Last Update 2021.12.1

Interview

元祖声優アイドル、太田貴子31年ぶりの新作についてサウンド・プロデューサー、猪爪東風(ayU tokiO)にインタビュー(太田貴子コメント有り)

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10月にCDでリリースされた歌手・声優の太田貴子の新作『Voice of Angel』をayU tokiOの猪爪東風(いのつめ・あゆ)が手がけている。ということにちょっと驚いた方も少なくないだろう。太田貴子といえば、『魔法の天使 クリィミーマミ』の声として知られ、80年代、90年代……そして現在に至るまで第一線で活動している伝説の元祖声優アイドル。かたや、the commitmentsやthe chef cooks meなどのインディー・バンドでギタリスト、ソングライターとしてキャリアをスタートし、「MAHOΩ」での活動で注目を集めた猪爪は、ayU tokiOとしてソロに転じてから、さらにポップ・ミュージックの深いエリアまでをディグしたソングライティングと音作りが高く評価されている。カセットテープで作品をリリースするようなこだわりもある一方、鈴木博文、SaToAらに制作からがっつりと関わってプロデューサーに徹する姿勢も貫く、ある種、表にも裏にもなれるミュージシャンだ。インディー・レーベル「COMPLEX」のオーナーとしてオムニバス・カセットを制作したり、他アーティストの作品をリリースしたりもしている。

そんな猪爪がどのように太田貴子の新作を制作したのか。仲間ミュージシャンに声をかけ、曲ごとにアレンジを振り分けることから始まったというこの一大プロジェクト、その背後にある思い、狙いなどを訊いた。なお、太田貴子『Voice of Angel』収録の2曲「デリケートに好きして」「魔法 β」は7インチ・シングルとして、二日間開催となった今年の「レコードの日」である1127日にリリースされる。

取材・文 岡村詩野

──太田貴子さんのことは知っていたのですか?

猪爪東風(以下、A):『クリィミーマミ』は姉が好きだったので幼少の頃から知ってはいました。子供の頃のオモチャとかも家に残っていたのかな……でも、子供の頃僕自体はあまり関心はなかったです。太田貴子さんの存在を知ったのはもう少し大人になって、昔のアニメを見る機会が増えた頃でした。それ以来太田さんは特に好きな声優さんだったので、今回この話をもらった時にはとても嬉しかったですね。

──今回はどのような流れでのオファーだったのですか?

A:去年:太田さんのコンプリート・ボックス・セット(『TAKAKO OHTA TOKUMA JAPAN YEARS 1983-1988 CD&DVD COMPLETE BOX)がリリースされた流れで、制作元のウルトラヴァイヴから新作もどうか……ってことになり、その時に、企画立案した「なりすレコード」の平澤(直孝)さんがサウンド・プロデュースとして僕にやってほしいと依頼をしてくれたんです。当初、彼の中では太田さんのファースト・アルバム『CREAMY TAKAKO』(1984年)の続編を作る、というイメージだったみたいなんですね。『CREAMY TAKAKO 2』みたいな。結局、タイトルは『クリィミーマミ』とは切り離して、あくまで太田さんの新作という方向になり、魔法の天使というところを活かしてタイトルは『Voice of Angel』になったんじゃないかと。曲数までは最初からハッキリと決まっていたわけではなかったですけど、全曲分僕がサウンド・プロデュースをする、ということは決まっていて。その上で、昔の曲のリアレンジと、新曲を少し加えて、という構成になったんですね。タイトルは『CREAMY TAKAKO 2』ではなくなったけれど、セルフカバーの楽曲に関しては『クリィミーマミ』で使われている曲を多くとりあげようということになったので、アニメの『クリィミーマミ』も観直したりしつつ、コンプリート・ボックス・セットの曲を全部聴いて。太田さん自身、音楽的にいろいろとやっていて面白い活動をされてる方なんだなってことを再確認できたので、最終的な選曲はできる限り全部の時代から少しずつ僕がひっかかった部分を加えていくという形で進んでいきました。

──クレジットを見ると、曲ごとに制作の座組みが異なります。これも東風くんが全体を見ながら決めていったのですか。

A:そうです。まず曲ごとにアレンジをするミュージシャンを決めて。僕として一緒にやりたいと思えて声をかけやすい、インディーで活動している何組かのバンドやミュージシャン達に参加してもらいました。今回はおおまかな座組みとしてまず、やなぎさわまちこ、マジドラ(Magic, Drums & Love)、OCHA∞ME3組に、それぞれにあいそうな曲を選んで曲を振り分けるところから始まりました。これに関しては「何か気になるところがあったら僕からも意見を出しますので」、という感じで。ちょっとややこしいのは、自分がプロデューサーとしてだけではなく、演奏/パフォーム側としても参加している、まちこの演奏陣「やなぎさわまちことまちこの恐竜(古生代オルドビス紀)」が存在していたり、「ayU tokiO」として自分が参加していたり……。自分の役割が曲によっていろいろと変化する部分がありました。

