Last Update 2019.9.20

Interview

スカート、カーネーション、KID FRESINOなどでも大活躍! 佐藤優介がファースト・ソロEP『Kilaak』で描く空想ディストピア

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様々な現場でこの男が背中を丸めて鍵盤に座っている姿をおそらく多くの人が見ていることだろう。スカート、カーネーション、KID FRESINO、jan and naomi、町あかり、姫乃たま……不定期なものも含めると、ライヴだけで現在これだけのアーティストをサポートしているし、レコーディング参加、プロデュース、アレンジ、楽曲提供などを含めるとさらにかなりの仕事量だ。近いところでは、Kaede(Negicco)のソロ・シングル「クラウドナイン」のプロデュースも手がけている。

だが、ソロ名義での活動となると、これが不思議なくらい実はこれまでにほとんどない。カメラ=万年筆という二人組ユニットの一人としてシーンに現れたものの、作品数も少なく、ライヴ活動もそれほど積極的にやってこなかった彼は、他アーティストに対しては積極的かつ献身的でも、自身の活動に対しては極端に消極的かつシャイなところがある、いつのまにかそういう存在になってしまっていた。天才と言っても過言ではないほど、そのコンポーズとアレンジ、鍵盤奏者としてのスキルとセンスはこの世代随一で卓越しているというのに。

しかし、ようやくそんな寡黙なる男・佐藤優介が重い腰をあげた。追ってアナログの7インチ・レコードでもリリースされる『Kilaak』。初の正式なソロ作品としてはあまりにも奥ゆかしい5曲入り10分というコンパクトな内容だが、5曲で一つの短い組曲のような構造を持った物語性のある仕上りには思わず舌を巻く。この人のこれまでの各所での優れた仕事ぶりからするとこのクオリティは当然といえば当然なのだろうが、キラキラとしたブライトな世界と薄暗く重い世界とは背中合わせというテーゼをも伝えるこの5曲10分は、空想によるディストピアというファンタジーをナンセンスと紙一重のダークなユーモアで描き切った“観る音絵巻”だ。

セルフ・プロデュースによる宅録ベースの作品ながら、曲によって澤部渡、佐久間裕太、シマダボーイ、井上拓己も参加。ようやく船出した佐藤優介のソロ第一声をお届けする。

取材・文:岡村詩野

 


――今回のソロ作は、そもそもいつ頃に企画が立ち上がったのですか?

佐藤優介:ぼんやりですけど去年の頭ぐらい。いろんな人から「ソロ出したら?」って言われていたんで……バンドとかユニットはいろいろやってきたけど、ソロはやったことなかったし、やってみようかなっていう。

 

――曲はピアノで?

佐藤:そうです。基本キーボードで。一つのきっかけは、1曲目の「キラアク」。去年の正月くらいに『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)って映画……マーティン・スコセッシ監督の……あれを観て。子供向けの冒険活劇みたいな印象があったんですけど、実際に観たらすごくよかった。あれ、スコセッシからジョルジュ・メリエス(20世紀初頭の映画創成期におけるフランス人監督)へのトリビュート映画じゃないですか。ああ、自分もこうだなっていうか、自分の曲作りも全部こういう感じなんだなって思ったんですよね。映画でも小説でも漫画でも、もちろん音楽でも、何かの影響を受けて、トリビュートするような気持ちで自分のアウトプットへ向かう、みたいな。もともと俺はメリエスが好きだったし……純粋に、特撮映画の始祖みたいな人だったじゃないですか。マジシャンだった人が映像を使ってファンタジーを創る、みたいなね。そういう部分がもともと好きなんですよ。「キラアク」もゴジラ・シリーズの『怪獣総進撃』(1968年)からとってるし。

 

――映画に出てくる「キラアク星人」ですね。

佐藤:そうそう。だからね、もうその時点でトリビュート。俺、子供のころ一番何度も観ている映画って『怪獣総進撃』なんですよ。で、あの映画の音楽を手がけてるのが伊福部昭。今の自分が好きなものが大体あの映画にある感じ。原点なんですよ。そういう意味では、まず「キラアク」ができて、その後に4曲を続けて完成させていったから……今回のは5曲入りですけど、10分の1曲が入っているって感じなんです。

 

――なるほど。メリエスだけではなく、『怪獣総進撃』も、伊福部昭も……優介くんの原点にあるものへのオマージュでできあがっているわけですね。ちなみに『怪獣総進撃』を最初に観たのはいつのことでした?

