Last Update 2018.10.18

Interview

曽我部恵一(サニーデイ・サービス)インタヴュー 「『Popcorn Ballads』はバンドが崩壊しかけた時のひとつの在り方。これがその最終期、ここから先はないよ、って感じ」

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今年6月、Apple MusicとSpotifyからのストリーミング配信のみという、日本では前例のないやり方で発表されたサニーデイ・サービスの通算11枚目のアルバム『Popcorn Ballads』は、Apple Music J-POPチャートの第1位を記録するなど大きな反響を呼び、絶賛された前作『DANCE TO YOU』からさらなる進化を遂げて、その計り知れないポテンシャルの高さをまたしても証明してみせた。

ところが、全22曲80分超の大作『Popcorn Ballads』は、ストリーミングの特性を最大限に活かし、発表後もリアレンジや新曲を加えるなど水面下で変化と増殖を続けていた。そして12月25日、全25曲100分超のディレクターズカット完全版として、CDとアナログ盤の両フォーマットでのフィジカルリリースがついに実現する。
それに先立ち、東京と大阪で行われたライヴツアー「Dance to the Popcorn City」は『DANCE TO YOU』と『Popcorn Ballads』という近作2枚からの選曲のみでセットリストが組まれ、そこに集った観客は、バンド編成で初めて披露された『Popcorn Ballads』の収録曲がいかにライヴで映える名曲揃いであるかを思い知らされるという、音楽ファン冥利に尽きる体験を味わったのだ。

サニーデイ・サービスというモンスターの実態に迫るべく、リーダーの曽我部恵一と忌憚のない対話を行ったのが以下の記録である。

 

取材/文:北沢夏音
構成協力:森田真規
撮影:福士順平
撮影協力:トロワ・シャンブル

 

『Popcorn Ballads』--配信ならではの塩梅

 

――今回はサニーデイ・サービスの『Popcorn Ballads』と『クリスマス』がフィジカルでリリースされることに合わせたインタビューなんだけど、まずは『Popcorn Ballads』の成り立ちから聞こうかな。これは今年(2017年)6月2日、事前の予告一切なしに配信オンリーで発表されたわけだけど、その時にはフィジカルを作ろうということは決めてなかったの?

曽我部恵一 最初はあったんですけど、6月にApple MusicとSpotifyで配信してみたら、これはこういうものであってそのままフィジカルに落とし込むのは無理があるかなと思ったんです。配信してからちょっと時間を置いてCD、LPも出そうという話だったんですけど、いざ作ってみたらちょっと違うかなって。

 

――日本では、アルバムをフィジカルでリリースすると同時に配信もすることが多いと思うんだけど、『Popcorn Ballads』には「アルバム」という概念から問い直そう、そんな意図があった気がしたんだ。アルバムの聴かれ方が変化している現状を踏まえて、配信オンリーでやるって決めた時には何か考えがあったんだよね?

曽我部 最近は自分でも配信でまず聴くってことが多いから、そういう出し方をしてみたいと思ったんです。日本では配信オンリーのアルバムリリースって、前例がほとんどなかったと思うんだけど。

 

――既存の音楽事務所とか、メジャーのレコード会社と契約していると、まずできないよね。

曽我部 YouTubeにMVを出すことですら難しい会社もあるからね。

 

――MVもほとんどフルサイズでは観れなかったりして。だから、そういう冒険をできる環境にいて、しかも知名度のあるアーティストやバンドが、そもそも少ないんだよね。その先陣を切りたい、そんな意識もあったの?

曽我部 早ければいいってことではないんです。自分がその時にやりたいことをやった、というだけであって。配信オンリーの前例が国内ではあまりなかったから結果としては先陣を切るような形になったんですけど、そこまでこだわりはないですね。まあ、誰もやってないならやろうよって意識もなきにしもあらずかな。

 

――配信の時にアップされたものは全22曲で85分もあるけど、そのくらいのボリュームにしようっていうことが先にあったの?

