Last Update 2023.12.27

Interview

一色萌とザ・ファントムギフト「ハートにROCK!」 発売記念インタビュー

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2020年11月3日の「レコードの日」に彗星の如くデビューしたパブロック・アイドル一色萌(ひいろもえ)。普段はプログレッシヴ・アイドルXOXO EXTREMEのメンバーとして活動する傍ら、ソロとしては令和時代のパブロック/パワーポップ/モダンポップを追求するハイブリッド・アイドルとして活動を開始。

これまでにデフ・スクール、ビリー・ブレムナー(ex.ロックパイル)、コーギスら海外のレジェンド達と共演をしてきた彼女の最新シングルは、加納エミリの書き下ろしによる楽曲を、80年代後期に巻き起こったネオGSムーブメントを牽引した伝説のバンド、ザ・ファントムギフトが再結成してバッキングを務めた最強のパワーポップチューン。ナポレオン山岸、サリー久保田、チャーリー森田の3人のオリジナル・メンバーが揃いザ・ファントムギフト名義では実に35年ぶりの奇跡のレコーディングとなった。これを記念して、一色萌&サリー久保田の両者にプロインタヴュアーの吉田豪が、話を聞いた。

取材・文:吉田豪
写真:田中サユカ

――一色萌とザ・ファントムギフト、謎の組み合わせすぎて最高でした! なんでいまこんな企画が実現することになったんですか?

久保田 これは、なりすレコードの平澤(直孝)さんに「コーギスと一色さんの7インチシングル(『永遠の想い(Everybody’s Got To Learn Sometime)』のカヴァー)を出すから、最初はカップリング曲をサリー久保田グループでやるのどうですか?」って言われて。

――要はプログレアイドル(XOXO EXTREME=通称キスエク)でありパブロックアイドル(デフ・スクール『TAXI』やデイヴ・エドモンズ『トラブル・ボーイズ』をカヴァー)でもある一色さんの無茶苦茶なコラボシリーズの流れで、久保田さんも何かやらないかって話を持ちかけられて。

久保田 そうです。一応パブロックって流れで言われてたんですけど、なんでもいいって言われたんで。ちょうどその頃にGSのイベントがあって、ヴォーカル(ピンキー青木)は来ないんですけどバックの3人(サリー久保田、ナポレオン山岸、チャーリー森田)が集まって7~8年ぶりにライブやったんですよ。それがあったんで、平澤さんに「ファントムギフトはどうですか?」って言ったら、ものすごい喜んでくれて。

――そりゃあ喜びますよ!

久保田 でも、そこからがすごいたいへんで。やっぱりメンバー同士で、どうしても相容れないものがあって。

――まずそれが前提なわけですね。

久保田 4人揃うのは難しい。

一色 えーっ、そうなんだ! すごい聞かれるんですよ、「全員いるの?」って。

――「ピンキーさんは歌ってるの?」って。

久保田 僕はピンキー青木くんとやってもいいんですけど、どうしても難しくて。で、今回のレコーディングで青木くんにも電話して。

――ちゃんと筋は通してたんですね。

久保田 あ、思い出した! 最初はドラムの森田君に電話したんですよ。80年代にもアイドルブームがあったんですけど、確か、当時のディレクターが、よもやま話でアイドルとやる話を提案したんだけど「女の子のバックはやりたくない」って言って様な。それ急に思い出して。

――ダハハハハ! 当時も『ソリッドレコード夢のアルバム』で泉アキさんのバックはやってた気はしますけど、まずそこをなんとかしないと。

久保田 そうなんですよ。で、電話して「どう?」って聞いたら、森田君はパブロック大好きだったんで、それまでの流れの話をしたらノリノリになっちゃって。山岸くんは問題ないだろうと思ってたんで、青木くんがたいへんなんで、十何年ぶりに電話して。しかも電話帳を見たら青木くんの名前がもう消えてなくなってたんでDADDY-O-NOVちゃんに番号を聞いて電話したら、青木くんに「僕もう10年以上ライブとか何もやってないから好きなようにしていいよ」って言われて。勝手にファントムギフトって名前は使えないんですよ、やっぱり4人の同意がないと、なんとなく暗黙の了解で。僕はホントは青木くんにタンバリンとかコーラスしてほしかったんですけど。だけど、変な言い方ですけど萌さんとのこういう企画だし、みんなに青木くんも問題ないって言ってるしって話をしたら、時が経つにつれ段々いい雰囲気に。そんな流れです。

一色 よかった、パブロックアイドルで(笑)。

――説得材料としてそこが効いたんですね。

久保田 最終的にはドラムの森田が一番喜んでました(笑)。一色 ホントですか? たしかにいろいろ話した覚えがあります。高円寺で練習したときも、コーギスとのコラボを「聴かせてよ!」みたいな感じでスマホで流してみんなで聴いたりしましたね。よかったよかった。
――ちなみにこの話が来たとき、一色さんの反応は?

