BORIS / THE NOVEMBERS、まさに「共作」といえるスプリット12インチについて
このたびスプリット12インチ盤『unknown flowers』を発表した、BorisとTHE NOVEMBERS。両バンドがそれぞれ書き下ろした新曲と、更にその新曲をお互いにカバーしたヴァージョンの計4曲を収録した本作について伺うべく、THE NOVEMBERSの小林祐介とBorisのAtsuoに書簡インタヴューを行った。
Text: 渡辺裕也
Live photo: Daisuke Miyashita
– 今回のEPをつくることになった経緯を教えてください。特にスプリット盤という形態を選んだ理由がぜひ知りたいです。
小林:何年か前に、Atsuoさんから話をいただいたのがきっかけです。Borisは他のアーティストとの共演・共作という形での作品をいくつも作っていましたが、自分たちとしては初の試みだったので、なかなか曲を作れずにいました。そんな中Atsuoさんが「互いに新曲を1曲ずつ持ち寄って、それを互いにカバーする。どちらが原曲かは敢えてシークレットにする」というコンセプトを提案してくれ、“Borisの新曲”を聴かせてくれました。そこからはだいぶイメージが広がり、“THE NOVEMBERSの新曲”を作ることができました。
Atsuo:色々な縁があって、ゆっくりと。好きなアーティストと一緒に作品が作れるのは一番うれしいことだから、現実になって本当よかった。
– お互いに新曲を書き下ろし、更にそれをカバーし合うというアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか? 基本的にスプリット盤というのはアーティスト同士の「共演」による作品だと思うのですが、『unknown flowers』の場合はそこに双方のカバーが加えられたことで、「共作」という意味合いも込められたように感じます。
Atsuo:お互い音楽のルーツが幅広いバンドだし、共通の部分、そうでない部分があって、また其々の現在の空気感もあったり…。新しい曲を持ち寄ってお互いにカヴァーする事でそういった見えない文脈も感じられて面白いんじゃないか?と思って。世代の差もあるし、楽曲以外に透明で、濃厚な情報量が含まれた作品になったと言えるんじゃないかな?
小林:一緒に演奏しているわけではありませんが、まさに「共作」だと自分は思っています。今回のBorisとの共演&コンセプトがなかったら、間違いなく生まれなかった楽曲だと思いますし、互いを意識した上でのアレンジや演奏自体もそうだと思います。
– また、今回のEPではあえて作詞作曲のクレジットが明かされていません。ただ、歌詞を吟味しながらじっくり作品を聴き込んでいくと、それぞれどちらのバンドが書いた曲なのか、なんとなくわかるような気もします。なので、もしかすると皆さんのなかには「わかる人にはわかるよね?」みたいな思いもあったのかな、と。実際のところはどうでしょう? 作詞作曲者名を伏せたことには、どんな狙いが込められているのでしょうか?
小林:もちろん、わかる人にはわかるでしょう。僕は発案者ではないので狙いについては言えないのですが、作者名を伏せることによって双方のファンが「よりフラットに」楽曲に触れてくれるんじゃないかなと思っています。「どちらの曲なんだろう」と想いを巡らせることで、楽曲そのものへの触れ方にデザイン性が生まれたと思っています。わざわざ看板を立てていない、表には出していないというだけなので、どちらが作った曲かを「わかって欲しくない」ということではないと思っています。知らせたくないだけです笑
Atsuo:そうですね、いろいろな想いを巡らせてもらう。リスナーにもそうやって作品に参加して欲しいと思いますね。
フラットに触れてもらうことで、逆にTHE NOVEMBERSやBorisのそれぞれの「コア」みたいなものにもう一度出会ったりするんじゃないでしょうか。
– この作品をリリースするにあたって、アナログ12インチというフォーマットを選んだ理由を教えてください。そして、このフォーマットを選んだことは、今作のレコーディング、あるいは作品の仕上がりにどんな影響をもたらしましたか?
小林:CDではなくアナログ、という話は当初からありました。我々としては初のアナログ盤だったので、是非やってみたいと思っていました。もともとは7インチを作ろうとしていましたが、単純に収録時間がオーバーしたので12インチになりました。レコーディング自体には特に影響はありませんでしたが、今回カッティングに立ち会えたことや、アナログ盤聴き比べの実験などをしたことにより、とても勉強になりました。
Atsuo:現代では色々なフォーマットがありますが、アナログが一番アーティストとしての説得力が見せられるフォーマットではありますね。ある種チキン・レース的な側面もありますが、アナログ盤でどれだけ高いクオリティの完成品を送り出せるか?そこにはもちろん経験、知識、制作費、それを受け入れてくれるリスナー、様々な事柄がクリアされないと取り組めないフォーマットです。作品のコンセプトから楽曲のレコーディング、制作進行のコントロール、アートワーク、リリース・パーティと全ての工程に置いて拘り抜いた、充実した作品作りでした。
– お二人は今回のレコードのカッティング作業にも立ち会ったそうですね。それはどんな体験でしたか? 他のフォーマットで完成品を手に取る時とは、また違った感慨があったのでしょうか?
