Last Update 2021.7.22

Interview

わたしを作ったレコードたち 第1回 / Ahh! Folly Jet

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Ahh! Folly Jetのニュー・シングル「Duck Float / HEF」が出た!
なおかつ、2000年リリースで、“21世紀の幻の名盤”となって久しかった『Abondoned Songs From The Limbo』が未発表トラックを加えた上でのアナログLPリリース実現という、ダブルなブレイキング・ニュース!
2017年のシングル「犬の日々」リリース時も、Ahh! Folly Jetこと高井康生の音楽ヒストリーをたどるインタビューを担当したが、今回の取材は、彼に影響を与え、音楽制作の糧となり、新作への後押しともなった数々のレコードをひたすら語っていく企画。
正直思う。みんな、こういうのがいちばん楽しいよね!
Ahh! Folly Jetのはるか以前、高井の若き日からスタートし、スマーフ男組(COMPUMA+マジックアレックス+アキラ・ザ・マインド)と高井によるバンド、A.D.S.(ASTEROID DESERT SONGS)を経て、『Abondoned Songs From The Limbo』~「Duck Float / HEF」に至る約30年の個人的音楽史は、レアグルーヴともサバービアとも渋谷系とも縁遠いようでいて、レコードを聴き続け、衝撃を受け続けてきたヒップすぎる正直者の視線で過去と現代を結びつける。この証言は最初からずっと“プレ”でも“ポスト”でもなかった、Ahh! Folly Jetの“今”の最高さを伝えてくれるはず。

取材/文:松永良平
撮影:坂本光三郎
撮影協力:福生バナナハウス、田中克海、Meg

 

──今回は、Ahh! Folly Jetを作った音楽をアナログレコードでどんどん紐解いていくという、もう絶対に楽しい取材です。

高井康生 家からたくさん持ってきたんですが、どれからにしましょうか。松永さんが見て「これは!」と思ったやつからにしましょうか。

 

──(めくりながら)うーん、どれからはじめます? 高井さんは90年代初めに岸野雄一さんと知り合って、その流れで高円寺に開店した〈マニュアル・オブ・エラーズ〉の店長になりますよね。 ちょうど別のインタビュー記事で、その頃に岸野雄一さんからピーター・アイヴァースを教わったという話を読んだところだったんで、このアルバムからはじめましょうか?

①Peter Ivers’ Band With Yolande Bavan ‎/ Knight Of The Blue Communion (Epic, 1969)

高井 最初に聴いたのは岸野さんの家で、曲は「Alpha Centauri」(1974)です。聴かせてもらった日のことを、すごくよく覚えてるんですよ。昼間でしたね。岸野さんの家って、いつもいろんな人が出入りしてる半オープンスペースみたいな感じだったんです。そこで誰かがライブのフライヤーに載せる原稿を書いてたり、岡村みどりさんがCM音楽の打ち込みをやってたりしてたんですけど、あの日はなぜかお昼に岸野さんと僕のふたりきりになったんです。漫画読んでゴロゴロしたりして、託児所みたいな感じ(笑)。坂本(この日の取材撮影を担当していた坂本光三郎氏。高井氏とは大学時代からの付き合い)もよくいたよね?

坂本光三郎 いた(笑)

高井 そんなときに岸野さんが「高井くん、これ聴いたことある?」って言って「Alpha Centauri」をかけてくれたんですよ。確か、聴いたのはもともとあの曲が入っていた『Terminal Love』(1974)ではなく、死後に出た編集盤の『Nirvana Peter』(1983)だったと思います。それを聴いたとき、なぜかめちゃくちゃ刺さったんですよ。最初の感想も覚えてるんですけど、「ジョン・レノンに似てる」でした。

 

──へえ!

高井 ピーター・アイヴァースって、声がすごく特徴的じゃないですか。ジョン・レノンにも変な声のすごさがあるので、そこでつながったのかな。ジョンの作品のなかでも特に『Double Fantasy』(1980)に似てるとも思ったんですよね。今振り返ってみると『Double Fantasy』や『Nirvana Peter』みたいなアルバムこそが本当の意味でのミドル・ロックというか、激しくもないし、美メロというほど美メロでもない。渋い、っていうんですかね。声が変だっていうところと渋さ具合の両方で『Double Fantasy』を連想したのかもしれない。

 