──自分で自分に発注するような場面もあったと。

A:そうです。で、この曲はこんな感じがいいんじゃないかな、みたいな基本的なアイデアを最初に軽く出して、それをアレンジャーの方に伝えて、やりとりを重ねて。OCHA∞MEに関してはバンドの中にKeiくんとMasayaくんという2人のアレンジャーがいるので、それぞれに曲を振り分けてやってもらいました。Masayaくんがリードする曲だったら「ネオアコっぽい感じでどうでしょう?」とか、Keiくんがリードする曲だったら「パワーポップっぽい感じでどうですか?」みたいに軽く伝えました。僕自身がayU tokiOとしてアレンジをする座組みでも、少しずつプレイヤーを変えたりしているんです。本当に適材適所。曲に合ったプレイヤーを組み合わせてディレクションする。アレンジ面でディレクションするパターンでは、そのプレイヤーに「あなたのプレイスタイルをもう一歩先まで踏み込んでもらえませんか?」って感じでお願いして、自分からは微妙に詰め切る前の段階のデモを渡すんです。そうすると例えば僕のアレンジの曲でバンビくんに弾いてもらってる曲(「デリケートに好きして」など)では、最初僕がデモでベースを弾いたものを「こんな感じで」って聴いてもらうんですけど、バンビくんはそれ以上のものを弾いてくれる。そういうのが面白いんですよね。

──東風くんは、ディレクションとプロデュースとプレイとアレンジと録音と……ほとんどの工程を俯瞰しながら一人でやれる稀有なミュージシャンです。その多才さが今回の太田貴子さんの作品でいかんなく発揮されていると思うのですが、そもそもこうした作業に自覚的になったのはいつ頃からなのですか?

A:一番最初にやっていたthe commitmentsというバンドの時から「視点」の様なものを感じ始めていたと思います。このバンドでは僕はギタリストで作詞作曲をしていたんですけど、ヴォーカルやドラム、ベースの担当にも「こうしてほしい」とアイデアを伝えていたんです。もう10年くらい前のことなので、実際としてはかなりへっぽこな選手兼監督、みたいな感じかなと。ただ、そういう存在でいたいとか、そういうのが理想だとかって思ってやってきたわけではないんです。そこにある全部のものが絡み合って、一つのものが出来上がっていく、という現象が子供の頃から好きで。誰かが一人で引っ張ってるだけだと構造的にそういう感じにはならないというか。ある程度みんなのことを把握して後ろからコントロールしていく必要があるなということには気づいていましたね。ここでの自分なりの「把握」の具合というのがプロデューサーとしての個性の部分なのかなと思っています。

──しかも、全体を見通す中で、その中に自分というプレイヤーやアレンジャーも含まれている。

A:そうそう。これが本当に難しいんですよ。そもそもプレイヤーとして練習もしなきゃいけないし(笑)、一人の演者としてのプライドも当然出てきます。僕なんかはギターという、音域として支配的な楽器の奏者だから、悪い意味で目立ちやすい部分もあると思うんです。演者としてハードに一石を投じたくなる気持ちも時折ありつつ、それは上手いこと転じさせて空気や膜としての音をソフトに一石を投じる形にしていきたい。リードでもなく、ただのバッキングでもないというイメージです。別視点としてちゃんと自分のプレイヤーとしての部分も発揮させたいわけだから本当に難しいですね。

──しかも、今回の太田貴子さんのアルバムは特に顕著ですが、東風くんの作る作品は、音質、録音における音のタッチを相当意識的に一定の方向にフォーカスさせています。プレイヤーを適材適所で起用し、アレンジをするだけではなく、音の方向性もちゃんとディレクションしているんですよね。そこがさらにポップスとして厚みを持たせているのだと思います。

A:嬉しいです。まさにそこの部分はいつも大事に思っていて、太田さんの今回のアルバムで言えば、まず強く意識しているのが90年代のJ-POP的な質感ということなんですね。80年代ではなく、です。実際、今回は90年代以降の特定のカルチャーで感性を育てた感の強いミュージシャンたちに声をかけてるんです。