小林:とても神秘的な経験でした。マスタリングを経た音源が、カッティングエンジニアよって処理され、実際にカッティングされる。そこでの音のさらなる変化に驚きましたし、音という情報がアナログ盤やCDという入れ物に記録される際の違いをまざまざと感じました。「完成形の音のイメージ」を追求するとき、記録するメディアによってそのプロセスが変わってくることは大きな学びでした。
Atsuo:Borisは96年ごろからアナログは出し続けています。色々な国、プラントで制作していますが、カッティングの概念、方法、傾向も年々変わってきている。現在のアナログ・プレスを取り巻く状況の中で最良の結果が出せたと思っています。今回のカッティングはこれからの指針となるような作品になりました。
個人的にアナログ盤は一緒に歳をとってくれる感じが好きですね。再生するたびにダメージが加わっていく。デジタルには無い経験がそこにはあります。
– 今作のアートワークは小林さんが担当されているそうですね。また、ジャケットにはかねてからTHE NOVEMBERSのアー写を撮影されてきた山谷佑介さんの作品が起用されていると伺いました。このアートワークの作成にはどのようなイメージで臨みましたか? そして、山谷さんにはどのような写真を求めたのでしょうか?(*現時点で私が本作のアートワークをまだ確認できていないことをご了承ください)
Atsuo:以前UKのWIRE誌の表紙でBorisも山谷くんと仕事をしていた事もあり、お互い知り合いのアーティストという事で話も早いだろうな、と。共通した美意識が三者にはありますし。
小林:山谷くんにデモ音源を予め聴いてもらって、そのイメージに合うような作品を彼から提示していただきました。その中からAtsuoさんと写真をセレクトし、コンセプトを打ち合わせし、作業していきました。両A面的なアートワーク、流転するようなイメージをうまく出せたと思っています。Atsuoさんの編集者的な視点に助けられました。
– 10分かけて激しく緩急をつけてゆくBorisに対し、THE NOVEMBERSはストイックなインダストリアル・ビートを反復させた「ひとつにならずに」。THE NOVEMBERSがクラウト・ロックを思わせる硬質なサウンドで迫り、Borisは静謐なアンビエンスのなかで囁くように歌う「journey」。こうして2曲の両ヴァージョンを聴き比べると、どちらも対照的なアレンジが施されているように感じました。2曲のアレンジをそれぞれどのように組み立てていったのか、可能な範囲で教えてください。
小林:今回、リファレンス的な意味で2曲ともに共通しているのはゲイリー・ニューマンや、Tangerine Dream、Swansなどでしょうか。これまで、自分たちがあまり形にしてこなかった要素を中心にアンサンブルを組んでいきました。
Atsuo:お互いにカヴァーをし合うという事が前提だったので、原曲からガラっとアレンジを変え、自分達のカラーに、更にはスプリットならではの悪ノリと言ったら言葉が悪いですけど…笑。スプリットやコラボレーションは普段自分達だけではためらうような表現も相手の所為にしてやっちゃえる所も楽しいですね。表現手法が更に拡張出来る。
– 歌詞の面で、相手にバンドにどんな印象を抱いていますか? どちらのバンドもリリックの文体にかなり特徴があり、そこが本作のなかに興味深いコントラストを生んでいると感じました。
小林:自分には絶対に書けない歌詞です。僕の書くものはあくまで歌詞ですが、Borisの歌詞は詩として眺めても美しいと思います。
Atsuo:今回THE NOVEMBERSサイドの原曲を、歌詞が載る前のデモから何ヴァージョンも聴かせてもらえて。彼らの実作における秘密やイメージの流れ、構築、着地のさせ方を見る事が出来ました。トラックから制作が進められてはいますが、最終的に「小林祐介の言葉」が歌われる前提での、フォーカスがそこにある。言葉が先に人格を持っていますから、これはある種の強さです。Borisは制作が終わるまで、その曲がインストになるか歌詞が載るかわからないまま揺ら揺ら進行する感じなんですね。そういう作曲法も顕著に作詩法に影響が出ているな、と思いました。
– こうして書き下ろしの新曲をカヴァーし合ってみて、相手のバンドについて初めて気づいたこと、もしくは改めて痛感させられたことがあれば、ぜひ教えてください。
小林:これは、先日の2マンを経て改めて思ったのですが、やはりBorisは強いバンドだと思いました。激しさも、深遠さも、静けさも、全てが美しい。やっぱりロックバンドって最高だなといつも思わせてくれる稀有な存在です。
Atsuo:前は若い世代でも見所あるバンドだな、みたいに上から目線で言ってましたけど。笑
Bandとしての成長目覚ましいですし、THE NOVEMBERSこそ強さを着実に手に入れてると思いますね。音楽活動だけでなくその周辺に及ぶバンド力さえも。
– 最後に、代官山ユニットで行われた2マン・ライヴの感想を教えてください。これまでになんども共演を重ねているBorisとTHE NOVEMBERSですが、『unknown flowers』の制作を経た今回の共演は、また心持ちも違ったのではないかと。
小林:とても意味のある、素晴らしい夜になったと思っています。世代やスタイルは違えど、確かに共鳴・共振する美意識があることを実感できました。また共演したいです。
Atsuo:Unitの夜は素晴らしい時間と空間が流れていた。お互いがいいオーディエンスに支えられてるな、と思えました。
次の日にはアイデアが思いついて小林くんに突然電話しちゃったけど、このスプリットから広がったイメージやアイデアがまだあるので、先の展開も楽しみにして欲しいですね。
Artist: Boris / THE NOVEMBERS (ボリス / ザ・ノーベンバーズ)
Title: unknown flowers (アンノーン・フラワーズ)
Format: 12inch EP
Release Date: 2018.10.11 (Thu)
Price: 2800yen (TAX include.)
