30年ぶりにリリースされたプロレステーマ曲集レコード。 “新世紀プロレス”と称されるプロレス団体DRAGONGATEとは?
神戸を本拠地とするプロレス団体・DRAGONGATE(ドラゴンゲート)の音楽レーベル「DRAGONGATE RECORDS」からプロレス入場テーマ曲としては実に30年以上ぶりとなるアナログ盤が立て続けにリリースされている。レーベルの代表兼作家でもある中澤矢束氏に話を伺った。
取材・文/長澤智典
–何故今アナログレコードなのでしょうか?
中澤:元々は私がアナログ世代といいますか、物心ついて音楽を聴き始めた頃はレコードとカセットテープという時代で、中学生くらいの時期にデジタル(CD)への変換期を迎えます。そんな環境で音楽を聴き、いつの間にか音楽が生業になって、決して時代に逆行しているわけでも無く昨今のアナログブームに乗るわけでもないのですが、いつか自分の作る音を温かみのあるアナログで聴いて欲しいという思いがあって、やっとタイミングが合ったという感じですかね。こんな言い方は語弊があるかもしれませんが、DRAGONGATEのファンの子達にはLPを「プロレスグッズとしてみてもらって構わない」と公言しております。それこそ12インチのジャケットを大きなサイン色紙として選手がサインを入れてそれを飾るだけでも。
今は死語になってしまったかもしれないのですが「ジャケ買い」という言葉があったじゃないですか。どうしても我々世代は、いまだに音楽イコール音+アートワーク(ジャケット)だというのが根底にあると思うので、その部分はプロレスグッズとしても合致するのかなと思いまして。勿論、私の制作する音を聴いてくれる多くのエンドユーザーはDRAGONGATEのプロレスが好きなプロレスファンであり、その中には普段から音楽をガンガン聴いている音楽ファンではない方もいますので、その子達に向けてはこの入り口で全然良いと思うんですよね。それで、推しの選手の入場テーマ曲から音楽に興味を持ってもらえたら。
アナログ盤を聴く環境に関しては少しハードルが高いかもしれませんが、それこそお父さんお母さんにレコードプレーヤーを借りて聴いてもらっても良いですし、さらに興味を持ったら昨今家電量販店でも安価で質の良いレコードプレーヤーがどんどん販売されています。今の世代のアーティストも続々とアナログ盤をリリースしていますので、DRAGONGATEをきっかけにそこまで繋がればこんな嬉しい事は無いですね。
–中澤くんは制作だけなく、大会のPAも兼任していますがその部分も楽曲制作に影響はあるのではないでしょうか。
中澤:大きいと思います。ウチは新人選手がデビューしたり、新しいユニット(チーム)が誕生するのに合わせて楽曲をゼロから作るのですが、まずデモが上がった段階で実際の入場で使用してしまいます。今は新型コロナウイルスの影響で大会開催規模を抑えていますが、通常はイベントも含め年間200本ほど大会がありますので、実際の入場シーンに合わせて楽曲を使用していく中で「選手が入場ゲートに出るタイミングでブリッジを2小節作ろう」とか、「やっぱりAメロを半分にしよう」等、現場でアイデアが色々と生まれます。
全ての会場にMacとPro Toolsを持ち込んでいますので、その場で切り張りや簡単な打ち込み作業はしてしまいます。その作業を繰り返してある程度完成形が見えた段階で本チャンの録りに入ります。ですので、ここまでがプリプロということになりますね。この作業をもう20年くらい繰り返して入場テーマ曲を制作しているのですが、ちょっとしたデメリットもありまして…。デモの2ミックス音源がPPV等の生中継でオンエアされ、さらにはインターネット配信のアーカイブもありますので、そのままの状態でファンの方の耳に馴染んでしまう場合があります。いざ本チャンを録ってTDして完成!となっても「何か違う、前の方が良かった」という意見もたまにファンの方から頂いたりします。クォリティ的にはミックス前のデモですし、「前の方が良かった」は当然音質的にはあり得ないのですが、これは仕方の無い事ですかね。
恐らくですが、音源制作から実際の選手の入場での叩き(音出し)までをやっている人間ってプロレス・格闘技界で私だけだと思いますし、逆に言いますとここまでを関与していないと本当に選手のイメージに合致した入場曲を作る事は難しいと思いますね。
–アナログ盤リリースの構想はいつ頃からあったのでしょうか?