一色 話が来たというか、なりすさん主導の私のソロプロジェクト全体的にそうなんですけど、ほぼすべてのことが決まってから最後に私が聞くぐらいの勢いなんですよ。「いついつこれレコーディングするよ」みたいな。

――つまり、「まずそれは誰なんですか?」ってところから入る(笑)。

一色 私の耳に入るのは決定事項の段階なんです。でも、これに関しては、表題のほうがファントムギフトさんと一緒にやらせていただいてる『ハートにROCK!』っていう曲なんですけど、「次は加納エミリちゃんに頼むから!」っていうところから話を聞いてたんで。いままで出した何曲かのなかでは一番初期段階から知ってるもので、どうなるのかなーってワクワクする時間が唯一あった印象ですね。

――ボクもそこの段階で聞いてて、加納さん提供ということは最近のああいう曲調なのかなと思ったら。

一色 かなーと思ったらぜんぜん雰囲気が違くて。前に『豪の部屋』に出たときもお話ししたんですけど、なりすレコードのイベントで私がソロで出て、エミリさんご一緒でっていうことがあって、「エミリさん、曲書いていただいたみたいでありがとうございます」って言ったら、「大丈夫かな、クソみたいな曲を書いちゃったかもしれない」って言われて、逆に気になって(笑)。どんなのが来るのかと思ってたんですけど、すごくいい曲だったので。エミリさんの基準点の高さというか、エミリさんもいいものを作ろうと思って頑張ってやってくださったんだなっていうのがそれで伝わりました。

――これって加納さんに最初から「ファントムギフトが演奏&アレンジをやりますよ」って話はしていたんですか?

久保田 いや、たぶん僕が「ファントムギフトでやりましょうか?」って言わなければサリー久保田グループで、ハモンドオルガンとベースでやってたと思います。一色 エミリさん、ファントムギフトさんがバックをやるってなってちょっと直したみたいな話は聞いたような気がします。でも、大きくは変わってないって平澤さんが言ってたような。

――謎の組み合わせすぎますからね。でもその結果、いいものができて。

久保田 ありがとうございます。ファントムギフト名義でレコーディングするのも35年ぶりぐらいなんですよ。たまに3人で集まってライブすることはあったんですけど、35年ぶり……生まれてないですよね?

一色 そうです(笑)。歴史的なところに立ち合ってますね。
――89年にピンキー青木さんが脱退した後、違うヴォーカルでも多少活動してはいたんでしたっけ?
久保田 いや、結局決まらなくてそのままポシャッて自動的に誰もいなくなったというか。ポリドールがやるって言ってヴォーカル探してたんですけど、いい人が見つからなくて。そうこうしてるうちに時間がどんどん経っていって、なんとなく終わったという。それで2003年ぐらいかな、それも20年ぐらい前なんですけど、メジャー以外の音源をウルトラヴァイヴで再発ししたときに、ウルトラヴァイヴの社長の高(護)さんがひとりずつに電話して、やっぱ集まらない可能性が高かったんで説得して、1回だけ4人でライブやったんですよ。それ1回きりですね。

一色 すごいなあ。この情報が解禁されたときに、私を応援してくれる人は「次はこう来たか」みたいになるじゃないですか。加納さんのファンの方々も、「エミリちゃんの曲がまた聴けるぞ」みたいな感じになって。エミリさんのファンの方はキスエクとそんなに被ってるわけではないかもしれないけど、なりすレコードさんの企画でたまにご一緒させていただいたり、私もソロでご一緒する機会がなかったわけではないので、なんか見たことあるアカウントの人だったりするんですよ。でも、ファントムギフトのファンのみなさんは完全に私の知らない方々で、私のことも知らないであろう方々だから、どうしよう、大丈夫かなってちょっとビクビクしてました。で、「ピンキーさんはいないのかな」みたいな感じのツイートをけっこう見たから。
久保田 結局、萌ちゃんがきっかけで集まったっていうのもあるんですけど、ちょっと前のイベントで杉村ルイくんっていうHaiRにいて初期スカパラにいた子がゲストボーカルで歌ったらすごく評判よくて、またやってくれって感じになって来年(2023年)やるんですけど。

――おぉっ!!