──その連想はおもしろいですね。

高井 それから『Nirvana Peter』をすぐに買いに行きました。当時で、2800円くらいが相場でした。で、他のアルバムにも手を出そうとするんですけど、『Terminal Love』はきれいな盤だと4800円くらいしたんですよ。その次に出た『Peter Peter Ivers』(1976)が3800円くらいだったかな(笑)

 

──わかります、その価格感(笑)。当時、僕も欲しくて何度も手に取っては棚に戻してましたから。でも、『Nirvana Peter』ってピーターの死後のベスト+未発表曲集なんですけど、すごくいいアルバムじゃないですか。入り口としても最高。

高井 そうですよね。ポップだし、ニューウェイブ感もあるし。

 

──だけど、高井さんが今日持ってきてるのは、『Nirvana Peter』でも『Terminal Love』でもない、ピーターのファースト・アルバムじゃないですか。

高井 今日、家で探してたら、これがいちばん最初に出てきたんですよ。このファーストは昔からすごく高価だった。最初は、常盤響さんに聴かせてもらったんです。これはある意味、ピーターの作品のなかではいちばんフリークロックというかフリージャズに近くて、ポップさがない。ピーターが歌ってなくて、ヨランダ・べヴァンっていう女性シンガーが歌ってる。だけど、これには本当にやられました。1曲目の「Cat Scratch Fever」は、A.D.S.(ASTEROID DESERT SONGS)のアルバムで2枚使いしました。イントロのブレイクビーツがヨレていて最高なんです。「Roll Over Beethoven (Round 1)」というブレイクビーツ・コラージュの曲を作る時に、ブレイクセレクト担当のマジックアレックスこと村松(誉啓)さんと松永さん(COMPUMA)が「高井さんも一個選んでいいよ」って言ってくれて。それで僕がレコードが一枚しかないのに「Cat Scratch Fever」を使いたいって言ったら、村松さんが「うーん、わかりました!」って言って自費でもう一枚買ってくれたんですよね。高価なのに。ピーター・アイヴァースをスクラッチしているのは、たぶん今でも世界中で僕らだけなはずです。『Abondoned Songs From The Limbo』の「Satyr」のちょっとフリーっぽい感じは、こういう曲をやってみたいと思ってたからなんですよね。サイケデリック・フリー・ミュージックのオーパーツみたいな曲です。

Peter Ivers’ Band With Yolande Bavan / Cat Scratch Fever

②Fifty Foot Hose / Cauldron (1968, Limelight)

高井 これも知ったきっかけは常盤響さんでしたね。常盤さんの家にも入り浸ってて、夜通しレコードを聴いてたりしてましたから。常盤さんは当時から海外の電子音サイケに注目して、海外通販で買い集めていて、そのなかでチェックしてた一枚でした。

 

──その頃のエピソード、僕も聴いたことがあります。初めて聴いたブルース・ハークのレコードは、やりとりしてた向こうのディーラーから「おまえ、これきっと好きだよ」って無料でおまけにつけてもらったものだったとか。

高井 このアルバムの思い出といえば、当時、僕が下宿していた東長崎の近所にあった〈B-girl〉ってバーでの出来事ですね。

 

──あ! 知ってる。山手通りと目白通りの交差点じゃないですか? 確か、2階にあった。結構前に閉店してしまいましたよね(2006年に閉店)。

高井 そうです。あの店のマスターとパートナーの方、ご夫婦だったのかなあ。ふたりともハーレーに乗ってて、かっこよかったんですよ。お酒もおいしいし、ピザもおいしいんだけど、常にものすごくいい音楽がかかってて。あの店で常盤さんが「いやー、これとうとう買っちゃったんだよね」って、フィフティ・フット・ホースのこのアルバムを見せてくれたんですよ。そしたらマスターが「お、それ買ったんだ。ちょっとかけようよ」って言ってお店でかけてくれて、それで僕も初めて聴いたんです。衝撃でしたね……。

 

──〈B-girl〉でフィフティ・フット・ホースが流れた日があったんですか。すごい。

高井 そのあと、A.D.S.やってる頃にフィフティ・フット・ホースが好きだって言いまくってたら、このアルバムがCDで再発されることになって、僕がライナーノーツを書いたんですよ。

 

──へえ!

