高橋)幸宏の場合は、選曲を担当したベスト・アルバム(『THE BEST OF YUKIHIRO TAKAHASHI [EMI YEARS 1988-2013]』)のライナーにも書いたけど、ミニマリストなんだよ。ミニマルっぽいフレーズがずっと続くのとかをアレンジメントしていくわけで。 それと違ってKERAのはすごいメロディアスだったり、「これ、歌えんのかな?」っていうぐらいのとてつもないメロディだったりするの。全く違う。

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やばい世の中になってきてる感じがする
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――ビートニクスは、世の中に対して怒りがある時にそれが原動力となって始動する、と言われてきました。No Lie-Senseの場合はそういう後付け的な始動理由みたいなものはあったりするのでしょうか?
慶一:なんとなく始めようか(笑)。いや、これはね、「頃合いだぞ」っていうのがあるんだよ。
――いつでもいいというわけではない?
慶一:なんかね。
KERA:スケジュールは大きいですけど、でも、なんかありますよ。そろそろじゃないかっていうのが。
慶一:KERAはいっぱいやってるから。それこそ、Broken Flowersとか有頂天とか。ソロもあるし。で、プラス芝居じゃない? まずね、KERAのスケジュールがここからここまで空いたとするじゃん? そうすると、大体KERAがやりたくなる。そこである程度、半分ぐらいでも行ければ行くと。で、スケジュールが空いてるところで点々点々と録っていくわけ。今度もそうだね、5月に録って、間空いたよね。芝居が始まっちゃった。
KERA:色々なことを芝居の合間にやろうとするんですけど、ぐったりしちゃうってのもあるし、 なかなかうまいことスケジュールが埋まらないんですよね。そろそろまた芝居で忙しくなるぞっていう頃に、やれ芝居のDVDの編集作業だとか色々入ってくることが多くて、なかなかスケジュールは難しいですね。No Lie-Senseも今年10年目なんだそうですけど、気が付けば(笑)。 やってる自分たちよりも周りが変わってったなっていう気がするし。 今、ほんとやばい世の中になってきてる感じがするし。社会的なこととか、友達関係もそうだし、あとレコード/CD業界もそうですよね。 どこでも聴けるものとしてCDってとらえてたけど、特に音楽関係の現場では、リハーサル・スタジオにCDプレイヤーないし、下手するとレコーディング・スタジオにもなかったりする。芝居の稽古場もCDで音楽流したりしてたんですけど、もう(CDラジカセが)ないって言われて。CD聴けない。みんなデータでパソコン出しなんですよ。物販でCD売ってたりするじゃないですか。でも買う人全員が聴けるわけじゃないらしいんですよ、どうやら。買いはするけど聴けないっていう。で、自分は相変わらずハード派なんで、CDで。本当に好きな映画はDVD、ブルーレイで持っていないと。
――慶一さんもレコードやCDに愛着がある世代ですよね。
慶一:選択するけどね。これは持ってなくてもサブスクでいいかなと。それはあるよ。そんなこと言って墓穴掘りだなあ。
KERA:僕も昔ほどめったやたらにCDとか買わなくなりましたけど。ジャケットがあって、歌詞カードがあって、アルバムだったらコンセプトがあって、(それに沿った)曲順があってっていう世代なので、バラバラで聴かれてもね。「デンドロカカリヤ」だけ聴きます、とか言われても(笑)。いや、全部聴けよっていう。

