Last Update 2023.12.27

Interview

くるり、RECORD STORE DAY JAPAN 2021 アンバサダー就任記念インタビュー

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2021年の『RECORD STORE DAY JAPAN』アンバサダーに選ばれたのはくるり。レコードからCDへと変化していくのをリアルタイムで体験した2人、岸田繁と佐藤征史は、自分たちはCD世代と自認しながらも「バンドが出す音はアナログ志向」と語る。子供の頃にレコードを聴いていた2人の音楽遺伝子には、きっとレコードの溝が刻み込まれているに違いない。そんな2人が撮影に向かったのは、サニーデイ・サービスの曽我部恵一が運営するレコード店、PINK MOON RECORDSだ。前のめりに攻める佐藤、見下ろすようにしてレコードをめくっていく岸田と、エサ箱を漁るそれぞれの佇まいには年季が入っている。「ツアー先で趣味でやってはるようなレコード屋さんに行って、聴くか聴かへんかわからへんけどなんか欲しいレコードを買うのが趣味なんですわ」と微笑む岸田。今なお現役でレコードを愛し、最高のレコードをリリースし続ける2人に、レコードとの付き合いを訊いた。

取材・構成:村尾泰郎
写真:平間至
動画:岡川太郎
取材協力:PINK MOON RECORDS (https://pinkmoonshop.base.shop)

 

ーーレコード・ストア・デイのアンバサダー就任おめでとうございます。レコード・ストア・デイについてはどんな印象を持たれていますか?

佐藤「その日、ラジオ局がCDじゃなくてレコードをかけるのが新鮮なんですよ。いつもと同じラジオ局の番組を聞いていると音が変わるんです。いつもはCDのケバい音が流れてくるのに、ちょっと温かみがある音が聞こえてくる」

 

ーー言われてみればそうですね。家にプレイヤーがない人も、ラジオでレコードの音が楽しめる日。

佐藤「自分たちもラジオをやってるんですけど、そこでレコードをかけることってあんまりないんですよ。でも、この日はラジオからレコードの音が聞きえてくるのが面白くて、ラジオを聴いてることが多いですね」

 

ーーお2人はレコードからCDに移り変わった頃を体験した世代ですが、レコードに何か思い出がありますか?

岸田「子供の頃、父親がレコードプレイヤーを持ってて、日曜日にベートーベンとかハワイアンのレコードを聴くんです。それが普段聴いているカセットとかラジオよりええ音で迫力あったんですよ。レコードは日曜日にしか稼働しないので特別な存在でしたね」

佐藤「小学生の頃はレンタル・レコードを借りてきて、それをカセットテープに録音してました。そこにCDが出てきた衝撃は大きかったですね。初めて自分のお金で買ったのは、レコードやなくてCDやったと思います。確か米米CLUBちゃうかな。CDの衝撃が大きかったんで、レコードを買おうという気持ちは起こらなかったんです。レコードの音の良さを再確認したのは、ミュージシャンとして活動するようになってからでした」

岸田「私もCD世代ですね。こういう仕事をやるようになってから、イベントとかでDJがレコードをかけるのを見て〈ちょっと敷居が高いなあ〉と思って。自分がDJをやる時はCDを持っていってました。レコードはすごい恐ろしいもんやったんです。ただ、自分らがやってる音がアナログ志向なので、だんだんレコードと相性がいいのがわかってきて。レコード・ストア・デイで僕らが出したレコードを聞かせてもらうと全然音が違うんですよ」

 

ーーそんなに違いますか?