高井 ライナーを書くときにいろいろ調べたんですけど、彼らがデビューした68年頃って、“Surplus electronics”といってベトナム戦争で余った通信用の電子機器やオシレイターが、ゴミ同然の値段で古道具屋で売られていたみたいなんです。彼らはそういうのを買い込んでロック演奏に使ってたらしい。いい話ですよね。

 

──このアルバムだと、やっぱりビリー・ホリデイをカヴァーした「God Bless The Child」が有名です。

Fifty Foot Hose / God Bless The Child

高井 これを何度聴いたことか。この曲のオシレーターの使い方をすごく真似したかったんです。僕は短波ラジオを使ってやってました。ヤエスってメーカーの短波ラジオだとこれに似た音が出るんですよ。

 

──しかし、このアルバムは当時から高かった。

坂本 〈マニュエラ(マニュアル・オブ・エラーズ)〉では本人たちと直接やりとりして再発のアナログを仕入れてましたよね。

 

──そうなんですか。

高井 坂本も僕と一緒に〈マニュエラ〉で働いてたんですよ。

坂本 ちなみに、98年に彼らの再結成盤が出たじゃない? あのタイトル『Sing Like Scaffold』は俺がつけたんです。

 

──え?

坂本 だから、アルバムのクレジットに俺の名前が入ってます。当時、リーダーのデヴィッド・ブロッサムと手紙でやりとりしてるなかで感想として“sing like Scaffold”って言い回しを書いたら、それが採用されたんです。

 

──なんと! この場でそんな事実が判明するとは。

高井 この話、記事に載せましょう(笑)

③Annette Peacock / I’m The One (1972, RCA)

高井 この人はEMSのSYNTHI Aっていうシンセのリングモジュレーターを声にかけてると思われる、かっこいいフリークロックですね。SYNTHI Aは“アヴァンギャルド・ミュージックの神器”とも言われる、みんな大好きなシンセです。

Annette Peacok / I’m The One

 

──ジャケもかっこいいですよね。この銀紙印刷は今の再発ではまず再現できないでしょうね。

高井 僕はこのアルバムを聴いて、リングモジュレーターが欲しくてたまらなくなったんですが、当時は市場にヴィンテージ機しかなくて、5、6万はしたんですね。そしたら、エフェクターを自作する人のための本を見つけて、そこにリングモジュレーターの設計図も載ってたんです。それで、自分で作るしかないと思い、秋葉原まで部品を買いに行きました。〈秋月電子〉という有名なお店で部品の型番を全部書いたメモを渡したら、お店のおじさんが「ああ、変調機ね! ギター弾くの?」って言われて「この人すげえ」と思った(笑)

 

──部品を調達して、結局自作のリングモジュレーターは完成したんですか?

高井 見事に失敗(笑)。やっぱり無理でした。今でもその残骸は記念に残してあります。若い頃の俺、情熱的だなぁ。

④Sylvia Robinson & George Kerr / The Great Works Of Sylvia & George (1991, P-Vine)

高井 「シルヴィアを聴きながら」で使ったブレイクビーツは、このアルバムからのサンプリングでした。「It’s Got To Be Queen」って曲の途中に出てくるブレイク。

Sylvia Robinson / It’s Got To Be Queen

 

──シルヴィアといえば「Pillow Talk」が有名ですが。いわゆる甘茶ソウルの最重要人物にして、70年代末にはシュガーヒル・レコードのオーナーとなって、初期ラップシーンにも関わります。

高井 僕が上京した頃、音楽の知識が少ないうちから「ソウル・ミュージックが好き、なおかつ甘めのものが好き」というのはわかってて、レコード屋さんに行って「スウィート・ソウルってどれですか?」みたいな訊き方をしたことがあるんです(笑)。「なんだこの素人は?」みたいな感じで苦笑いされたのとか覚えてます。でもスウィートなソウルが聴きたいと思ってなんとなく調べてるうちに「甘茶」「ニュージャージー・ソウル」みたいなワードにぶち当たり、ホワットノウツ、モーメンツなどを聴いていき、その流れでシルヴィアの「Pillow Talk」やジョージ・カーの存在も知って。この編集盤は当時よく見かけたんですよね。

 

──いまもお手頃価格で見かけますね。内容はすごくよいです。

高井 「It’s Got To Be Queen」は、このアルバムで見つけた曲です。イントロから最高。初期のラップでもあります。

 

──つまり、「シルヴィアを聴きながら」は、まさにこのシルヴィアを聴きながら作った曲。

高井 そうです。そこに杏里の「オリビアを聴きながら」を重ねた歌詞をつけてアンサーソングにしたという。杏里演ずるところの女性にふられた男が、杏里は昨日の恋愛を忘れようとしてオリヴィア・ニュートン・ジョンを聴きながらジャスミンティーを飲むんですが、男はシルヴィアを聴いて痛飲してたという設定の歌詞ですね(笑)

 

──作詞については、高井さんは当時どう考えてたんですか?