曽我部 先にあったのは配信オンリーで出す、というアイデアだけ。それで作り始めて、まずは8、9曲から始まりました。それでやっぱり12曲くらいあった方がいいのかな? とか、配信されることを想像しながら作っていて。で、12曲作ってみたけど、これだと普通にCDのアルバムと同じものが上がっている感じがして……。30、40曲がボンってアップされていたらApple MusicなりSpotifyでも迫力があるんだろうな、と思い始めたんです。新譜といっても、聴き手はメールとかしながら聴き流しちゃうわけだから。

 

――聴く側の態度が作品と向き合って聴く感じではなくなっている、ということ?

曽我部 最初に聴く時はね。だってパソコンなりスマホで見て、新譜が出てると思っても、みんなやらなきゃいけないことをいくつか抱えているわけじゃないですか。それで聴き始めるわけだから、いきなりすべてのことをシャットアウトして正座して聴く、とはならないですよね。自分が聴く時だって最初はそうだし。そんな感覚をみんなが持っている中でいい塩梅のものって何だろうと、それを想像しながら作っていました。

 

――前作『DANCE TO YOU』は最終的に全9曲にするまで削りに削ったじゃない。そういう意味では真逆というか、膨れ上がっていったんだね。『DANCE TO YOU』の反動みたいなものもあったのかな?

曽我部 あまり意識はしてないですけど、恐らくあるんだろうなって。なんでもそうですけど。あれは研ぎ澄ました感じで、作品主義っていうところがあったから。満足いかなかった部分というか、まだあれではやれてないなってことを今回はやったんだと思うんですけどね。毎回、そういう意識していない何かが表れているんだと思います。

 

――ローズレコーズの新年最初のミーティングで『Popcorn Ballads』の構想を明かしたんだよね?

曽我部 今年の初めくらいに、そういうものを出したいってスタッフたちに伝えつつ動き始めました。自分の中では前の年から2017年はこれをやろう、と考えていたんですけど。

 

――最終的にストックされた曲数としては、どれくらいできていたの?

曽我部 収録されたものの倍くらい……もっとあるかも。そのうち十数曲はSoundCloudに上げましたけど。

 

――そうだ! 曽我部くん、SoundCloudやっているんだよね。

曽我部 こっそり。まあだから別に、そのために作るっていうよりも、日々、曲は作っているので。

 

――その中から選び抜いた。

曽我部 そう、何を選んでいくかってことなんです。

 

――譬えるならプリンスの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』(1987年)を聴くような感じで、『Popcorn Ballads』を聴いてる自分がいるんだ。あのアルバムも2枚組、全16曲、トータル80分の大作で、何曲か核になるような楽曲があって、お得意の性愛賛歌やファンク・ナンバーもありつつ、ちょっと風変わりな小曲も散りばめられていて、でも全体では「サイン・オブ・ザ・タイムズ=時代の徴(しるし)」という黙示録的なタイトルに象徴されるように不穏なムードが漂っている。今でこそプリンスの最高傑作と推す声もあるほど評価が定まっているけれど、当時はアルバム自体がどんな意味を持つのか、すぐにはつかめない感じだったと思うんだよね。コンセプチュアルなアルバムや派手なメガヒットアルバムが続いた後、自ら監督・主演した映画『アンダー・ザ・チェリー・ムーン』(1986年)が興業的に失敗、さらに紆余曲折があってバンド(ザ・レヴォリューション)を解散、一人多重録音に立ち返った結果、ソロ名義でああいう大作がぽっと出て面白かったんだ。プリンスもすごい量産型で、アルバムに収録されていない未発表曲が山のようにあるタイプだよね。今まで曽我部くんとプリンスを結び付けて考えたことってなかったんだけど、今回のアルバムはファンク色が強いっていうこともあって、プリンスと曽我部くんが重なって見えた。