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変なことをしようという意思がなくても変になる
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――A面の1曲目は「ディストピア讃歌」。今の時代に対する強烈な一撃ですね。世の中は不穏さがますます増してきていますから。
慶一:今年は特にね。まあ2020年からコロナ、ウクライナ、イスラエルっていうのが続いてるからな。だから、未来を描こうとして作ってるけど、ディストピアとか、そんなに1000年単位で考えられないって感じだよな。人間は1世紀は生きられない。万年億万年太陽は輝き続ける。今は中世よりましなのかどうなのか、比較すること自体が無意味な気もする。産業革命以降のスピードの中に生きてるってことは確かだ。
――「万歳人間」って言葉がストレートに伝わらない世の中になっていますしね。ここでも、ものすごくアイロニカルな響きがあるというか。
KERA:まあ、伝わらない前提で歌ってますけど。
――A面2曲目は慶一さん作詞・作曲の「越し難き敷居を蹴る時」。
慶一:これは(本作のレコーディングの)事前に作ったね。リズムのズレを利用した、ちょっと昔の……旧・現代音楽的な感じのものを作って、これはNo Lie-Sense向きだぞとKERAとゴンドウくんに録音当日データを送って。これは完全にミニマル・ミュージックの影響の強いものであり、そこにエレクトロニカと違う感じのノイズが入る。変なことをしようと思って始めたんだけど、(二人が)集まると変なことをしようという意思がなくても(自然に)変なことになっちゃう。
――1曲目の「ディストピア讃歌」がポップな曲だから、その対比が面白いですね。
KERA:5曲しかないから、あんまり自分がそっちに引っ張られるのではなく、なんかポップなものもあった方がいいだろうっていう、(「ディストピア讃歌」のポップさは)その程度の計算ですね。違う意味でアバンギャルドなものっていうのは作れると思うんですけど、でも慶一さんみたいなのは作れないけどね。この旧・現代音楽的(笑)なものは。だから常に慶一さんの楽曲に呼応するというか、バランスを見ながらみたいな。フルアルバムだと、あとどんな感じのものが足りないのかな、とか。もう十分元気だから、元気じゃないものでいいかな、とか。
慶一:演出だよ、演出。
KERA:それがすごく楽しい作業ですね。カバーを最初入れようと思ってたけど必要ないんじゃないかなと思ったのも、最初4曲のつもりでしたから、その判断もしやすかった。10曲とか12曲とかあれば1曲ぐらいカバーがあっても、と思うでしょう。カバーも、何をやったらいいのかっていうのがもうだんだん底を尽きてきて(笑)。「チョンボマンボ」ぐらいで打ち止めになってる、ストックが(笑)。2人で歌って楽しいっていうか、なんか意味がある曲がいいじゃないですか。
慶一:「君も出世ができる」とか「チョンボマンボ」とか、あの辺は楽しくやれるからね。そういう曲がなくなってきたということなのか。
KERA:そうなんですよね。あとは、三木鶏郎の有名な曲とかになってくるから。モンティ・パイソンは権利が色々あるし。まあ、いざとなったら岸野(雄一)とかに聞けばいくらでも出てくるのかもしれませんけど。でも意外と(ほかの人に)やられてんだよね。面白いなと思うと。
慶一:もう掘りつくされた感はある。大正デモクラシーに目を向けるかな。あがた森魚さんになっちゃうか。
――B面1曲目の「モンキー・ガールズ」はイギリスのニューウェイヴ・ダブやトリップホップのダークな色彩感が音の基調となっています。この陰鬱さはまさに今の時代の不穏な空気感と合致したものですよね。
KERA:完全にそこを狙ってるんですけども。あの浮かれた世の中で聴くのと、違いますよね。ニューウェイヴで暗いのが多かったのは、世の中が浮かれてたからでしょ。浮かれるのが格好悪かったからね。
慶一:ダブとか、80年代初頭のパンク/ニューウェイヴ以降の、ちょいと方向が変わっていくような、あの辺は 重要なポイントだったからね。それをちょっと引き出してる感じはある。ようするに、未来っぽい音ってんで、じゃ、シンセサイザーかなって単純に考えたんだけど、こんなにシンセサイザーだらけの サウンドのアルバムはNo Lie-Senseで初めてなんじゃない? 生ホーンとか入れてたもんね。
――前作までは色々なゲストが参加していましたが、今回のゲスト・ミュージシャンは本日休演の岩出拓十郎君だけですよね。それは何か理由が?
KERA:ミニ・アルバムだからっていうのもあるけど、別に必要性を感じなかったからっていうことですかね。
慶一:これがあと5曲増えたらそういったこともあったかもしれないけど、5曲で必要性を感じないのと、岩出君は、「ディストピア讃歌」の混沌とした部分をさらに混沌とさせたいというので来てもらった。私、ギター弾いてないの、このアルバム。KERAが買って持ってきたインスタコードをいじっているうちに、ギターいらねえなって。ギターはない方が未来っぽいんじゃないかと。
――B面2曲目のシュールさ全開な「唾と墨汁」を経て、最後は「デンドロカカリヤ」。「デンドロカカリヤ」って、安部公房の同名小説に出てくる植物の名前ですよね。でもこれは小説自体をモチーフにしているわけではなくて。
KERA:そうそうそう。でも安部公房の土着的なSF感みたいのは、アルバムとそうかけ離れてはいない。
――「デンドロカカリヤ」って歌うのではなく「デンドロカカリヤダットゥ」って変容させたのは何か理由があるのですか?
KERA:字数です(笑)。意味はないんだけど、「デンドロカカリヤ デンドロカカリヤ」って歌うよりも最後に「ダットゥ」っていうと、それを否定だか肯定だかしているんだなって。
慶一:これ、(安部公房の小説のほうでは)「ダットゥ」はついてないんでしょ?
KERA:もともとはついてないです。