高井 いや、当時も今も苦手ジャンルです。 歌ものをやる都合上 必要で、でも誰も歌詞を作ってくれないから仕方なく書くものですね。僕は音が作りたいので。

 

──だけど、日本語として無意味な歌詞でいいというわけではないですよね。

高井 無意味でもいいんですよ。というか、理想としては、センスがよく無意味であることなんです。でもセンスのいい無意味ってハードルが高い。この曲もシルヴィアとか杏里とか架空の設定みたいなものがなくては書けなかったんじゃないですかね。ただ、今回のシングル「Duck Float」は、まぁセンスがいいとは言い難いけど、ちょっと無意味な歌詞が書けたかなとは思ってます。あの曲は「プールに浮かんでます」ということだけ言ってるので。

⑤Dr. Buzzard’s Original Savannah Band / Dr. Buzzard’s Original Savannah Band (1977, RCA)

高井 出ました、サヴァンナ・バンド。かっこいいですね。いわゆるビッグバンド・ジャズの様式を借りながら、すごくコンセプチュアルに作られたアルバムだと思います。『Abondoned Songs From The Limbo』で目指したブラスの感じというか、デューク・エリントン的な音の現代的な解釈としての指標はこのあたりだったかなと。

Dr. Buzzard’s Original Savannah Band / I’ll Play The Fool

 

──サヴァンナ・バンドのレコーディングにはとにかく予算がかかったそうです。このアルバムに入ってる「Cherchez La Femme」がディスコ・ヒットしたのでなんとか埋め合わせできたけど、セカンド・アルバムは思ったほど売れなかったので、RCAとの契約も切れたという。そういうゴージャスなレコーディングへの興味もあったんですか?

高井 もちろん、予算はあればあるだけいいですよね。今まで僕が関わった仕事でいちばん予算を使えたのは、カヒミカリィさんの『Trapeziste』(2003)でのプロダクションでした。あれは納期がすごくタイトだったからというのも理由かもしれません。ゼロからのスタートから完成まで1ヶ月半くらいしか時間がなかったから。神田朋樹さんとスタジオで一緒に曲を書いて、3つくらいのスタジオを押さえて、行き来しながら作業しました。デモができたら事務所に行ってみんなに聞いてもらい、さらにそのミーティングスペースでも曲を書き……。そういう鬼のようなスケジュールを乗り越えるための予算だったという感じです。でも、あのときはそれがよかった。死ぬ気になったほうが人間、がんばりますからね(笑)

⑥Johnny Guitar Watson / A Real Mother For Ya (1977, DJM)

高井 ジョニー・ギター・ワトソン。ブルース・ミュージシャンのなかでもワンアンドオンリーです。ファンク・ブルースというか、特別に好きな人です。高校のときに楽器屋のお兄さんたちに教えてもらいました。最初に聴いたアルバムがこれです。

 

──この人はいつもジャケもすごいですよね。ダサさスレスレというか、ダサさそのもの(笑)

高井 自作の乳母車ですからね。自家製ロールスロイスの乳母車(笑)

 

──でも、やってることは最高にかっこいい。

高井 僕はやっぱりシンセの音に反応するんですよ。彼はシンセを使って、トーキングモジュレーターも使って、曲もメロウだし、すごく好きになりました。このアルバムには、『Abondoned Songs From The Limbo』をリリースした当時にライブでカヴァーしてた曲があるんですよ。

 

──へえ!

高井 A面2曲目の「Nothing Left To Be Desired」を英語でカヴァーしてました。この時期の彼のバンドのドラマー(エムリー・トーマス)は本当に最高。

Johnny Guitar Watson / Nothing Left To Be Desired

 

──この曲、今やってもいいんじゃないですか? すごくハマりそう。

高井 いやいや、都内で英語の曲はやめましょう(笑)。昔はお客が日本人しかいなかったから平気で下手な英語でやってましたけど。

 

──でも、今はコロナ禍でインバウンドのお客さんもあんまり居ないですから。

高井 そうか。じゃあ、やろうかな……。

 

──ぜひ!