久保田 それはさすがにファントムギフト名義はマズいだろうと思って相談して、ポール・ウェラーがいない、ベースのブルース・フォクストンしかいなかったFrom The JamがあったようにFrom ザ・ファントムギフトって名前にして杉村ルイくんと何回かやるんですけど。だから来年けっこうあるんですよ、萌ちゃんとも2回ライブやるし。

一色 決まってるんです、フフフ。

――現時点でまだ1回しかライブでは披露してないけども。

一色 そうなんですよ、しかもそのときはオケですしね。

――しかし、一色さんのアイドル人生もホント不思議ですよね。

一色 不思議ですよねー(笑)。
――一部の音楽マニアに届く活動を各ジャンルでやり続けて。

一色 そうなんですよ、全部一部の音楽マニア向けみたいな感じになりつつあるけど(笑)。でも、それを広く届けたいというのが私の野望ではありますけどね。

――プログレ、パブロックと来てネオGSに至るアイドルは絶対いないですよ!

一色 re-in.Carnationもちょっと不思議ですしね、あれはなんなんだ、みたいな。でも今回、楽しかったです。ソロってひとりじゃないですか。私は衣装を着て出来上がったものを歌ってくださいっていう感じになってて。もともとやらされてるアイドルをやりたくてやってるところがあって、ソロではやらされてる感を出したかったんですよ。で、まんまとやらされてるんですけど(笑)。でも普段グループでやってるからちょっと寂しいんですよね。ひとりでレコーディングブースに入って歌ってひとりだけの声の曲が出来上がってっていうのがちょっと寂しくて。で、デフ・スクールさんとかコーギスさんはバックトラックを新録してくださったんですけど、全部遠隔なので私自身は直接やり取りをしてなくて。それでもTwitterですごいリツイートしてくださったり、私がソロでライブするといまだにいいねくださったりするんですけど、デフ・スクール公式が(笑)。

久保田 すごいですねえ!

一色 そういうのはうれしいんですけど、わりとひとりだなって感じがしてて。でも今回はエミリさんもいるしファントムギフトさんもいらっしゃって、レコーディングのときもわりとワイワイしてて、ひとりじゃない感がすごくあって。それがすごくうれしかったですね。

久保田 ウルトラヴァイヴのスタジオで録ったんですけど、基本一発録りなんですよね。結局、歌もほとんど直してないんですよ。

一色 え、ホントですか?

久保田 歌ちょっと心配だったんだけど、でも萌さんすごい上手なんでどのテイクもぜんぜんOKで。

一色 よかったー! この取材の前にMVを撮ってきたんですけど、レコーディングの日もホントは撮ってたんですよね。でも私、レコーディングって聞いてて撮影があるの知らなくて、バイトをぶっちぎって行ったんですよ。衣装がいるって前日に聞いて、バイト先からスタジオに行くまでのあいだにZARAがあったんで、ZARAで30分で選んだ服なんです(笑)。30分で昭和サイケをどこまで表現できるかっていう結果の服なんですけど、けっこういい感じだと思って。

久保田 すごい早く帰りましたもんね。

一色 昼休憩抜けてそのままぶっちぎってレコーディングしてて。私は最後まで残ることができなくて。

――長めの休憩取ってたんですね。

一色 そう(笑)。

久保田 あんなに休んでいいものなんですか?

一色 わかんないですけど(笑)。
久保田 最初にエミリちゃんのデモテープを聴いたとき、単純な打ち込みとエミリちゃんの仮歌だけだったんですけど、基本的に3コードで出だしと間奏のセリフで横浜銀蝿っぽく聴こえて。

――シンプルなロックンロールだから。

久保田 そうそう、ふつうにやれば横浜銀蝿になるんじゃないかなと思ったんですけど。GSの曲で3コードってあんまりないんですよ。いろいろ考えたらムスタングの『ゲルピン・ロック』ぐらいしかないなと思って、自分たちの曲をローリング・ストーンズに送りつけたバンドなんですけど、ちょっとサイケなロックンロールで、ちょっとムスタングっぽくやろうかなって。あとは山岸くんに「何も気にせずギター弾きまくってください」っていうだけで。それでバンドのらしさは出たかなと思います。

――山岸さんのギターがかき鳴らされた瞬間に「来た!」って思いました。

一色 エミリさんのファンの方とファントムギフトさんのファンの方とみんなが喜んでくれたらいいなと思ってやってます。
久保田 大丈夫ですよ。

一色 問題ないですかね。「パブロックがサイケになっちゃったねえ」って言われました。

久保田 僕も平澤さんに言ったんですよ。「パブロックじゃないけど大丈夫ですか?」って。

一色 パブロックってなんだろうって感じですよね。

――もうジャンルはそんなにこだわらない感じなんですか?