曽我部 確かにそれ以前のアルバムと比べると、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』はちょっと私小説的というか、内省的な、日記的な要素が強いかもね。「スターフィッシュ・アンド・コーヒー」みたいに目覚ましの音が鳴って始まる曲って、プリンスのイメージになかったですよね。それまではどれだけ現実から離れるかっていうスピード感を大事にしていた気がするけど、あれは毎日の(日常の)歌というか、スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)的で。俺はあのアルバム、好きだけど。

 

――「スターフィッシュ・アンド・コーヒー」は名曲だね。どこかスライの「エヴリデイ・ピープル」を思わせる。

曽我部 でも、プリンスでいえば、『ブラック・アルバム』(*)みたいなものを作りたいですよ。

 

――それはヤバイね!(笑)

曽我部 完成した『ブラック・アルバム』みたいなやつ。あのアルバムは一応リリースされていますけど、完成させることができなかった。それはプリンスにとって一つの挫折になったと思います。あれが完成していたら“純文学的なプリンス”という感じで……面白かったと思うんだよなぁ。あれから先はエンタテインメントと自分の内面(を見つめること)の綱渡りのような、ちょっとアンバランスな活動になっていくような気がしていて。

 

――確かに。

曽我部 『ブラック・アルバム』で、彼自身のダークネスも含めて、あそこまで内面と向き合う決意をしたわけじゃないですか。それを最後までやり切れなかったということが、ちょっと残念だよね。本当はプリンスの到達点になったはずだし、ジョン・レノンでいうところの『ジョンの魂』みたいな作品だったはずだから。

 

――結局形にならなかった、という印象だけが残っているけどね。

曽我部 制作途中のデモっぽい感じのままリリースされちゃっているから、余計取っ付きにくいものになっているというか……。それもあって一般的には、これなら途中でやめるよな、って認識になっているんだけど、実は重要なアルバムになるはずだったと思う。

 

*1987年12月、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』の次回作として、プリンスは自らの名前もタイトルも明記しないアルバムを何のデザインも施されていないジャケットに入れて事前の告知なしにサプライズ・リリースしようと計画。ビートルズの“ホワイト・アルバム”に倣い、非公式に“ブラック・アルバム”と呼ばれた同作は、しかしリリース直前に「このアルバムは自分の“邪悪”な分身、カミールが作った」とプリンスが主張して発売中止となり(翌88年、代わりに出たのが花の上に全裸で鎮座するジャケットに包まれた、CDでは曲ごとの頭出しができない『LOVESEXY』)、ビーチ・ボーイズの『スマイル』以来最も伝説的な「失われた」アルバムとして、ブートレグでしか聴けない「幻の名盤」と化した。1994年に期間限定でCDとカセットの正規盤がリリースされたがアナログ盤のリリースはなく、正規に製造された50万枚のレコードはすべて回収、廃棄したと言われていたが、2017年に未開封の正規盤5枚が発掘され、12月にそのうちの1枚がオークション・サイトに出品されて話題を呼んだ。

 

 

ゴダールの映画みたいに、分からなくてもそそられる作品にしたかった

 

――プリンスの話に逸れちゃったけど、サニーデイの歴史を通観してみても『Popcorn Ballads』は怪物的なアルバムになったと思う。

曽我部 まだ自分としてはどういうものを作ったのかよく分かってないです。

 

――配信の時と比較して、前半部は曲順が結構入れ替わってるよね。未だにぼくは新しい曲順に慣れなくて……配信の方は1曲目が「青い戦車」で2曲目は「街角のファンク」という、冒頭のこの2曲にワンツーパンチをくらった感じが強かったんだけど、フィジカル盤では「Tシャツ」が最初に来て、次に「東京市憂愁(トーキョーシティブルース)」、3曲目に「青い戦車」、「街角のファンク」はようやく7曲目に登場する……という正規の流れに、自分の中ではまだちょっと落ち着かないんだ。

曽我部 どっちが正規ということは、今回に関してはないんですけどね。

 

――でもこの曲順に落ち着くまでは、やっぱり色々と模索があったでしょう?