佐藤:2、3歳の頃じゃなかったかな。

 

――早熟!

佐藤:そんなもんでしょ。子供って怪獣が好きじゃない?

 

――子供心にどういうところに惹かれたんだと思います?

佐藤:想像力をかきたてられるっていうか……そもそも俺の曲なんて想像によってできてるっていうか、それしかないっていうか。想像のままにピアノに向かう、みたいなね。映画を見て曲を作ることは多いです。あと漫画とか小説もだけど。そういうところからインスピレーションを受けて作っていくっていうか。

 

――ピアノは習っていたんでしたっけ?

佐藤:親がピアノ教室をやってたから家にピアノがあって。でも習った…というより自然と自分で弾くようになった感じ。「この通りに弾きなさい」っていうような指の動きとか、全然できなかったからね俺。全部自己流。だからピアノが大好きとかってわけじゃ全然なかった。ビートルズとかを好きになってから……中学生の頃にはもう自分で曲を作ったりしていたけど。大学(昭和音大)に入ってからも、作曲を学ぶって感じでもなくて……勉強大っ嫌いだったし、そもそも作曲なんて教えられるものでもないでしょ。(音楽)理論も便利なのはわかるんですけど、やりたいことはそういうところから外れたもの、外れた音だったからね。だから作曲も独学ですよ。後から知ったんですけど、伊福部昭も独学の人だったんですよね。クラシックの和声のルールにのっとってない。そういう人の作品が好きになったわけだから、当然といえば当然なんですよ。

 

――では、独学で身につけたという優介くんのコンポーズのプロセスをおしえてもらえます?

佐藤:なんとなく2パターンあるんですけど。一つは、まず青写真を考えてから完成を目指していくパターン。今回の作品で言えば、「キラアク」と「2+2=5?」がそう。もう一つは、なんも考えないでなんとなく音を置いていくパターン。それが「衛星の夜、永遠のWaltz」「第四惑星にようこそ!」とかかな。

 

――5曲目の「Orange Kid」は?

佐藤:わかんない(笑)。これだけギターで作ったから。「キラアク」ができたあと、組曲みたいにしたくて2、3、4曲目を作ったんだけど、最後はちょっと冗談みたいな感じで終わらせたいなと思って。急にガレージ・ロックになるっていうオチをつけた(笑)。

 

――では、青写真ありきのパターン1の方から聞きますが、これは明確な音楽のヴィジョンがあるということですよね?

佐藤:まあ、そうなんですけど、具体的な音とかだけじゃなくて、さっき話した『ヒューゴの不思議な発明』だとスコセッシからメリエスへの愛、みたいなのが青写真につながることもある。そこから勝手にイメージが広がっていく感じ……だから「キラアク」ってすごくポジティヴな曲なんですよ。あの映画自体がポジティヴだから。

 

――では、なんとなく音を置いていくように作るという2つ目のパターンの方は?