岸田「いま僕らはデジタルでレコーディングすることが多いんですけど、32bitの96kHzで録ってるんです。それをCDに落とし込むと16bit、44.1kHzまで圧縮される。それをMP3にするとさらに圧縮されてしまって、僕らがレコーディングの現場で聞いてた音からかなりデータが削がれた形で市場に出てしまうんです。頑張って作ったのにこの程度しか伝わらんのかっていう絶望感があって。許容量を超えるデータをCDに入れると、〈プチッ〉っていう電子ノイズになって商品としては不良品になるんですけど、アナログに音を流し込む場合は、許容量を超えたデータが入力されると音の端っこが潰れてアナログ特有のエフェクトになる。それがすごく良い効果を生み出しているんですけど、その効果をCDに落とし込むのは難しくて」

 

ーーアナログ特有のエフェクト、と聞くと、レコードがひとつ楽器みたいですね。

岸田「まさにその通りなんです。それで今回の新作では、まずアナログテープに音を流し込んで、アナログ的な効果を出したものをCDに収める、みたいなやり方を実験してみたんです。そこでわかったのは、今っぽい音はアナログにすると大事な部分が失われてしまうんですよ。昔っぽいロックやソウル、ヒップホップみたいにボトムが太いものは絶対アナログの方がいいんですけど」

 

ーーなるほど、音によって向き不向きがある。

岸田「ただ、最近のアーティストの音を聞いていると、サウンド面ではアナログ回帰が進んでいるような気はしますね。5年前くらいは音圧競争みたいになってたけど、最近はアナログみたいに潰れている音が増えてきた。もしかしたら、ポップ・ミュージックを聴いてるリスナーの耳がアナログ寄りになってきてるのかもしれないですね」

 

ーーリスナーの音の好みって時代によって変わりますもんね。80年代は深いリヴァーブがかかった人工的なサウンドが主流だったりしましたし。最近、若い世代がレコードやカセットに興味を持つようになったのはどうしてだと思います?

佐藤「うーん、人それぞれやと思うけど、やっぱりファッションなのかなっていう気はしますね。ちゃんとした環境でCDを聴けば、それなりに良い音で聴けると思うんですよ。携帯で音楽を聴ける時代にわざわざレコードを聴くのがかっこいいというか」

岸田「ファッション性は否定しませんけどね。そういうのも音楽を聴く楽しさやと思うんで。でも、僕の実感では若い人はそんなにレコードを聴いてない。いま大学で授業をしてるんですけど、レコードを聴いてる大学生は100人に1人くらいちゃうかな。だいたいiTunesかYouTubeで聴いてるし、レコードはおろかラジオさえ聞いたことがないんです。授業でラジオを学生と聞いたことがあるんですけど、感想を訊いたら〈映像がないのが新鮮で面白かったです〉って言ってて。そういう子たちにレコードの魅力を伝えていくには、もうワンフックないと難しいと思いますね」

佐藤「僕もレコードって頻繁に聴かないですからね。ただ、レコードをかけると感動するんですよ。CDとかMP3で音楽を聴くのがライヴハウスに遊びにいく感じだとしたら、レコードを聴くのはフジロックにいく感覚(笑)」

岸田「勝負下着感あるよな(笑)」

 

ーーレコード=フジロック説(笑)。でも、それくらいイベント性が高いことを自宅で楽しめるのって良いですよね。あとレコードには「買う」という楽しさもあります。お2人はレコード店にはいろいろ行かれたと思いますが、思い出深い店はありますか?

岸田「実家の近くに中古レコード屋と輸入盤屋があったんです。京都の北区っていうモヤがかかったようなとこなんですけど(笑)。高校の時、いろんな音楽に好奇心が出て来て、近所の店で中古レコードをよう買いました。カンとかノイ!、マグマ、ゴング、そういう怖そうなやつ」

 

ーーヨーロッパのプログレを?