平澤 ホントは萌さんのソロはパブロックとパワーポップとモダンポップをやるコンセプトだったんですよ。そこは守ってると思います。
――実際いままでもそんなにゴリゴリなパブロック感はないですよね。

平澤 あとパブロックって正確に言うとジャンルじゃなくてシーンのことなんで、たとえばニック・ロウとドクター・フィールグッドとイアン・デューリーって全部音楽性が違うじゃないですか。

――違いますね。

平澤 だからサリー久保田グループでやってくださいって言ったときはモッズっぽい感じができればいいかなってなんとなく思ってたんですけど。

久保田 そうですよね、オルガンとか使って。

平澤 ところが「ファントムギフトどうですか?」って言われて、「この人いったい何を言ってるんだろう、マジか!?」と思いましたもん。うれしいけど……「え!?」と思って。

久保田 まあ、ひとりずつに電話すればなんとかなるので。

一色 すごいなあ。

平澤 もともと加納さんに頼むってことで去年の春ぐらいから彼女に言ってたんですよ、「次の萌ちゃんの新曲を頼む、ドクター・フィールグッドとニック・ロウみたいなのを作ってくれ」って。

一色 すごい宿題を出されて(笑)。

平澤 「リファレンスはドクター・フィールグッドとニック・ロウだ」って。

――そこに加納さんが寄せていくんだ(笑)。

平澤 で、当時彼女がTwitterに書いてたんだよね、「ドクター・フィールグッドを聴いてる」とか。そしたら、それを覆す展開になっていってホントにビックリしました。僕はファントムギフトは高校生の頃、レッドカーテン時代のオリジナルラブとかと一緒に昔さんざん芝浦インクスティックとかで観てたんで。

一色 もともと『ハートにOK!』って曲があるじゃないですか。『ハートにROCK!』って、なんでこのタイトルに決まったんですか? レコーディングしたときは、まだ曲名なしの状態で。

久保田 仮タイトルなんでしたっけ?

平澤 「キャロル又は横浜銀蝿」じゃなかったでしたっけ。

――そんなに銀蝿だったんですか!

久保田 デモテープを聴いた段階では銀蝿にも十分アレンジできる感じでした。これジャケットをデザインしたの僕なんですけど、そろそろタイトル決めてもらわないとデザインできないって話になって。そしたら加納さんが「ぜんぜん思いつかない」って言うんで、「じゃあもう『ハートにロック』でいいんじゃない?」って言ったら加納さんから「表記は『ハートにROCK!』がいい」って来たから、じゃあそのとおりにします、と。

――そしたらROCKには「OK」が入ってる、と。

一色 結果、いい感じのオマージュになって。

――一色さんはよくわからないまま、こういう歴史的なものを背負い続ける運命にあるわけですね。

一色 どうやらそのようですね(笑)。

――ファントムギフトのことは即調べたんですか?

一色 反応がすごすぎて、さすがに調べざるをえなかったです。もちろん『豪の部屋』に久保田さんが出た回も観ましたよ。久保田さん、「レコーディングするの久しぶりだなあ」みたいなことはおっしゃってたけど、そこまで久しぶりだったとは思ってなくて(笑)。ファントムギフトという名前で何かを世に出すこと自体がその30何年のあいだに重みを増してる感じがすごくして、調べれば調べるほど「おぉ~!!」ってなってきて、いったん休憩しました、緊張するから(笑)。

――ちょっと特撮でも観ておこう、ぐらいの。

一色 いったん『カーレンジャー』観て落ち着こう、みたいな(笑)。すごいですよホントに。関わってる人たちの多さとすごさと、受け手にどう見られるかの重みみたいなものが、ソロひとつひとつ全部すごくて。だから「よくわかんないまま一生懸命やってます」のアイドルをやりたいんですけど、それでいいんだろうかっていうまじめな自分もいて(笑)。

――キチンと勉強しないと失礼にあたるのではないかっていう。

一色 そうそうそう、すごい思っちゃって。でも、一生懸命勉強しちゃうと心持ち的にキスエクと同じになってしまうので、いま葛藤してます。

――海外のベテランは会わないからそんなに調べなくても成立するけど、一緒にレコーディングするとなると。

一色 ふつうに気になっちゃいますもんね、どんな方々なのかとか。エミリさんは、ふつうにエミリさんの曲のファンだし。

――加納さんがどんどんK-POP的というか、音楽的に変わっていってるなか、新作がこれなのも面白かったです。

一色 先に行かせない、みたいな(笑)。戻ってこい戻ってこいって。

――久保田さんは一色さんをどういうふうに見てますか?