佐藤:それはもう本当になんにも考えてない(笑)。ただ、「衛星の夜、永遠のWaltz」は町田洋さんの漫画……澤部(渡)さんから借りたままなんですけど(笑)『惑星9の休日』っていう短編集から影響を受けていて。曲自体は「キラアク」の余韻になるようなものを構想して作った感じなんですけど。タイトルを考えているときにちょうど読み返してて。

 

――なるほど。つまり、コンポーズの作業自体は何も考えずに音を置きにいくものだけれど、基本的にはちゃんと最初から意味のある曲……例えば「衛星の夜、永遠のWaltz」なら「キラアク」の余韻のような、という役割に向けられていたということですね。そういう意味では優介くんの曲はすべて一定のテーマに紐付けられて繋がるような連鎖的なものが多いとも言えます。

佐藤:そうですね。結局そういうのが好きなんでしょうね。短編の集まりだけどつながっているというのがね。短編集、好きなんですよね。1巻で終わるようなね。

 

――でも、短編でも1曲1曲のアレンジはまったくあっさりしていない。「キラアク」とか強烈に込み入っててすさまじいじゃないですか。

佐藤:最初からアレンジまで見据えてたっていうか、アレンジを思い浮かべて作っていたんですけど、俺の作り方としては、とにかくそれを目指してどんどんトラックを足していっちゃうんですよ。だからね、200トラックくらいあるのこれ(笑)。一瞬だけオルガン出てくる、とか。そういうのも入れて200。だからミックスが大変だった。

 

――しかも、クラシック楽器の音を用いることが多いですよね。

佐藤:確かにそうですね。それはやっぱり伊福部昭、ストラヴィンスキー、ドビュッシーとかを聴いてきたから。

 

――アレンジも含めた作業ではどの部分が一番キツいと感じますか?

佐藤:アイデアが出てくれば全然キツくないし難しくないんですよ。だから、そのアイデアが出てくるまでですかね。あと作業的にはミックスまで含めて作曲だと思ってるんで、そういう意味ではマスタリングを除くと全部一続きになってます。

 

――なるほどね。だから曲ごとのカラーやアレンジが違っても、作品に共通のテーマが与えられるんですね。で、そのテーマというのが今回だと怪獣とか宇宙とか、ある種非現実的で未知の世界を捉えたちょっと不気味なファンタジー。この作品を出している自主レーベルの名前も《怪獣図鑑》ですし、「2+2=5?」だって、ジョージ・オーウェルの『1984』の中にも出てくる有名なフレーズですよね?

佐藤:そういうのが好きなんですよ。子供の頃からずっと変わらないんですけど、ずっと想像をしてるんですよ。音楽でもなんでもです。昔から空想にふけっているような子供だったから。よくぼーっとしてると言われるけど(笑)。入り込んじゃうんですよね。でも、ほんと、今でも曲を作る源はそういう空想、妄想ですよ。

 

――しかも、その空想、妄想はディストピアが多い?

佐藤:まあ、もう現実世界がそんな感じですからね。わざわざSF観る必要もないなあって、そういう気持ちが現れているのが「2+2=5?」ですね。

 

――例えば「Orange Kid」の歌詞が聞き取りにくくなっているのも、そうした終末思想の現れなのですか? 歌詞カードがないから具体的にどういうことを歌っているのかわからないんですけども。

佐藤:いやまあ、歌詞カード、要らないでしょ(笑)。載せるほどのものじゃないし。そもそも文字に起こして載ってるのを読むと辛辣すぎるのもあるから。時事ネタもあるし……だから部分的に聞こえてくるっていうのでいいんですよ。普段、他の人の曲を聴いても歌詞はほとんど頭に入ってこない。思い入れがないわけじゃないんですけど。鈴木慶一さんの歌詞とかは好きですけどね。慶一さん、日本で一番すごい詞を書く人だと思ってるんで。2000年代に入ってから特にすごくなってきたなあって思いますけど。

 

――60歳が見えてきた頃の慶一さんの歌詞は確かにすごい。

佐藤:ね、サウンドもそうだけど、どんどん鋭くなってるというか。一番影響を受けてると思います。

 

――だったら余計に優介くんの歌詞もちゃんと読みたいですね。いまがどうというより、これからのキャリアを想定して読んでおきたい、という感じ。そういう意味でも、最後にふざけて作ったという「Orange Kid」の歌詞はすごく興味ありますよ。ディストピアのオチであり、初の正式なソロ作にして、20代最後の作品じゃないですか。