高井 この人、ジャパン・ツアーの横浜公演で、ライブ中に倒れて亡くなったんですよね。「Superman Lover」って曲で「俺は機関車より強いぜ」って歌ったところでバタっと倒れたって聞きました。みんなJBのマントショー的な演出だと思って、しばらく本気にしなかったらしいんです。

 

──亡くなったという事実は残念ですけど、ミュージシャンとしては本懐というか。

高井 ね! 最高の死に方ですよ。かっこいいなあ。姿勢を見習いたい。

⑦Little Beaver / Party Down (1974, Cat)

 

──高井さんって、メロウでスウィートなだけでなく、やっぱりDo It Yourself感のあるものに惹かれてるところありますよね。

高井 そうですね。反応しますね。

 

──フィリーソウルみたいな完璧なプロダクションよりはDIYっていうか。

高井 言われてみればそうかもしれない。完璧な作品も資料としては参照するんですが、自分の琴線に触れるのはDIYかも。

 

──若いリスナーが好むソウルも、DIYなほうだと思います。

高井 ここ20年くらいの録音環境の変化で、みんな自分ひとりで完結できるようになったから、そういう機運は高まってるのかもしれないですね。

 

──だから、リトル・ビーヴァーみたいな人が今また以前よりもさらに重要な存在として浮上してる。

高井 それこそ今まさに僕はライブでリトル・ビーヴァーの「Party Down」をカヴァーしてますけどね。最初に知ったのは、ヤン富田さんが『Dictionary』で言及してたからかな。まあ最高ですよね。マイアミ・ソウルの良さを初めて知った曲。リズムボックスものとしても、バーカン・ジャケとしても最高。バーカウンターの映ってるジャケの最高峰ですよ。ここで飲みたい(笑)

Little Beaver / Party Down (Part1)

 

──この人も、さっきのジョニー・ギター・ワトソンも、ギタリストとして秀でてるわけですが、高井さんがギタリストとして影響を受けた存在って誰なんですか?

高井 それこそ『Abondoned Songs From The Limbo』を作ってた頃は、「俺、ギタリストじゃないから」とか逃げてたくらいで、その気持ちは今でもあります。本当にうまい人はいくらでもいますからね。まぁ最近は「俺のギターは味勝負なんで」って開き直ってますけど(笑)。でも、僕のなかでギタリストとして最高にメロウで、他に挙げてる人がいない存在がひとりいるんです。

 

──え、知りたい。

高井 ナット・キング・コール・トリオの初代ギタリストだったオスカー・ムーアです。すごく好きですね。

 

──意外な名前です。ナット・キング・コールのトリオにいたのが1937年から47年まで。

高井 あの時期のトリオでの音源は『Abondoned Songs From The Limbo』を作ってる頃に出会って、よく聴いてましたね。

 

──あのトリオはドラムレスなのに独特のかっこいいグルーヴありますよね。

高井 それまでは打楽器がリズムにないと不安という気持ちが強かったんですけど、あれを聴いて、打楽器がなくてもグルーヴは出ると学びました。オスカー・ムーアのギターは、音数もそんなに多くないし、コピーしようと思えばできるんですよ。でも最高に的確で、必要最低限の音を弾いて最大限までメロウにサウンドするところがすごい。当時のナット・キング・コール・トリオのインスト曲だと、歌の代わりにムーアのギターがメロディを弾くんですけど、あのフィールが今でも好きです。自分が単音プレイをするときは、オスカー・ムーアを目指してますね。全然できてないですけど。

 

──いや、まさかそんな渋い名前が出てくるとは。

高井 あとはギターの音としては、シカゴ・ブルースみたいにチョーキングでスクイーズするタイプより、テキサス・ブルースみたいに乾いててペンペンしたのが好きです。ジョニー・ギター・ワトソンもゲイトマウス・ブラウンもそうですよね、三味線的というか。

 

──その感じは「ハッピーバースデー」での最高のギターソロにも出てると思います。

高井 そうですね。あれは自分なりのゲイトマウス・ブラウンという感じでした。

⑧Phil Moore III And The Afro Latin Soultet Introducing Leni Groves / Afro Brazil Oba! (1967, Tower)

高井 これも最初は常盤さんに聴かせてもらいました。『Abondoned Songs From The Limbo』ネタの一枚ですね。「ハッピーバースデー」が終わったあとに「Ahh You Happy?」というサウンド・コラージュのトラックが入ってるんですが、それで使ってる女の人の声が入ってます。「What Is Wrong With Grooving」って曲。「グルーヴしてなにがいけないっていうの?」っていう。歌詞を聴くと「私は今恋を忘れるために踊りたいの」とか言ってるんですよ。