岸田「はい、そういうのにはまって。当時、プログレは流行ってなかったんでめっちゃ安かったんです。グルグルなんて150円で売ってて(笑)。オアシスとかはCDで聴いてたんですけど、プログレはレコードで聴く方が格好いいと思ってたんですよ」

 

ーーわかります。プログレってジャケットもインパクトあるし、音楽も含めてエキゾチックですよね。

岸田「そう、エキゾチック。それで、もう潰れたんですけど、雅・壱番館っていうお店があって、そこによう行ってました。そこは雑貨も売ってるし、150円でコーヒーを出してくれたんですよ。騒音寺っていうバンドやってた人がバイトで働いてて、音楽を教えてもらったりギターの弾き方を教えてもらったりしたんです。(お店の人が)チャック・ベリーみたいなギター弾いて、〈お前弾けるか?〉って言うんで弾いてみたら、マウント気味に〈全然スウィングしてへん!〉って怒られて。うざ〜、と思ってたら〈これ聴け!〉ってZZトップのレコードを買わされたり(笑)」

佐藤「それ、なんかズレてへん?(笑)」

 

ーーそういう、人やレコードとの出会いがレコード店の面白さですね。

岸田「今やったらネットで気軽に視聴できるけど、レコ屋ってブツ(人)からブツ(レコード)を買う生々しさがある。小さいレコ屋で(レコードを買うかどうか)ちょっと迷って、店の人に聴かせてもらったりとか、そういうコミュニケーションの面白さって若い人にもわかると思うんですよ。イベントに行って、そこでDJがかけてる音楽が気になったり人に出会ったりするのと同じやから。ただ、レコ屋に行く機会がないだけ。行ってみたら、〈あ、この感じね〉ってわかると思う」

 

ーー配信で自動的に自分が好きそうな音楽が流されたりしますけど、レコード店で気になるレコードを見つけたり、店員さんから薦められたりするのは体験としてすごく記憶に残るし、刺激になりますよね。

岸田「そう、体験ですよ、体験。ディズニーランドに行くようなもん」

佐藤「僕はレコ屋でガッツリ自分の好みに合う試聴機に出会うのが好きなんです。その人が音楽を聴いてきた歴史がそこから浮かび上がってくるというか、この試聴機にCDを入れたのはどんな人なんやろって妄想してしまう。これまで3台くらい、そういう試聴機に出会ったことがあるんですけどね(笑)。これはレコ屋の話じゃないですけど、高校の時、母親の弟の家をリフォームすることになって、その弟さんのレコードをもらったことがあったんです。そしたら、ライ・クーダーとかディープ・パープルとかヴァン・ヘイレンとか、いろんなレコードがあって。その弟さんとはあんまり喋ったことなかったんですけど、田舎でそういう音楽を聴きながら過ごしてきたんやなあ、と思って」

 

ーーレコードから人生が浮かび上がりますね。

岸田「レコードはモノとして残るからね。福島の田舎に食堂兼宿泊所みたいなところがあって、そこに置いてあるオーディオとかレコードが最高なんですよ。近くにツアーで行った時に寄せてもらうんですけど、いろんな音楽を聴かせてもらいながらうまい酒を飲んで、という、これもひとつの体験なんですけどすごい楽しくて。これからは、そんな風にコレクターが自分のレコードを音楽仲間とシェアする、という楽しみ方も増えてくるかもしれないですね」

 

ーーそういえば、先日撮影で行かれた曽我部恵一さんのレコード店、PINK MOONはいかがでした?

岸田「最高ですよ。僕がレコード屋に求めるものが全部ありました。まず、サイズ感がちょうどいい。あれくらいが疲れなくていいんですよ」

佐藤「ほんでジャンルが絞れてるようで、まあまあ散ってるところも退屈せえへんし、すごく居心地が良い。アーティスト・レーベルみたいな感じで、〈曽我部くんが推薦してるんやったら大丈夫〉と思って安心してジャケ買いできるんですよね。3枚買わせてもらって1枚は当たり、2枚は大当たりでした。中古屋としては高打率ですよ」

 

ーーもし、くるりがレコード店をやるとしたら、どんな店にしたいですか?