『クリィミーマミ』の放映時は僕らはまだ生まれるかどうかって時代なので当然リアルタイムで観れていないんですけど、その先にあった「魔法少女」的な作品のいずれかには幼少期のどこかしらでは触れていると思います。なので、まず今回はまるっと(「魔法少女」シリーズを手掛けた)「スタジオぴえろ」への感謝をテーマにしましょう、みたいな感じが一つテーマとしてありました。子供の頃のアニメ体験は大人になってからも結構人格や感覚に現れるくらい大事なものだと思って。それと、太田さんの初期の楽曲って「ビーイング」が制作を行っているものも多かったそうで、実際織田哲郎さんが関わっている曲もあって。今回各ミュージシャンにアレンジをお願いする時にもやんわり90年代のJ-POPを音質のテーマにしたいということを伝えたりもしました。特にOCHA∞MEにアレンジをお願いする時に、「90年代のポカリスエットのCMみたいな感じ」とかいうキーワードがありましたね。なので、感性としては80~90年代に、具体的な音質面では90年代へのトリビュート作になるようなものにしたかったんです。そこを実際に僕らは見て聴いて育ってきてると思うので。その後、少し大きくなってから音楽をやるようになってくると、J-POPって言葉に不信感持ったりもするんでけど、今回は太田さんのこれまでの楽曲のメロディや歌詞だったりコード進行を素直に受けて返すみたいなピュアさに戻りたかったんです。

──太田さんがデビューした80年代から90年代にかけての、当時のリアルな音の質感と、その頃の音を空想で再現するような若い世代である東風くんたちの作業とのすり合わせはどのように?

A:ミックスを手がけてくれた森(達彦)さんは、実は太田さんのセカンドとかに関わっているんですよ。森さんは「手がけてたわ~」って後から気づかれてましたけど(笑)。森さんに当時のサウンドの事を色々と聞いて確認したり、敢えて想像や妄想の部分をそのまま膨らませたりしながらやっていきました。80年代~90年代の日本の流行り音楽を思い返してみて、今自分の持っている言葉を使ってざっくり言うと、昭和歌謡的な楽曲をLAメタル的な音色とテクニックで演奏してミックスでゲートリバーブなどをかけてニューウェーブ的に完成させている、というものが多かったんじゃないかという印象です。僕はこの当時の時代背景とごちゃ混ぜ感のある構造との関係性も、そうして出来上がり実際に鳴ってる音もすごく面白いなと思います。色々な想像が膨らみます。

──当時の音楽業界も好景気だった時代なので、今からすると驚くような制作費を投じていたと思うんです。でも、例えば今回の太田さんのアルバムは、おそらく当時の制作環境とは違いますよね。そこのギャップはどのような形で埋めていったのでしょうか。

A:どう考えても、当時の作品制作にはきっと相当な費用をかけてますよね。それに今単純に対抗しようというのはちょっと話が違うのかなと。だけど、製品感では引けを取らないものにはしたいなと考えて。少し話が飛びますが、森(達彦)さんから聞いた話で面白かったのがあって、「当時はスタジオ(使用料)も超高かったから、すぐ作業が終わるように全部1日で終わるようなシステムになっていたんだ」と。当時の音楽がみんな同じような音になっているのは、一番売れてる音源制作に使われるプリセットの音で作るからだ、と。もちろん全部そうではないと思いますし、そうだったとしてもそれを全く否定しませんけどね。つまり、お金はかかってるけど、時間はかかってないってことなのかなと。自分としては当時の音楽制作に対抗する術としては、細かい部分に時間をかけていくということかなと思いました。綿密な打ち合わせをして、丁寧なコミュニケーションの中で音楽を作るということに振り切ったわけです。でも、ただ時間をかけて昔のもの再現するだけでは今作っている意味がないわけで。昔のファンだったら、昔の作品を聴けばいいよってことになっちゃいがちですし。だから、僕だけじゃなくて参加ミュージシャン達が、今の耳で、現在の作品としてそれぞれの価値観を反映させていかないといけないなと。そこでも、すごく支えになったのが森(達彦)さんのミックスでの参加だったんです。当時の音を知っていて、インディーの作品制作についてもとても理解があって、今の売れている音もきちんと知っている。そんな森さんが「これで大丈夫だよ!」って言ってくれるとやっぱり心強い。今回は時代感など大きなものに対するリスペクトのマインドも含めてしまったりしていて、僕個人の好き嫌いだけでの完成形の判断が難しくなっちゃったので、そういう意味では森さんが半分ミックスを担当してくれたおかげで安心して最後まで作業できましたね。

──一方で、太田さん本人の希望は音作りにはどう反映されたのでしょうか?