佐藤:あの曲のタイトルは『MOTHER2』(ゲーム)の登場人物からとったんですよ。役に立たないガラクタばかり発明している博士が出てくるんですけど。自分を讃える歌を歌うマシーンとかね。グレオレマシーンっていう。で、それ、歌が終わると爆発しちゃうんです(笑)。「オレンジキッド」ってその博士の名前なんですよ。なんていうか、俺が好きなのって同じゲームだと『たけしの挑戦状』みたいな。あれをクリアすると、「こんな け゛ーむに まし゛に なっちゃって と゛うするの」ってメッセージが出てくる。あの感じなんですよね。

 

――つまり、「こんな音楽にマジになっちゃってどうするの?」と(笑)。

佐藤:そうそう!自嘲というか自虐というか、そういう精神性なんです。

 

――そういう考え方って30代に入ってからも変わらないと思います?

佐藤:どうでしょうね。変わらない部分もあるけど、毎日変わる部分もあるし、昨日までの考えが今日はガラっと変わったりもするし。正直わからないです。自分の発言にも責任とか持ちたくないし、音楽に対してもそんな感じ。

 

――佐藤優介の作品を聴いて人生変わりました、とか。

佐藤:そんな人、いたとしても知ったこっちゃない(笑)。

 

――自分はムーンライダーズやYMOに人生変えられたのに?

佐藤:いやまあ、それはそれですから。

 

――ところで、この『Kilaak』のジャケットデザインについては?

佐藤:デザインは岡田崇さんにお願いしました。写真家の桑本正士さんが遺したドローイングやコラージュ作品を岡田さんがアーカイブしていて。その中から選んだものを元に岡田さんがデザインしてくださいました。

 

――これ、アナログ・7インチ・レコードでもリリースされるじゃないですか。

佐藤:アナログってかさばるし、手間もかかるし……結構覚悟がいるじゃないですか。逆にいえば、ちゃんと「聴きます」って意識で向き合えるのがレコードなんです。ストリーミング・サービスとかと比べて、ぞんざいな聴き方を許さないというか。そういうレコードの良さは、7インチ・シングルを出すことの主張として意識しています。

 


リリース情報

佐藤優介『Kilaak – EP』
参加ミュージシャン
澤部渡・・・ギター(M-3)
井上拓己・・・ドラムス(M-3)
佐久間裕太・・・ドラムス(M-5)
シマダボーイ・・・パーカッション(M-5)

CD

アーティスト:佐藤優介
タイトル:Kilaak EP
発売日:2019年5月25日(土)
レーベル:怪獣図鑑
仕様:CD
品番:怪獣図鑑002
価格:1,297円(税抜)
JAN:4582432135476

収録内容:
1.キラアク
2.衛星の夜、永遠のWaltz
3.2+2=5?
4.第四惑星にようこそ!
5.Orange Kid

 

アナログ

アーティスト:佐藤優介
タイトル:Kilaak EP
発売日:2019年6月12日(水)
レーベル:なりすレコード
仕様:7インチ コンパクト盤 33回転
品番:NRSP-761
価格:1,852円(税抜)
JAN:4582432135483

収録内容:
A面
1.キラアク
2.衛星の夜、永遠のWaltz
3.2+2=5?
B面
4.第四惑星にようこそ!
5.Orange Kid


イベント情報

Pied Piper House presents
佐藤優介 『Kilaak EP』発売記念トーク+ミニ・ライヴ+サイン会

日時:2019年6月15日(土) 20時〜
場所:タワーレコード渋谷店 6F Pied Piper House

出演:
佐藤優介
長門芳郎

ゲスト:
澤部渡
佐久間裕太
シマダボーイ

イベント内容:
トーク+ミニ・ライヴ+サイン会
観覧無料

詳細:
http://towershibuya.jp/2019/05/26/134437