久保田 平澤さんがやってるパブロックの7インチのシリーズは知ってたんですけど、キスエクはちゃんと聴いたことがなくて。しかも最初、グループ名が読めなくて。

――それが普通です!

久保田 こないだもトークショーで、あれなんでしたっけ、駅にあるヤツ。

平澤 キオスク!

久保田 名前をど忘れしちゃって、「キスエク」って言わないで「キオスク」って言っちゃって。

一色 よく「キエスク」って言われます。

久保田 こないだライブに初めて行かせてもらって。けっこうビックリしました。

一色 ホントですか?

久保田 ホントです。

一色 いい意味ですか?

久保田 生バンドでやられてて。4人がすごくよくて、グループ自体もみんなかわいいし。で、生バンドでホントにプログレやってるんだなと思って。あと僕ずっと名前は知ってたんですけど「イッシキ」だと思ってたんですよ。
一色 そりゃそうです。キスエクも読めないしヒイロも読めないし、もうたいへん(笑)。初見殺しです。
――この前のワンマンは椅子ありだったんですか?

一色 椅子ありです、PLEASURE PLEASUREのいい椅子でみなさんにフカフカと観ていただいて。

――お客さんの平均年齢が高いから。

一色 そう、だから「保護者会」ってたまに言われてて。

久保田 プログレの好きなオジサンって長髪で、僕が中高生の頃にこういうプログレ好きなお兄さんたちいたなっていうのがそのまま歳とってるなって雰囲気すごいありましたね。

一色 そうなんですよ(笑)。

久保田 あと、BABYMETALからも流れてきたファンがいるって言ってて。

一色 そうそうそう。キスエクの最初の頃ってアイドルオタクたちにあんまり受け入れてもらえなくて、曲が長いから、長い曲やってるうちに帰っちゃうみたいなことがけっこうあって心が折れる瞬間がいっぱいあったんですけど、そこを救ってくれたのがBABYMETALのファンコミュニティというか。ひとり誰かが見つけてくれて「お、これは」ってなって、そのベビメタファン友達とかさくら学院ファン友達にワーッと口コミして連れてきてくれたことがあって、そこからアイドルファンに認められた感じが出てきたというか。

――ベビメタがそんなに活動しなくなった心の隙間をキスエクが埋めて。

一色 そうかもしれない(笑)。だから『豪の部屋』を観て、久保田さんがベビメタさん観てたって話をされてて。で、前回のワンマンはNARASAKIさんがシークレットゲストだったんですよ、NARASAKIさんが生演奏しに来てくださるから、これは久保田さん呼んだほうがいいぞと思ってたので、観ていただけでよかったです。

――今回のコラボは適材適所だった気がしてきましたね。

一色 アイドルもいろんな音楽の人たちがすでにいるじゃないですか。私もベルハー(BELLRING少女ハート)さんとか聴いて衝撃を受けてズブズブとアイドルにハマッたのでわかるんですけど。だから変な曲が来ても対応力がすごいというか、MIXを入れる文化あるじゃないですか、「タイガー、ファイアー」って。そういうアイドルの曲のあいだにいい感じに入れるのはだいぶ難しいはずなんですよね、入れられるもんなら入れてみろ、みたいな感じの曲をやってるから。だけど事前に考えてきてすごい複雑なミックスをうまくはめ込んでる人がいて。その方はヤナミュー(ヤなことそっとミュート)のオタクだったんですけど。

――ベルハーもあの曲調でちゃんとオタクがMIXを打ってましたからね。

一色 すごいですよね。それを見て、キスエクもちゃんとそういう楽しみ方ができるアイドルになってるんだなって思えたのはちょっとうれしかったです。ソロはどうかな。『TAXI』とかでミックスが入ってもちょっと困りますけど(笑)。『ハートにROCK!』だったら一緒に楽しめるような気がしますね。

――ちなみに、久保田さんはいまのアイドルをどういうふうに見てますか?