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地球に見えなきゃダメなんだ
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――今回のジャケットはチャーハン・ラモーンさんがアルバム・タイトルをポップにイラスト化していますね。
慶一:最初は地球の国の位置がちょっと違ってたんだけど、ど真ん中にエルサレムをもってきた。
――タイトルは誰の案ですか?
KERA:慶一さんです。
慶一:5つぐらい出して。全部、地球がどうのこうのだったと思うんだ。忘れちゃったけど。
KERA:なんかあんまりゴテゴテしてない方がいいかなと思って、(チャーハンには)何にも注文してないんですけど、 このタイトルと音を聴いてこれを描いてきた。
慶一:これはチャーハンは困ったであろうと。
KERA:ちょうどチャーハンはうちの芝居のパンフレットもやってて。で、還暦ライブをDVD化するんでお願いするよみたいなことを言って、それと並行してこれが動いてて。でも、パンフの入稿とかがもう近いから、「いや、その話はまた後で…」って言って、全然受け合わずに(笑)。で、アイデアは同じなんですけど、最初のラフが来た時に初めて(ケムリ研究室の)兵庫公演の時に会って。彼は関西在住なので。
慶一:最初からこんな感じだったよね。
KERA:でもね、最初は地球なのかなんなのか、よく分かんなかったんですよね。
慶一:あと、線が多かったり。そうだね。地球っぽくなかったね。で、緒川(たまき)さんが何みたいって言ったんだっけな。
KERA:地球だって分からずに、「食べ物かなにかだと思った」って言われて、そりゃまずいと思って。地球に見えなきゃダメなんだ、って(笑)。