岸田「ちょっとだけ飲み食いできるとええな。麺類とかポテサラとかを。あと、アルコールも出て……」

佐藤「打ち上げとかでバーとかに飲みに行って、そこがiPodから音楽を流しているような店やったら、みんな自分のiPodを繋げて〈これ聴いて!〉って音楽を聴かせあったりするんですよ。そういう店の延長みたいなレコ屋やったらいいですね。軽く飲みながら、店のレコードを自由に聴ける」

岸田「置いてあるレコードのジャンルはバラバラで、店入ってすぐにファドのコーナーがあるけど、ダイナソーJr.が爆音でかかってるみたいな。それで京都らしく一見さんお断り(笑)。店員に〈どちらのご紹介どすか?〉って言われたりして」

佐藤「こじらせてる店やなあ(笑)」

 

ーー店というより部室ですね(笑)。最後に今回のレコード・ストア・デイにリリースされる新作『天才の愛』について教えてください。前作『ソングライン』に比べると1曲1曲キャラ立ちしているというか、個性の強い曲が並んでいますね。

佐藤「そうですね。もともと、インストとか自分たちが普段やらないようなジャンルの音楽を2枚のEPに分けて出そう、みたいな話から始まったんです。それをひとつに融合するように努力しました。最初はどの曲もパンチがありすぎて〈こんなもん、誰が聴くねん?〉って思ってたんですけど、最終的に説得力のある作品になったと思います」

 

ーーレコードとしてリリースするにあたって、レコードならではのこだわりは何かありますか?

岸田「まずジャケですね。CDよりもデカイんで、じっくり見て欲しいと思います。ジャケも作品の一部やし」

 

ーー今回のジャケットは、作家/シンガー・ソングライター/画家の坂口恭平さんの絵ですね。

岸田「坂口さんしかいない、とピンときてお願いしました」

佐藤「あと、毎回アルバムをアナログにする時、A、B、C、Dで曲を割る(2枚のレコードの各面に曲を割り振る)のが大変で。聴く方も大変やと思うけど、その手間も楽しんでもらえたら良いなって思います。手間なぶん、音は絶対良いし」

岸田「ターンテーブルに置いて再生した時に聞こえてくる音。ジャケの絵。ジャケを触った時の感触とか匂い。五感を使ってアルバムを楽しんで欲しいですね。その生っぽさがレコードの魅力だと思うので」

 

左:PINK MOON RECORDS 店主 曽我部恵一さんと

 

【お買い上げレコード】

岸田繁さん
1. Mike Oldfield / Orchestral Tubular Bells (Virgin)
2. Jane Birkin / Lost Song (Philips)
3. Matias Aguayo / Are You Really Lost (KOPAKT)

佐藤征史さん
1. Lou Christie / Rhapsody In The Grooves (Raven)
2. Latin Dimension / It’s A Turned On World (Columbia)
3. 赤い鳥 / What A Beautiful World (LIBERTY / 東芝)

 

 

【リリース情報】

アーティスト:くるり
タイトル:天才の愛
フォーマット:LP
品番: NJS-750/1
レーベル:SPEEDSTAR RECORDS
販売価格:5,500円(税込)
発売日:2021年6月12日(土)<RSD Drops>
https://recordstoreday.jp/item/njs-750-1/

SIDE A
I Love You
潮風のアリア
野球
益荒男さん

SIDE B
ナイロン
大阪万博
watituti
less than love

SIDE C

コトコトことでん (feat. 畳野彩加)
ぷしゅ

SIDE D
*BONUS TRACKを収録。後日発表。

 

アーティスト:くるり
タイトル:thaw
フォーマット:LP
品番:NJS-748/9
レーベル:SPEEDSTAR RECORDS
販売価格:5,500円(税込)
発売日:2021年6月12日(土)<RSD Drops>
https://recordstoreday.jp/item/njs-748-9/

SIDE A
心のなかの悪魔
鍋の中のつみれ
ippo

SIDE B
チェリーパイ
evergreen
Hotel Evropa
ダンスミュージック

SIDE C
怒りのぶるうす
Giant Fish
さっきの女の子
人間通

SIDE D
Only You
Wonderful Life
Midnight Train(has gone)
ヘウレーカ!

 

RECORD STORE DAY JAPAN オフィシャルサイト
https://recordstoreday.jp