Phil Moore III And The Afro Latin Soultet Introducing Leni Groves / What Is Wrong With Grooving

 

──かっこいい。お父さんのフィル・ムーアも相当にヒップなジャズ・ミュージシャンでしたね。いわゆるアーリー・ストレンジ・ジャズの担い手。

高井 この息子さんも3枚くらいアルバムありますよね。どれもいいですけど、これが最高。この曲も当時カヴァーしてましたね。菊地成孔さんがバックでサックス吹いてくれてた頃かな。

 

──これもまたライヴでやってください。今のAhh! Folly Jetの編成にも合ってますよ。オルガン、パーカッションあって。

高井 いやもう本当に都内では英語の曲は……(笑)

⑨Tim Buckley / Look At The Fool (1974, Discreet)

高井 2017年に、Ahh! Folly Jetを再開するにあたって「どうやろうか?」と考えたんですよ。歳を重ねることで深まるジャズや伝統芸能とかと違って、自分はロックやポップスみたいなものしか作れない。なので、おっさんでロックっぽいことをやってみっともなくないものにする、ということはやっぱり意識しました。それが実現できてるかどうかはわからないんですけどね。その頃に、“おっさんのロック”という意識で手にしたのがこのティム・バックレーのラスト・アルバムだったんです。まあ、この人はおっさんの年齢になる前にヘロイン中毒で亡くなってるんですけど。

 

──75年に亡くなったとき、まだ28歳でしたね。でも、お酒とドラッグで相当に心も体も蝕まれてましたから、おっさんの領域にはあったと思います。

高井 そうですね。ティム・バックレーって、いわゆるアシッド・フォーク的な初期があって、『Starsailor』(1970)とかアヴァンロック的なのが2枚くらい途中であって、そのあと死ぬまではファンク期だったんですよね。その晩年のファンク期は全然ちゃんと評価されてない気がするんですけど、僕はこのアルバムが昔から好きで。

 

──酔いどれファンクですよね。僕も大好きです。

高井 A面2曲目の「Bring On Up」は僕の考える“おっさんロック”のひとつの理想です。ローズピアノは鳴ってないけど、こういうのこそ僕にとってのAORかなと。

Tim Buckley / Bring On Up

 

──このひとつ前のアルバム『Safronia』(1973)はのちに〈SUBURBIA SUITE〉で紹介されてみんな探した時期がありましたけど、こっちは人気がなかなか高まらなかったですね。

高井 いいんですけどねえ。こういう曲を書きたいんだよな。結構JB的でもあるし。

 

──イントロもダサさスレスレでたまんないです。

高井 そうですね。歌謡曲の記憶とかを呼び覚ましますよね。

⑩Prince / La, La, La, He, He, Hee (Highly Explosive) (1987, Paisley Park)

高井 「Duck Float」にはプリンスっぽい感じもちょっと入れてみました。あの曲で最初に、高木壮太さんにキーボードソロのスペースを振ったんです。僕としてはウーリッツァーピアノの音色をギターと絡めてるので、ソロもそのままウーリッツァーが来るものかなと思ってたら、壮太さんはシンセのソロを持ってきたんです。それをはめてみたら「こういう方向性もあるな」と思えてきて、さらにそこから『Sign Of The Times』期のプリンスっぽさも出るかもと思いハンドクラップを入れたりしましたね。

Prince / La, La, La, He, He, Hee (Highly Explosive)

 

──この曲はシングルのカップリングで、アルバムには未収録ですね。そういえば、『Sign Of The Times』ボックスは買いました?

高井 CD版のボックスのほうを買ったんですが、音は配信で聴けるから、まだボックスは開けてない。だけど、勇気をもらうために買ったという感じです。この時期のプリンスは本当におもしろいですよね。僕と松永さんはおなじ世代ですよね。

 

──そうです。アルバムでいうとプリンスの入り口は『1999』(1983)とか『Purple Rain』(1984)。

高井 僕は「When Doves Cry」が最初のプリンス体験でした。「Purple Rain」はビッグなバラードすぎて当時はすごさがわからなかったんですけど、「Let’s Go Crazy」のギターソロのかっこよさと「When Doves Cry」の気持ち悪さ、あれが衝撃的でした。やっぱりレヴォリューション時代が好きですね。

 

──映画の『Purple Rain』を僕はずいぶんあとになって見たんですけど、レヴォリューションというバンドがね、いいんですよね!(笑) ダサい格好だなって思うんだけど、バンド感、チームワーク感がちゃんとあって。