久保田 BABYMETALがきっかけでハマったんですけど、コロナになって自分的にその時点で止まっちゃった感があって。今年ぐらいからまた気持ちがリフレッシュしてきましたけど。やっぱり、さくら学院が終わった時点とか。

――そこで何かが燃え尽きて。

久保田 ちょうどコロナで@onefive(さくら学院の2019年度中等部3年メンバー4人で結成されたユニット)もそんなにのめり込めなくて。曲もそんなに好きなタイプじゃなかったんで。さくら学院は最初は知らなかったんですけど、BABYMETALを紹介してくれた友達と話してたら、「マーク・ボランを聴くならジョンズ・チルドレンも聴かなきゃダメだ」ってことでさくら学院を聴いてるうちに、はまぎんホールの公開授業に通うようになって。

一色 父兄として(笑)。

久保田 そう、父兄として(笑)。コンサートじゃないんですよ、ホントに授業を観てるだけなんです、ずっと。それと同時に乃木坂は好きなんで、坂道系は観てるんですけど。ただ初期の頃のほうが好きな曲が多いかなっていう感じはいまでもあって。

――コロナでアイドルからバンドから、いろんなものが停滞した感じはありますよね。

久保田 現場にも行かなくなったし。

一色 キスエクはわりと早々に配信ライブをやって、まだ配信ライブやってるとこが少なかった時期だったのでNHKに取り上げられたりして、逆にそれで海外の人に観てもらえる機会が増えたりして。

――そもそもキスエクは声を出す、暴れるが前提の現場じゃないから。

一色 そうなんですよ。だからライブの雰囲気もそんなに変わらず(笑)。多少はあったんで寂しくはありますけど、お客さんが体を動かしに来てるところの盛り上がりとはちょっと違ったので、そこと比べるとたしかにいろんな意味でダメージは少なかったのかなって。ただ、来られなくなっちゃった人とかけっこういるから。医療関係者の方とか教育関係者の方とかは。
久保田 そういう人たちプログレが好きそうですもんね。

一色 そうなんですよ。キスエクのファンの方、わりとそういうお堅めの職業の方が。

――高学歴な匂いがしますよね。

一色 そうなんですよね、偏差値の高い方が多いなって感じを受けてて。いちいち「なんの仕事してるの?」とは聞かないですけど、話す内容が頭いいなってことはすごく多い。だからきっとお仕事もそういう感じだと思うんですけど、来られなくなっちゃった人はいるから寂しくはありますね。こことここの対バンだったら絶対に来てるはずのあの人がいないな、みたいなことは。

――ヘタしたら亡くなってるかもしれないっていう。

一色 それもちょっと心配でしたね、ご高齢の方が多いので。だから久しぶりに来た人が「ちょっと死にかけてて」みたいなこともあって(笑)。「コロナに罹って『今夜が山です』って家族を呼ばれちゃったよ」みたいな人がいて、「生きててよかったよ!」って会話はホントにしました。

――切実!

一色 ホントによかった。現場に来てくれれば生存確認というか元気であることが確認できるので、たまに顔を出してくれるとうれしいですけどね。

久保田 BABYMETALもモッシュができなくなるから、あのぶつかり合いを楽しんでる人たちはどうなるんでしょうね。
一色 代わりになるものとか出てくるんですかね……ならないか、代わりようがないか。コロナの時期がだいぶ長引いて、それ以前のライブを知らない子がお客さんになってたりアイドルになってたりするから。逆に「ハイ戻っていいですよ」って言われたところでモッシュとか起きたらビックリしちゃうんじゃないかなって。

――復活ベルハーとかも初めて観たら恐怖だと思いますよ。

一色 ビックリ。「逃げろ!」って感じですね(笑)。
――しかし、ファントムギフトが今後も続くのはちょっとうれしいですね。

久保田 青木くんはいないですけど。

一色 戻ってくる可能性は完全にゼロなんですか?

