Record People TV #6 大竹雅生、nakayaan(ミツメ)
※こちらは2017年8月~2018年1月まで、SPACE SHOWER TVにて放送されていた番組「RECORD PEOPLE TV」のインタビューになります。
Record People TV 第6回目のゲストはミツメの大竹雅生さん(Gt,Syn)、nakayaanさん(Ba)。12月20日に発表したシングル「エスパー」が各所で“傑作!”と激賞を受けているミツメ。これまでも数々の作品をヴァイナルでリリースしてきた彼らに、下北沢・General Record Storeでレコード・カルチャーとの関係についてお話を伺いました。
取材/文:小田部仁
写真:スペースシャワーTV
——レコードに初めて触れたのはいつでしたか?
nakayaan 小学生ぐらいの時に音楽に興味を持ち始めて。母が70年代のバンドが好きで、イエスの『イエス・ソングス』ってライヴ盤を聴いたのが最初ですね。「イラストがいいんだよ」って言われて開いてみたら壮大な世界が「ボンッ!」って広がっていて「すごいなあ」って思ったのを覚えてます(笑)。音じゃないんだけど(笑)
大竹雅生 最初の思い出は2、3歳ぐらいの時ですかね。「みんなのうた」のレコードを何回も繰り返し聴いてたんですけど、傷がついていて同じところで何度も止まるから母親にその都度、直してもらってたって記憶がありますね。いまはそのレコードは処分されちゃったみたいですけど。
——最初に自分で買ったレコードとか覚えてますか?
大竹 レコードって僕らの世代的にはあんまりリアルタイムで買うってことが少なくて。小学生ぐらいまではカセットテープ、そのあとはずっとCDだったので。なんのアーティストだったのか覚えてないんですけど、USインディーのバンドが新譜でもレコードを出すようになって、その頃——10年ぐらい前ですかね? に買ったのが最初だと思います。アルバム一枚だして、消えちゃったようなバンドでしたね(笑)。
nakayaan 最初の一枚っていうのは、あんまり定かじゃないんですけど。プレーヤーを買ったっていうのは覚えていて。7個上の兄から「CDで出ているものよりも、レコードで出ているものの方がずっと多いんだぞ」みたいなことを偉そうに言われまして(笑)。素直に「じゃあ、レコードで音楽を掘らないとダメだな」と思って(笑)。一番最初に買ったのはチボ・マットの2LP(2ndアルバム『STELEO TYPE A』)だったかなぁ。「すごい音いいー」って友達と聴いて、感動してたような気がします。
——普段からレコードって結構買いますか?
nakayaan 結構買ってますかね。前までは通販ばっかりで買ってたんですけど、最近はお店に行ったりもしてて。半々ぐらいですかね。
大竹 レコード屋に行くのは時間が空いた時にやることとして上位にありますね。
nakayaan CDは今はほとんど買わなくなっちゃって。Apple Musicとレコードって感じですかね。モノで欲しいなって思ったら、絶対にレコードですね。
大竹 古い音楽はキリがないぐらい数限りなくあるので……新譜が気がつくとあんまり聴けてないんですよね。この二人に関しては新譜はあんまり聞かないかも。
——お二人はレコードの魅力ってなんだと思いますか?
大竹 針を落としてみて、パッと聴いてみて「なんだこれ?」みたいなものだけど、聴いていくとどんどん面白くなってくるその感覚が好きなんです。ビックリして刺激を受けたいというのはあります。
nakayaan 発見した時の喜びは大きいよね。レコード全般の話ではないんですが、ローファイな音源、テープで雑に録ったような音も大好物なので、その音に触れられることそれ自体が嬉しいというか。
——お気に入りのレコード屋ってどこかありますか?