中澤:私自身が2000年当初、ドラムンベースにものすごくハマっていて作る音楽も傾向していってDJをしている時代があって、その後レーベル設立当初の2007年当時からなんとなくいつか12インチをリリースしたいなという思いがありました。海外のプレス工場とも交渉等はしていたのですが、作業のやり取りの中で言葉の問題の事と、やっぱり音の面で不安があったので、最終的に東洋化成さんでお願いする流れになりました。
おかげさまで来年2022年にはレーベル設立15周年を迎えまして、今までかなりのタイトルのCDをリリースしてきたのですが、アナログプレスは別物でしたので、勉強になりましたね。特にカッティングの部分ですね。レーベル設立以来、すべてのマスタリングをビクタースタジオ/ FLAIRの内田孝弘さんにお願いしているのですが、3タイトルとも内田さんがマスタリングした音をカッティングしております。
–実際にリリースしたアナログ盤を紹介してもらえますか。
中澤:まず初アナログ盤のリリースは昨年10月にリリースした「20th ANNIVERSARY」です。このタイトルは、8月1日に21年間の現役生活にピリオドを打った吉野正人選手と、そのパートナーであった土井成樹選手がデビュー20周年のタイミングで両選手の入場テーマ曲を収録しております。土井選手のテーマ曲「MASCULAR COUNTDOWN」は2010年に作った曲で、当時私がACMAというロックバンドのサポートでベース弾いており、そのACMA名義の楽曲です。当時のパラデータを引っ張り出してきてミックスし直しました。その原曲となるインストバージョン「BLOOD #5」は当時の音源をそのまま収録しております。
カップリングの「SPEED STAR 2020」は吉野選手の引退にあたり、ファイナル音源として作家の戸谷勉さん(G.)、久保田陽子さん(ex.サーベルタイガー/vo.)、NATCHINさん(ex.SIAM SHADE/Ba.)、桐田勝治さん(ザ・クロマニヨンズ/Drs.)のレコーディングメンバーにセルフカバーしてもらいました。もう1曲は「SPEED STAR」のヴォーカルバージョン。こちらは試合の入場で使用することはなかったのですが、個人的には凄く気に入っているバージョンです。以上の4曲を収録したダブルAサイドの12インチシングルです。
–続いて、今年4月リリースの「仮面舞踏会」です。
中澤:これこそアートワーク一発勝負といいますか。MASQUERADEというユニットのサントラなのですが、このチームはその名の通り仮面を付けて入場パフォーマンスを行います。そのパフォーマンス構想を最初に聞いた時に、このジャケットが頭に浮かびました。
ジャケットを見て頂けたらなんとなくお分かり頂けるかと思いますが、モチーフは「QUEENⅡ」のイメージだったんです。表4はその仮面を外した時の顔面の絵ですね。音的にはプロレステーマ曲としては珍しいクラシカルなアプローチのメインテーマからドラムンベースまで結果的にですが、本当にバラエティに富んだ内容になりました。
–最後に現時点での最新作の「DELIGHT EXTRA REALIZE」です。
中澤:3作目にして初めての33回転です。そのくせA面B面共に5曲目に向かって音が激しくなっていくというアナログ盤のセオリーを無視した盤です(笑)。所謂ヒール(悪役)チームのサントラなのでその部分は仕方ないのですが。でも実際にこうしてアナログをリリースするまで、昔のロックバンドのアルバムはA面とB面の最後にバラードが入っているのが多いのは盤の溝を考えてということも分からなかったですし、そんな無知な所から始まりました。
ビクタースタジオを使う機会が多い事もあり、何年か前にビクターがハイレゾに力を入れていた時期があって、弊社でも検討はしたのですが、聴く環境を揃える所から始めないとならなかったり、プロレスファンには色々ハードルが高かったんです。その後に空前のサブスクブーム。もう音なんて二の次…とまではいいませんが、PCやタブレットの内蔵スピーカーやスマホで手軽に楽しめる時代がやってきました。でも弊社は音とアートワークにこだわり続けた結果、このアナログ3部作リリースに繋がりました。
–アナログ3部作?
中澤:はい、ユニットも違いますしコンセプトも違うのですが、45回転の12インチシングル、ミニアルバム的要素の12インチ、33回転のフルアルバムという意味で3部作です。ヴァイナルとしてですね。今後の展開としては7インチですかね。さすがにウチの規模では採算が取れないので、今は難しいですけど。これは余談ですが、今、沖縄の琉球ドラゴンプロレスリングさんの音楽も弊社で手掛けているのですが、代表のグルクンマスク選手がほぼ同世代で、ファン時代にプロレスレコードを収集していたお話を聞きまして、ウチのテーマ曲「DRAGON STORM 2019」と琉球ドラゴンさんのテーマ曲「DRAGON SOUL 2021」をダブルAサイドの7インチなんてどうでしょう?なんて話で盛り上がったりしました。こんな感じで昨今のアナログブームに乗ってプロレス界もまた入場テーマ曲をアナログ盤でリリース、流行るかもしれません。勿論、時代の流れからサブスク配信を否定はしませんが、DRAGONGATEは今後も温かみのある盤で聴く音楽文化の灯というものを継承していければと思います。
作品紹介:
タイトル:20th ANNIVERSARY
アーティスト:V.A.
発売日:2020年10月28日(水)
価格:3,300円(税込)
品番:DGTR-1026
POS:4997184124089
仕様:12inch vinyl 45RPM
発売元:DRAGONGATE RECORDS
販売元:タワーレコード株式会社
タイトル:仮面舞踏会
アーティスト:V.A.
発売日:2021年4月7日(水)
価格:3,850円(税込)
品番:DGTR-1030
POS:4997184134309
仕様:12inch vinyl 45RPM
発売元:DRAGONGATE RECORDS
販売元:タワーレコード株式会社
タイトル:DELIGHT EXTRA REALIZE
アーティスト:V.A.
発売日:2021年8月18日(水)
価格:4,950円(税込)
品番:DGTR-1032
形態:12inch vinyl(33RPM)+CD
POS:4997184142496
発売元:DRAGONGATE RECORDS
販売元:タワーレコード株式会社
DRAGONGATE公式HP
https://www.gaora.co.jp/dragongate/