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No Lie-Senseはベッドルーム・ミュージック
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――No Lie-Senseではどのように歌詞を書いていくのですか?
慶一:歌詞書く時は家でコンピューターの前でずっと考えてる。KERAを驚かそうと思って、一行目を一生懸命考えんの。一行目ができりゃ、あとはそんなに驚かさなくてもいいかなって。で、送信するじゃん、歌詞を。今頃驚いてるのかなぁ、どうなのかなって思いながら、それからスタジオに出かける。大体、スタジオに行く当日に歌詞を送って、歌を入れる。歌詞を吟味して、歌い方を練りに練ったりしないんだよ。これもまた特徴だね。No Lie-Senseに限らず、ムーンライダーズとかビートニクスもそうだけど、この歌詞でどうやって歌おうかなっていう節回しみたいなのは、若い頃だったら迷うだろうね。でも今のNo Lie-Senseだと、スパーンって歌うとかひっそり歌うとかなんだよ。セクシーに歌うとかはあまりないので。スパーンとスーダラ的に歌うか、ボードビル風に歌うか、クルーナー・ボイスで歌うか。で、KERAは、キャッキャキャッキャした感じで歌う。歌い方決めるのを今はとっさにやってると思うんだよね、無意識のうちに。昔はそういうのに時間がかかったけど。ってことは、昔よりも出し物が限られてきたってことだ(笑)。
――No Lie-Senseの独自性を音にしていくうえで、ゴンドウトモヒコさんと彼のスタジオが果たしている役割はやはり大きいですか?
KERA:No Lie-Senseはゴンちゃんのスタジオにどんな楽器があったかとか、そういう偶発性が大きな変化をもたらしてきてましたね、これまでも。豪雨が降ってるからって言っては、慶一さんがその雨の音を録音してリズムにしたり、外で工事をしていたら、それを録ったり。
慶一:何か分からないけど、インスピレーションが湧くんだよね。KERA:こう言うとゴンちゃんに失礼だけど、立派な高いスタジオでやる作業じゃない気がするんですよ(笑)。No Lie-Senseのやってることは。バブルの頃ならともかく。なんか落ち着いてストレスなくできる。
慶一:そこのフィット感が、どんどん 創作する推進力になるんじゃないかな、No Lie-Senseで高価なでかいスタジオに入って、「さあ、何やる?」って時にあまり何も出ないかもしれない。ああいう、いわゆる理想の自分の部屋みたいな環境でやることによって生まれる音楽なんだよね。まさにベッドルーム・ミュージックなんだな、No Lie-Senseは。
KERA:いろんな楽器が壁に飾ってあるから、そこからふっと取って、慶一さんが弾き始めたり叩いたり。高いスタジオは壁見ても壁しかない(笑)。
――普通のスタジオだと、事前に色々な楽器を自分で持ち込んだりレンタルしないといけないわけですね。
慶一:そういう手順考えるとさ、思いつきがなくなっちゃうんだよね。ライダーズの時は壁に楽器かかってないスタジオでやったりするけど、そこのスタジオは事前に申請すれば何の楽器でもほとんど出てくる。楽器に囲まれてやるっていうのがきっといいんだろうね。ギターだからギターだけ持ってきてっていうことでもない。ブライアン・ジョーンズが活躍していた頃のローリング・ストーンズみたいなもんだ。マリンバ入れたり、ハープシコード入れたり。ビートルズもそうだけど。昔のスタジオって、いろんな楽器が置いてあったんだけどね。パーカッションとかハモンドとか。
――目に止まった楽器があると、すぐ演奏して録音できたと。
慶一:そのスピード感だよね。「あ、ここになんか変なのがあるぞ。じゃあ、これ入れよう」ということ。今は普通のスタジオだとなかなかそうはいかないよね。

 

■リリース情報


アーティスト:No Lie-Sense
タイトル:Twisted Globe
発売日:2023.12.27
発売元:ナゴムレコード
仕様:10インチ
品番:NGMA-1001
定価:4,290円(税込) / 3,900円(税抜)
JAN:なし
収録曲:
A1. ディストピア讃歌 作詞・作曲 KERA
A2. 越し難き敷居を蹴る時 作詞・作曲 鈴木慶一
B1. モンキー・ガールズ 作詞・作曲 KERA
B2. 唾と墨汁 作詞・作曲 鈴木慶一
B3. デンドロカカリヤ 作詞・作曲 KERA

■イベント情報

No Lie-Sense(鈴木慶一+KERA)
ミニアルバム「Twisted Globe」 リリース& 結成10年記念ライブ

2024年3月31日(日)
東京キネマ倶楽部
http://www.kinema.jp/
開場17:00 / 開演17:30
チケット料金:
2F最前列 指定席: 9,800円(お土産付き)※ドリンク代(500円)別途必要
1F 指定席: 6,500円※ドリンク代(500円)別途必要
※未就学児入場不可