大竹 最近よく行くのは幡ヶ谷の「Ella records」ですかね。幅広い品揃えで、小さいところなんですけど、値段が安めなのもありがたいですね。高いレコードもあるんですけどね。下北沢にある「ハミングバード」にもよく行ってましたね。安くて、謎なレコードがたくさんあったんですよ。
nakayaan 神戸にある「汎芽社レコード」ってところが好きです。個人的にドイツのニューウェーヴ、ノイエ・ドイチェ・ヴィレってジャンルが好きなんです。普通、レコ屋の一覧にそんなジャンルないんですけど。ちゃんとジャンルに「N.D.W」って並んでいるのが好きです(笑)。もう一つは行ったことないんですけど「SHE Ye, Ye Records」ってお店が新潟にあって、そこのサイトでよく買ってますね。他のレコ屋には置いてないような尖りきった宅録音源だったり、ニューウェーヴだったり、アンビエントだったり……店主がどこからから仕入れてきた一点ものがちょびちょび放出されるんですけど、情報が更新された瞬間にすぐにソールドアウトになるんですよ。だから、なかなか買えない。Twitterに張り付いて、更新されたらすぐに買わないと。初動の速さが試される感じです(笑)。
大竹 だから、勢いで買っちゃうことは多いですね(笑)。6000円ぐらいで、テンション上がってるとネットで視聴するとすぐに買っちゃうんですよね。
nakayaan 地方のレコード屋だと、自分は北海道だと老舗の「フレッシュエアー」とか、香川県だったら「ROOTS RECORDS」っていうのがあって。
大竹 メンバー全員で行ったうどん屋さんの隣にあったんで、みんなでそこ行って買って。
——ミツメで一番レコードを持ってるのは誰だと思いますか?
nakayaan 多分、一番レコード買ってるのは雅生さんですよね。
大竹 どうかな(笑)。多分、みんな同じぐらいだとは思いますけどね。最近、ドラムの洋次郎がDJを一番回数やってて。絶対レコードしか使わないので、彼は。一番枚数は持っているかもしれないですね。個人的には、一緒にイベントをやることになった小柳帝さん(ライター・編集者)と知り合ってからいろんなレコードを教えていただいて。人からオススメされたものを聴いてみるっていうのは増えましたね。自分で調べるだけじゃなくて。
——レコード生活の中で、後悔してることありますか? 例えば、大事なレコードを売ってしまったとか……。
nakayaan 大学生になって、プレーヤーを買ってレコードガンガン聴き出したぐらいの時期に「そういえば、うちに母ちゃんのレコードあるじゃん!」と思ってワクワクしながら、実家に帰ったら売ったか、譲ったかで全部もうなくなっちゃって膝から崩れ堕ちました。
大竹 僕は……レコード売ったことないんですよ。棚から溢れたら売ろうかなって思ってます。今は家に収まってるんで。売るのも面倒くさいんですよね。もう聴かない盤ももちろんあるんですけど、売りに行く労力と手間を考えたら……まぁ、いっかなって(笑)。
——さっき「モノはレコードで」っていう話があったと思うんですが、レコードに対して感じる音以外の魅力って何かありますか? ミツメはアナログ盤のジャケットとかやっぱりすごくこだわっているように感じるのですが。
nakayaan やっぱりアートワークですかね。単純に大きいですから、迫力がCDと違うなと思って。それが一番ですね。あと、古いレコードの匂いが好きです。ぷーんっとなんだかよくわからない匂いが漂ってきて、クラっとする(笑)。そういうのも面白いですよね。
大竹 時には邪魔なほど存在感があるのがいいなって。前の所有者の痕跡が積み重なって、謎の重みを感じるというか。経った年月に想いを馳せる感覚は、中古の楽器にも近いのかなって。サインが書いてあって「あれ? これ直筆?」って思って興奮したら、単純に前の持ち主が名前書いただけだったとかね(笑)。
——12月20日にリリースされた「エスパー」についても伺いたいんですが。今回、2曲入りのシングルということで。2曲ですが、どちらも“強い”楽曲で。巷では「歌物にミツメがチャレンジした」なんて声もありますが。
nakayaan 今までミツメのシングルって4曲入りが多かったんですね。4曲あるとやっぱり色々バリエーションが出せて、それはそれで面白いんですけど。今回に関しては一曲を凝縮してインパクトの強いものにしたいなって話をメンバーでしていて。
大竹 デモをヴォーカルの川辺(素)が持ってきて。メロディーが強い曲だったので、歌に寄り添うようなアレンジにしたいな、と。今まではあんまりメロディーに沿うというよりも楽器が主張するアレンジが多かったんですけどね。時には歌の背景になるようなアレンジにもチャレンジしてみて。ミツメとしては新しいアプローチだったというか……いい方向にまとまったんじゃないかな、と思います。
——なるほど。前のアルバム『A Long Day』はセッション感の強いアルバムで。それがスリリングで非常に面白いアルバムだったと思うんですけど、今回のシングルに関しては仰っていただいたような、ある種、ポップソングをより志向するような作品だなと思いました。
大竹 キャッチーなものを作ろうという意識はあったんですけど、ただ、個人的にはそれも一つ上のレベルっていうわけじゃなくて、あくまでやりたいことの一つというか。いままでやってなかった手段や表現方法を実験的に試してみたという感じです。
nakayaan 「エスパー」の方は割とすんなりできたんですけどね。二曲目の「青い月」の方はもう試行錯誤に試行錯誤して。もう4つくらいアレンジ作っちゃったりして(笑)。ボツにしてボツにしてやっと出来たのがCD収録されているバージョンです。
——ミツメってすごく世代を問わずにミュージシャン達からリスペクトされているし、実際、ファンも多いと思うのですが、その良さを音楽的に言語化する時にどうしても靄がかかったような言い方になるというか。そこがずっと不思議だなぁと思っているんですが。ご自身達としてはどういう音楽をやっていると自覚的に考えていますか?