A:今回は本当にそこは任せていただいていて。去年、制作前に初めてお会いしたんですけど、「プロデューサーの猪爪です」って挨拶したら、「お若いんですね」って仰って(笑)。初めはレーベルか何かのどっかの小僧が来たみたいに思われたんじゃないかと思います(笑)。こちらとしては「丁寧に頑張らせてもらいます」とお伝えしました。太田さんからの注文は、「オリジナルのキーは変えないこと」くらいでした。これ本当にすごいことで。30年前の原キーを変えずに歌えるって、なかなかできないことだと思います。実際、歌入れの時には2回くらいツルっと歌っていただいて、「どうですか?」と太田さんが仰るので、「オッケーです」って答えると、本当にそれでもう終わる曲もありました。やっぱりすごいなあと感動しました。

──東風くんが書いた新曲2曲(「大・恋・愛 β」「魔法 β」)については、どのような感じで受け入れてらっしゃいましたか? 特に「魔法 β」は「デリケートに好きして」のカップリングとして「レコードの日 2021」の2日目の対象商品として、1127日に7インチで改めてリリースもされます。

A:「大・恋・愛 β」について、実はこの曲は、僕がやっていた「MAHOΩ」というバンドに持って行こうと最後に作っていた曲なんです。バンドが解散しちゃってからそのままにしていたんですけど。10年くらい前の僕の曲作りの感じがするなと自分でもとても気に入っている曲です。こういう形で発表できてとても嬉しいですね。「魔法 β」に関しては太田さんご本人からのオーダーメイドとして新しく書いた曲で。スタッフの方からは「南佳孝みたいですね」とご感想をいただきました。でも、ああ、なるほどと。80年代以降の制作現場を生きてきた感覚で僕のことをミュージシャンとしてちゃんと感じてくれたということなのかなと嬉しく思いました。太田さんにはこの2曲について、「タイトルについてるβってなんですか?」って聞かれましたが、これは「この先がある」という意味です。

──この太田さんの作品の制作を通じ、東風くんは「人と人とを繋ぐ音楽家」というすごく重要な存在であるとの評価をさらに高めることになったと思います。しかも、最近はそういう自分を楽しんでいるというか、楽しそうにしているように見えます。

A:だと嬉しいです。いろんな人を巻き込んで色々やることが増えて来て。それで起こってしまう制御しきれない物事を、一つずつ現象として捉えるようになったんですね。その現象の中で自分はまずどういうポジションなんだろう?って思えるようになったからかなと。ちょっと無責任になってきたってことですかね(笑)真面目にやっていますけど。

──そして、来年2022年は活動10周年になりますね。

A:そうなんです。まずこれまでの自分の楽曲をほぼ全てクラウド上に放出します。さらに実はもう一つ節目的なリリースを控えていて。それが終わったら次は新作ですよね。ここ数年、人のライブツアーのサポートなどを通じてライヴ・アルバムを作りたいと思っていたんです。本番のステージ上でエナジーが漲ったものをライヴ・レコーディングで押さえるっていう制作方法に今すごく興味があります。全部新曲でやろうと思います。それを目指してとにかくコーラス盛り盛りの曲をガンガン作ります。

太田貴子さんからのコメント

今回31年ぶりに、新作アルバム「Voice of Angel」をリリースすることになって、12曲入りの新曲2曲が入っているんですけど、クリィミーマミの曲や、高橋研さんの曲が入っていて、新曲以外は、全曲アレンジし直しています。

原曲から、かけ離れた感じではなく、ちょっぴり、昭和から、令和になってる感じ。(わかりやすく解説すると、若い世代の方にうけいれてもらえる感じかな?)

「天使のミラクル」は、キラキラなイメージになって。可愛くて好きです。

「ガールズ・トーク」も女の子が好きっていう感じになって。

新曲の「大・恋・愛 β」は、メロディーラインは、ちょっぴり難しくて、歌詞をのせて雰囲気を伝えるのが大変でした。

新曲「魔法 β」は、ミディアムバラードで、おとな可愛いいを意識して歌ってます。

アルバムの表紙を描いてくれた方は、みなさんもご存知のクリィミーマミの高田明美先生です。

このアルバムに参加してくださった全てのスタッフさんに、感謝してます。

太田貴子

【作品情報】

シングル

20211127日(土)7インチ発売
太田貴子|デリケートに好きして / 魔法 β

【レコードの日】対象アイテム
SOLID-49
SOLID RECORDS
定価:1,800+

アルバム

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YouTubeトレイラー

https://youtu.be/r42yz-ePb7M