久保田 まぁ、なんとも。。。

――ピンキーさんがちょっと難しい人らしいって噂は聞いていて。

久保田 難しいっていうか、ステレオタイプのロックミュージシャンというか。いまも多分イギー・ポップとジム・モリソンが大好きていう感じのままかと。わかんないけど、だから、そういう言動をするのがロックミュージシャンだっていう思考があるのかなと。

――いまはイギー・ポップも健康的になってますけど、自分の好きだった頃の伝説のロックミュージシャンらしくあろうとしてるんですね。

久保田 そうそう、だからファントムギフトのときも、大変でした。でも、根本的には青木くんって、本当はそんな人間じゃないと思うんですよ。ホントにもっとヤバい人っていると思うんですけど、わりとまじめで優しいというか。ただ考え方がそのままで、だから反体制を貫く感じというか。ホント……そこまでじゃないと思うんですけど(笑)。

一色 こうありたい像みたいなのがあるんですね。

久保田 ちょっと話が逸れちゃうんですけど、いまTHE FOOLSの映画のビジュアルと書籍のデザインしてて、FOOLSのドキュメンタリーを撮った高橋監督と映画の配給の人とか、本を出す東京キララ社の人とかと話してたんですけど。映画観て思ったのは、川田良さんとか伊藤耕さんってホントにヤバいじゃないですか。

――本物ですよね。

久保田 本物なんですよ。

――そりゃ何度も刑務所にも入りますよっていう。

久保田 ロックのために生活のすべてを捧げたというか。いいかどうかはわからないですけど。ロックミュージシャンはみんな、そういうのにあこがれてるのかもしれない。70年代のパンク、ニューウェーブの時期に伊藤耕さんとか川田良さんとか出てきて、SYZEとかSEXとか自殺とか……あ、これみんなバンド名ですけど、僕は高校生の時すごく感化されて。初期じゃがたらもすごかったですよね。ステージ上で放尿するんですよ。

一色 へぇ~っ。

久保田 パフォーマンスのひとつとしてね。

――当時はステージでどこまで無茶ができるのかっていう戦いが行なわれてたんですよね。

久保田 そうですね、裸になるのは当然だったし。よくみんな捕まってなかったですよね。

――遠藤ミチロウさんが1回学祭で捕まったぐらいで。

久保田 ああ、そんな事、ありましたね。ザ・スターリンのドラムのイヌイジュンさんは多摩美で僕の先輩で。山岸くんとかみんな仲間で、80年代初期の頃、八王子のライブハウスでザ・スターリンのライブやったんですよ。お客さんは僕たち5~6人プラス2~3人ぐらいで、10人もいなくて。でもザ・スターリンは全力でやってて、かっこよかった。ミチロウさんが暴れてライブ終わったあと、倒れながら僕の先輩に「どうだった?」って聞いてて。この人は真面目なんだと思って。

――ちゃんとしてますよ。真面目

久保田 ちゃんとしてました。すごく礼儀正しく話してて(笑)。

――木訥とした東北弁でまじめに話す人ですからね。

久保田 すみません、変な話しちゃって。

――ミチロウさんは山岸さんともザの付かないスターリンやTHE END 0で一緒にやって。
久保田 山岸くんには楽しい思い出だったみたいです。萌さんもアイドル道を貫いて、いろいろとたいへんだと思いますが。
――今後どういう振り回され方するのか興味ありますよ。

一色 そうですよね。私アイドルすごい好きなんですけど、どんどんアイドルらしからぬものが舞い込んでくるんですよね。

――でもベルハーが好きだった人なら正しい道ではある気がします。

一色 そうですよね、初期のBiSさんとか。ステージ上では治外法権みたいなとこあるじゃないですか。その感じはBiS階段でけっこう感じてて。入る前に「服が汚れたりなんか壊れても文句言いません」みたいな誓約書を書いて、ビニールシートが貼ってあって豚の首とか飛んでくる、あとなんかわかんない生ぐさいスライムみたいなヤツ飛んでくるみたいな。私は当然BiSさんのオーディションも受けてるんですけど、そういうのをやろうとしてた人が結果的にこうなってるのは自分でもおもしろいなって思います。みんな座らせて(笑)。

――暴れるようなグループに憧れて入ってきたら、音楽的には攻めてるけど暴れるとは真逆のほうになって。

一色 もともとプログレと親和性が高い感じだったんでしょうね。背景を知って曲をちゃんと読み解いて。そもそも集中力を持たせて長い時間音楽を聴き切るみたいなところから。プログレのアルバムはわりとコンセプチュアルなものが多いから、1曲聴き始めると最後まで聴かざるを得ないみたいなところああるじゃないですか。でも、「よく知らないけど楽しそうだから来ました」ぐらいでもぜんぜんありだと思うし、キスエクでもちゃんまお(小日向まお)とか「わかんないけど歌好き!」って感じでやってると思うので、それでいいのかなと思います。

――アイドルグループの正解はそっちですよね。それはベルハー運営の田中さんも常々言ってて。「『なんでこんな曲を歌わせるんだよ! もっとかわいい曲やりたいのに』って文句を言ってきたりとか、ベルハーやりたくて来る子じゃないメンバーだからおもしろかった」って。