nakayaan あんまりそういうことって自分たちでもわからないですね。わからないというよりも、わかりやすい音楽をやらないようにしているというのがあると思うんですけど。メンバーみんなで集まって、曲をアレンジしていても「それは〜っぽ過ぎるんじゃない?」みたいな感じで。聴き覚えのあるものは避けようとしている感じはありますね。
大竹 作っている最中は全然ゴールが見えてないことが多いです。ただ、いっちゃいけないところはわかるんですよ。ここじゃないなとか。それやってると、自分たちでもよくわかんないところにたどり着いたりするんですけど(笑)。古いレコード聴いていると、本人達的にはすごく頑張っているのにうまくいってないものって、すごくアシッドに聴こえるんですよね。そういう感じを自分たちも出せたらいいのにと思うんですけど、意識してそれをやろうとするとまた別のものになっちゃうっていうジレンマはありますね。
——今後の予定を教えてください。
nakayaan 直近ですと、今年で3回目になる『WWMM』という自主企画が1月21日に恵比寿リキッドルームであります。10年いかないぐらい長い期間バンドをやっていると、仲のいいバンドや尊敬しているバンドを呼んでイベントするのは素直に楽しくて。今後も続けていけたらな、って思ってます。あとは、今回のシングルのリリースツアーを2月24日から全国10カ所を回ります。海外にも行きますね。
大竹 海外のライヴは日本と違うのでやってて面白いですね。中国とか台湾はミツメの歌を合唱してくれたりするんですよ。逆に英語圏は歌というよりもリズムが強い曲に反応してくれますね。言葉に馴染みがない分、そっちの方がダイレクトに伝わるんでしょうね。
nakayaan 「煙突」が中国では一番人気があって。演奏している最中、ずっとお客さん歌ってましたね。彼らは日本のバンドそのものに興味があるみたいなんですよ。日本語をそれで勉強している人とかもいて。素直に歌ってくれてるのみて、感動しましたけどね(笑)。
——「エスパー」が本当に素晴らしいシングルだっただけに、国内外問わず、次の作品がどうなるのか気になっているリスナーも多いとおもいます。
大竹 バンドとしては全く話し合ってないんですよね。個人的にいえば、前作がすごくソリッドな仕上がりだったので、次は空間で遊んでみても面白いかなって思ってます。
nakayaan 日本で今、一番刺激を受けているバンドがトリプルファイヤーっていうバンドなんですけど(ちなみに、ミツメ、スカート、トリプルファイヤーは“インディー三銃士”と称されており、スカートの自主イベント“月光密造の夜”への出演を機に何度か3バンドでイベントも行なっている)。この前アルバム(『FIRE』)を出したんですが、何がすごいってリズムがとにかくすごくて。パーカッションも多彩で……リズムの面でももっと深いところにミツメもいきたいなって思ってます。
——ミツメの『タモリ倶楽部』出演(トリプルファイヤーは何度か同番組に出演。10月13日に放送された“吉田に向いたバイトを探せ”という企画では本編丸々ヴォーカルの吉田がフィーチャーされていた)にも期待していいですか?
nakayaan ……呼ばれないですよね(笑)。
——期待してお待ちしております!