高井 なんていうんですかね、みなぎる上昇志向みたいなのも画面からビンビンきますよね。あれはロックンロール・ムーヴィーですよ。エヴァーグリーンですよ。

 

──バンドというテーマで話すと、今のAhh! Folly Jetの編成ってだいぶ定着してきたじゃないですか。

高井 そうですね。いちばん新しいメンバーがドラムの光永(渉)さんですけど、彼が入ってからでも4、5回はライブをやってます。本当にすばらしいドラマーですよ。Ahh! Folly Jetは一応、僕のソロということで物を作ったり、最終的なジャッジみたいなことは僕がやってるんですけど、ライブやレコーディングでは各メンバーのアイデアが結構活きてるんです。今回のシングルもそうでしたね。昔はもっと「ここをこうしたあとに、こうしてもらって」みたいに細かくやるタイプだったんですけど、今のバンドに対しては僕はふんわかディレクションなんです。ぽや~っとしたかたちでオーダーしてもそれを汲んでくれて、なにかしらのいいアウトプットが出る人で固まってきてる。そういう意味でもラクだし、ある意味バンドっぽい成り立ちかもしれないですね。安心して命を預けられるというか。いやー、でもそういうバンドを得るまで時間かかりました(笑)

 

──そう考えると、バンド感を持って音源を作ったのって、今回が初めてですか? 『Abondoned Songs From The Limbo』のときもバンドっぽさは現場にあったんですか?

高井 いや、今そう言われて気づきましたけど、自分のソロということに関して言うなら、史上もっともバンド感がある時期かもしれないですね。コロナになっちゃっていちばん辛かったのは、そのバンドのライブができなくなっちゃったことでしたね。

 

──このバンド感のある7インチが、いいリスタートになることを願ってます。

⑪Boz Scaggs / Silk Degrees (1976, Columbia)

高井 シングルのB面「HEF」は、ある意味ボズの「Lowdown」の焼き直しというかオマージュ、パスティーシュからスタートしてるので。

 

──「Lowdown」は、いわゆるAORの象徴ともいえる曲です。

高井 僕もAOR的なものを聴きはじめた初期からもう、めちゃくちゃハマりました。あれから何十年も経ってますけど、いまだに聖杯ですね。

Boz Scaggs / Lowdown

 

──このイントロからの展開は、もはやひとつの発明ですよね。

高井 究極のアダルトロック感。「HEF」は2コードの曲を作ろうと思って着手したんです。自分の好きな2コードのパターンがいくつかあるんですが、そのなかでいちばん最初に採用したのがこのパターンでした。デモのときにこのフルートのフレーズを上物として仮に置いたんですけど、あとで別のフレーズに置き換えようと思ってたんです。だけど、制作が進んでいくうちに「これしかないわ!」となって残しました(笑)

 

──でも、これはアリですよ。

高井 「これ、ボズのアレだろ!」って言ってもらうために残したようなものですから(笑)。

 

──「HEF」は、初めて聴いてから3年くらい経つかも。ようやく音源になってうれしいです。

高井 時間かかっちゃいましたね。最初はTime Out Cafeでやったとき(2017年12月16日、「犬の日々」リリースパーティー)かな?

 

──「新曲です」ってMCしてやってた記憶があります。

高井 復活ライブをやるのに昔の曲だけだとなんだから、間に合わせてやりました。でも、松永さんや髙城(晶平)くんにも「あの曲、音源にしたらいいですよ」ってずっと言ってもらってましたね。

 

──曲としてもオマージュですけど、曲名も『PLAYBOY MAGAZINE』の創設者であるヒュー・ヘフナーへのトリビュートじゃないですか。去年、DJバー〈Chill out酒場常夏〉支援のために製作されたコンピレーション『SAVE常夏』に提供した「STRAYHORN」もそう。あれは、デューク・エリントンの作曲を担当していたビリー・ストレイホーンのことでした。Ahh! Folly Jetの人名シリーズというか、どちらも高井さんの好きな人の名前。

高井 「HEF」の話をするために今日は『PLAYBOY MAGAZINE』を持ってきたんですよ。そもそも、ヒュー・ヘフナーにハマったきっかけの話をしますね。A.D.S.でイベント用のポストカードを宇川(直宏)くんに作ってもらったことがあるんですよ。そのとき、僕らに「好きなものあったら(デザインに)入れるから!」って言われたので、僕は当時、深くフェティシズムを感じていたオープンリールのテープデッキを入れてほしい、ってリクエストしたんです。その資料写真が必要だということになり、古着屋さんで50年代や60年代の『PLAYBOY MAGAZINE』を漁ってたんです。こういうアメリカの古雑誌にスペースエイジ・バチェラー・パッド期のテープデッキの広告とかは載ってるに違いないと思って。そしたら、そこにヒュー・ヘフナー自身が「俺のオーディオセット見てよ!」って自慢してるような記事が結構載ってたんです。

 

──へえ!