一色 そうだと思います。それをおもしろいと思っちゃったから私はベルハーに落ちたんですよ(笑)。望んで行っちゃったから。

――ベルハーに望んで行くタイプだったら、そりゃあだいたいの攻めた音楽はOKになるに決まってるというか。

一色 そうそうそう! たしかに。でもキスエクはいまメンバー募集中なので、キスエクを望んで来る子もぜんぜん大歓迎ですよ!
久保田 フィロソフィーのダンスもおとはす(十束おとは)が抜けてふたりかわいい子が入って、余計人気出そうな感じするんですけど、どうなんでしょうか?

――ふたり入れるのはうまいと思いましたね。

一色 ひとりだとどうしても被って見えちゃうんですよね。ふたり入るとぜんぜん違うっていうふうになりますよね。入る、抜けるってけっこうたいへんですよね、印象が変わるから。

――それに関しては今回、ピンキー青木さんの穴を一色さんが埋めてるわけで。

一色 ヤバいヤバいヤバい(笑)。ぜんぜん違いますから!

――最後に言い残したことありますか?

久保田 別件なんですけど来年2月に僕ちょっと新しいプロジェクトやるんですよ。聴いてください。

――それは女子ボーカル的な?

久保田 第二弾のSOLEILとも言えるかもしれないんですけど。

――お、最高じゃないですか!

久保田 まだちゃんと言えないですけど、豪さん好きな組み合わせだと思うんで。また若い子とオッサンがくっついたような。

――オッサンの趣味を押しつける感じの。

久保田 そう、オッサンの趣味を(笑)。萌ちゃんのパブロックシリーズに限りなく近い、それのちょっとオシャレバージョンで。よろしくお願いします。
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■リリース情報


アーティスト:一色萌とザ・ファントムギフト
タイトル:ハートにROCK!
発売日:2022.12.21
発売元:なりす レコード
仕様:7インチ
品番:NRSP-7106
定価:1,870円(税込) / 1,700円(税抜)
JAN:なし
収録曲:
A面 ハートにROCK!(一色萌とザ・ファントムギフト)
B面 永遠の想い(一色萌とザ・コーギス)
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★短冊CD35周年を記念して短冊CD化も決定!

驚異のパブロック・アイドル一色萌の、これまでに
リリースした3枚の7インチ・シングルを全曲収録した
6曲入りミニ・アルバムが、短冊CDとして発売決定!
デフ・スクール、ビリー・ブレムナー(元ロックパイル)、
ザ・コーギス等、伝説のミュージシャン/バンド本人自ら
全面参加したカバー曲から、昨年大きな話題を集めた、
ネオGSムーブメントを牽引したバンド、ザ・ファントムギフト
がバッキングを務めた新曲「ハートにROCK!」まで収録した、
全6曲中3曲が初CD化!!
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アーティスト:一色萌
タイトル:SINGLES 2020-2022
発売日:2023.02.21
発売元:なりすレコード
仕様:短冊CD
品番:NRSD-3108   
定価:1,980円(税込) / 1,800円(税抜)
JAN:4582561399145
収録曲:
1.Hammer & Bikkle
2.TAXI!
3.トラブル・ボーイズ
4.太陽を盗んだ女
5.ハートにROCK!
6.永遠の想い Everybody’s Got To Learn Sometime

■イベント情報

「ブラックナードフェス vol.5」

2023年2月12日(日曜日) 13:30 start
八広地域プラザ 吾嬬の里 本館
京成線 八広駅 徒歩7分
前売3000円+1d(500円)/ 当日3500円+1d(500円) 高校生無料
予約 : http://tiget.net/events/220040

【出演者】
・灰野敬二 & THE HARDY ROCKS
・DMBQ
・曽我部恵一
・一色萌とザ・ファントムギフト
・三沢洋紀バンドセット(小池実、露木達也、佐京泰之)
・SAKA-SAMA
・ほたるたち
・Superyou
・浅井直樹
・佐藤幸雄(元・すきすきスウィッチ)
・武田理沙
・背前逆族
・団地ノ宮
・山口やまぐと地獄少年
・Ghostleg
・山口やまぐAnother Hell Meeting
・SPOILMAN
・水いらず
トークイベント : 岡村詩野 (音楽評論家)、sabadragon (音楽ニュースサイトindiegrab主催)

詳細
https://www.tumblr.com/blacknerdfes