曽我部 最初は「東京市憂愁」が1曲目になるアルバムを作っていたんです。

 

――むしろ元の形に近付けたってこと?

曽我部 それとも違うんだけど、僕の中では今の曲順は、まっさらな気持ちで聴くと結構そそられると思っていて。「Tシャツ」って本編とは全然違うタイプの曲だから、間違って別の映画がかかってしまった時の感じというか、そこから(思っていたのと)全然違う不安な映画が始まるようなグラデーションがあるんです。「Tシャツ」があって「東京市憂愁」があって、さあ本題、という感じで入っていくというか。それがゴダールっぽくて、ちょっと面白いんじゃないかなって。1曲目と2曲目と3曲目で主人公が変わっていて、置かれている状況も時代も季節も全部違う、そこがなんかいいんですよね。短編が2本あって長編が始まるというか、頭にボーナストラックが2曲付いてるというか。

 

――主人公は何人も入れ替わっているんだ。

曽我部 そこもあまり決めてないですけどね。

 

――確かにいろんな風に解釈できるアルバム。これはこういう話でこういうキャラクターなんだとか、全然導いてないよね。

曽我部 そう、そこがそそるんですよ。ゴダールの映画って、内容的に何も分からなくても、とにかくそそるじゃないですか。その感じがなんか、この曲順にあるような気がして。「Tシャツ」はステレオタイプな夏の風景の曲なんですけど、それから始まるのもいいなって。

 

――この曲から始めようって、どんな風に思い付いたの?

曽我部 それはディレクターの渡邊(文武)さんが決めたんです。「ちょっと突拍子ないんだけど、1曲目が『Tシャツ』、2曲目が『東京市憂愁』、3曲目に『青い戦車』ってどう?」って訊かれて、それはそそるなと思って。全体をまだ言わないよ、というところから入るアルバム。1曲目が序ですらない唐突な何か、というやり方がわりと好きなんです。

 

――サニーデイのこれまでのアルバムでは、そういう風に始めたことってないよね?

曽我部 やったことない。ただ、今後はこういうのもいいなと思った。要するに1曲目はロックン・ロールなんだよってこと。例えば、プリファブ・スプラウトの『ラングレー・パークからの挨拶状』(1988年)がそうでしょ。

 

――ああ、あれ! 当時から、個人的にすごく違和感があったのは「キング・オブ・ロックンロール」が1曲目なんだよね。

曽我部 あれは変じゃないですか。

 

――はっきり言って、嫌だった。大好きなアルバムだけに、あの始まり方は妙に落ち着かない気分にさせられてさ。

曽我部 でも、なんかそそるんだよね。

 

――なるほど、あれなんだ。一番ジャストな譬(たと)えだね。なんであの曲から始まるのか?って、未だに思う。

曽我部 巨大なクエスチョンマーク。まあ、あれはただ単にアメリカのマーケットを狙ったということでしょうけど。あのアルバムはプリファブ・スプラウトでも1、2を争う名盤だと思うけど、あの曲順にすることによってバンドに対するステレオタイプな認識が覆されて、「キング・オブ・ロックンロール」が1曲目のバンドなんだと再認識される。ネオアコ幻想を抱えた若者たちは、それでみんな振るい落とされるわけです。「悪いけど、ネオアコバンドじゃないよ」と言ってるような、その感じがなんかいいんだよね。

 

――そっかー、『Popcorn Ballads』における「Tシャツ」は『ラングレー・パークの挨拶状』における「キング・オブ・ロックンロール」なんだ。すごく腑に落ちる。長年のもやもやが晴れてすっきりした感じ(笑)。

曽我部 まあ、ちょっと違うかもしれないけど。

 

 

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