高井 ヒュー・ヘフナーという人物を知ったのはそれがきっかけでした。いろいろ見ていると、「プレイボーイマンションへようこそ」みたいな、彼が所有してるマンションにセレブやプレイガールたちを集めてやってるパーティーの記事が定期的に載っていることがわかってきた。それからはプレイボーイマンションでのパーティーが載ってる号を集めていったんです。「噂のプレイボーイマンションは毎晩がバカ騒ぎ!」みたいなね、僕はそういうのが好きでした(笑)

 

──プレイボーイマンションにミュージシャンを招いてやっていた〈PLAYBOY AFTERDARK〉っていう音楽番組がありますけど、あれも最高なんですよね。

高井 そういうパーティーの光景がずっと胸にあったのと、ビリー・ストレイホーンの曲「Lush Life」のイメージを一緒にして「HEF」の歌詞は書いたようなものです。今日は見つからなくて持って来れなかったんですけど、一冊すごく好きな号があるんです。カリフォルニアのプレイボーイマンションでのパーティーが載ってる号なんですけど、あらゆる快楽を貪り尽くしたあと、と思われるレオナルド・ディカプリオが、洞窟ジャグジーの岩山の上であぐらをかいて号泣してる写真があるんです(笑)。あの写真、検索しても全然引っかからないんですよね。

⑫Charles Lloyd / Moon Man (1970, Kapp)

 

──さて、結構しゃべりましたね。もうしゃべり残したレコードはないでしょうか? (めくりながら)お、チャールズ・ロイドのこれもすごいアルバムですよ。チャールズ・ロイドはビーチ・ボーイズとも交流があったり、越境的なジャズ・ミュージシャンでした。

高井 これはA.D.S.の頃に村松さんが教えてくれたレコードですね。

 

──ネッド・ドヒニーのミュージシャンとしてのデビュー盤でもあるんですよね。歌じゃなくてギタリストとして、ですけど。タイトル曲は、ジャズマンが見よう見真似でやってるロックンロールみたい。めちゃめちゃかっこいい!

高井 こういう曲みたいなのができるようになりたいんですよね。途中からどんどん展開が崩壊していくのが好きなんですよ。今回「Duck Float」でも崩壊アレンジやってます。ドラムの音もいいな。こういう感じの音になかなかならないんですよね。……いや最高!

(プレイヤーのボリュームをあげ、会話は聞き取れなくなっていった)

Charles Lloyd / Moon Man (full album)

 

【作品情報】

Ahh! Folly Jet「Duck Float / HEF」(7inch single)
レーベル:Early Summer Records
品番:ESEP-001
価格:1,500円(税抜)
発売日:2021年3月3日(水)
トラックリスト:
Side A
1.Duck Float
Side B
1.HEF

商品購入ページ
https://toyokasei.thebase.in/items/38484752

 

Ahh! Folly Jet「Abandoned Songs From The Limbo~Remastered~」(LP)
レーベル:Musicmine / Hot-Cha Records
品番:MMDS21001LP
価格:3,000円(税抜)
発売日:2021年3月3日(水)
トラックリスト:
Side A
01. シルヴィアを聴きながら
02. Satyr
03. Funkaltz (Unreleased)
04. シルヴィアを聴きながら White Suit KARAOKE
Side B
01. ハッピーバースデー
02. Ahh! You Happy?
03. 恥しらず
04. ハッピーバースデー Slim Down KARAOKE

商品購入ページ
http://hebuys.shop/goods_detail.php?goods_number=MMDS21001LP

 

【ライブ情報】

「Abandoned Songs From The Limbo Remastered」「Duck Float / HEF」W Release Party
日時:2021年3月13日(土) 17:00-20:00
会場:下北沢LIVE HAUS https://livehaus.jp/
LIVE:Ahh! Folly Jet
DJ:Sky Pond Journey(ABESTREEM + halladino taizo)

有料配信もあり
https://livemine.net/lives/45/about