■ミツメ・大竹雅生&nakayaanが選ぶ〜枚
① V.A. – Lieber Zuviel Als Zuwenig “ZickZack Sommerhits 81” (1981)
3年ぐらい前に『クラウトロック大全』っていう本がP-Vineから出て、それを買って読んでる内にドイツにどハマりしてしまって。その時にZickZackってレーベルを知ったんですけど、そこが出している唯一の名盤て言われてるのがこの通称「ペンギン」ですね。Palais Schaumburgって有名バンドや、Einstürzende Neubautenも入っていて。一番このアルバムで僕が好きなのはSaal 2ってバンドで。波の音から始まるんですけど、別世界に連れてってくれるようないい曲で大好きですね。
② The Space Negros – Do Generic Ethnic Muzak Versions Of All Your Favorite Underground Punk/Psychedelic Songs Of The Sixties (1987)
「Arf! Arf! Records」というレーベルをやっている人(Erik Lindgren)の宅録プロジェクトで、アルバム名がすごく長いんですけど。インタビューでも言った「SHE Ye, Ye Records」で売ってて、買えたやつですね(笑)。内容的には、このジャケが表すような北欧の山々を想起させるような民族音楽をチープな音質でやってみましたって感じです。裏にはそのエセ民族音楽バンド感を表してみました……みたいなコラージュがあって。グッときて買ってしまいました。(nakayaan)
③ Bobby Brown – Live (1978)
ハワイのボビー・ブラウンっていうシンガーソングライターのライヴ・アルバムです。彼は一人で活動しているんですけど、飼い犬をこよなく愛していて、他のアルバムではその犬と一緒の写真をジャケットにしたりもしてます。これすごくいいんですよ。ものすごくチープなリズムマシーンに自分の弾き語りを乗せるスタイルなんですけど、そのリズムマシーンの音が完全に劣化していて。木魚みたいな音がしてて……その上でゆるく弾き語ってるんです。それがすごく単調で催眠的でいいんです。ジャケではかなり盛り上がってる感じですけど……これはコラージュですね(笑)。内容的には全然そういう感じじゃないので、これはボビー・ブラウンの妄想かもしれないですね(笑)。「こうありたい」的な。(大竹雅生)
④ Les Araignees Du Soir – No Wave (1983)
フランスのおそらく宅録でやっている人です。宅録ものを結構聴くんですけど、レコードって何百年も持つので個人でうっかり作っちゃったものが本人的には恥ずかしいものだったとしても、何百年も残り続けて再発見されるところがいいなって。これも「なんでこれ作ったの?」っていう感じの、チープなドラムマシーンの上に虫声のラップというか語りというか、メロディじゃないヴォーカルが乗ってる曲がいいです。(大竹雅生)
■ミツメ・大竹雅生&nakayaanが選ぶ“俺ジャケ”
⑤ Hot Butter – More Hot Butter (1973)
これは北海道の「フレッシュエアー」ってレコード屋で買ったもので。Hot Butterってバンドの作品なんですが。60〜70年代にモーグ・シンセサイザーが登場して、それを使った「モーグもの」と言われる音源が一杯生まれたんですけど。そういう作品のジャケって、まずモーグがあってそこに個性を足していくみたいなものが多くて。これはこってりとしていて一際好きなジャケットですね。「モーグもの」ってカバーが多いんですね。モーグ奏者を中心に据えて、ヒットソングとかをカバーしているみたいな。これにはあんまりヒットソングは入ってないんですけど(笑)。イタリアの作曲家のピエロ・ウミリアーニの曲「マナ・マナ」とかをカバーしてます。『タモリ倶楽部』とかでも原曲がかかったことがあるので、知ってる人もいると思います。(nakayaan)
⑥ Tony Snell – Medieval & Latter Day Lays (1973)
なんでこのジャケにしたのかわからないです。一見、電子音が入っていそうな、エグい感じの音楽を想定するじゃないですか? でも全然違って。シンガーソングライターものですね。めっちゃストレンジです。聴いていただくとわかるんですけど……歌い方がおかしいんですよ。ジャケとしては個人的にはあまり良いと思わないです(笑)。いいジャケって感じよりもむしろインパクトがあるといういう意味で「俺ジャケ」ですね。内容は……1曲だけいいですね。(大竹雅生)
⑦ Chico Maranhão – Gabriela (1971)
いいと思うジャケットはこれですね。この孤独な感じがいいと思います。モノクロのジャケットそのままのボサノヴァで。これは、普通にいいです(笑)。(大竹雅生)
※リピート放送 1/20(土)26:57~
■リリース情報
New Single ミツメ「エスパー」(7″/CD)
CD/7inch
Now On Sale
■ミツメ公式サイト
http://mitsume.me/
スペースシャワーTV「Record People TV」
毎月第4木曜日 25:25頃〜25:30 リピート放送(レギュラー番組「JxJxTV」内)
http://www.spaceshowertv.com/program/special/record_people_tv.html