Tracklist:
(Side-Boris) 1. ひとつにならずに 2. Journey
(Side-THE NOVEMBERS) 1. ひとつにならずに 2. Journey
【Boris】
Takeshi – Vocal,Bass & Guitar
Wata – Vocal,Guitar & Echo
Atsuo – Vocal,Drums, Percussion & Electronics
1992年結成、96年にTakeshi、Wata、Atsuoという現在のメンバー編成へ。 活動当初より、孤高ともいうべきスタンスと独自の方法論で、リアルな”Heavy Rock”を追求し続ける。 細腕の、黄昏に満ちたメロディを歌う女性ギタリスト。ギター&ベースの変形ダブルネックの揺らぐ影にまどろむヴォーカル。銅鑼を背負い、時に呪詛と祈りを叫び、儀式を司るドラムス。
一貫した”Heavyさ”を貫きつつも、固定されたジャンルやスタイルに捉われない特異な表現活動。轟音・爆音という言葉など生ぬるい、五感全てで”体験”を共有するショウによって、世界各国に熱狂的なファンベースを獲得している。近年はメンバー間の相互作用とフィードバックを重視し、よりグリッドから解かれた、オーガニックな楽曲制作・ライブ活動を展開。代表作『PINK』(05)、『SMILE』(08)、『NOISE』(14)をはじめとする30数作に及ぶフル・アルバム、SUNNO)))との共作『Altar』(07)、Boris with Melzbow『Gensho』(16)他約20作品に及ぶコラボレーション作を産んだ。拘り抜いた仕様でリ リースされる限定作品は即ソールドアウトとなり、膨大なカタログ数はとどまる事を知らない。また映像的と評される楽曲群は映画『リミッツ・オブ・コントロール』(09)、『告白』(10)、『ニンジャスレイヤー フロムアニメイション』音楽を担当し、ロック・フィールド以外にもアプローチする。昨年2017年には結成25周年を迎え、同年夏に目下の最新アルバム『Dear』を発表。25周年期間として過去最大規模のワールドツアーを展開中。
https://borisheavyrocks.com/
【THE NOVEMBERS】
2005年結成のオルタナティブロックバンド。2007年に UK. PROJECT より 1st EP 「THE NOVEMBERS」でデビュー。 様々な国内フェスティバルに出演。2013年10月からは自主レーベル「MERZ」を立ち上げ、2014年には「FUJI ROCK FESTIVAL」のRED MARQUEEに出演。海外ミュージシャン来日公演の出演も多く、RIDE, TELEVISION, METZ, NO AGE, Mystery Jets, Wild Nothing, Thee Oh Sees, Dot Hacker, ASTROBRIGHT 等とも共演。 小林祐介(Vo/Gt)はソロプロジェクト「Pale im Pelz」や 、CHARA, yukihiro(L’Arc~en~Ciel), Die(DIR EN GREY)のサポート、浅井健一と有松益男(Back Drop Bomb)とのROMEO`s bloodでも活動。ケンゴマツモト(Gt) は、園子温のポエトリーリーディングセッションや映画「ラブ&ピース」にも出演。高松浩史(Ba)は Lillies and Remains のサポート、吉木諒祐(Dr)はYEN TOWN BANDやトクマルシューゴ率いる Gellersのサポートなども行う。
2015年10月にはBlankey Jet CityやGLAY などのプロデュースを手掛けた土屋昌巳を迎え、5th EP「Elegance」をリリース。2016年は結成11 周年ということで精力的な活動を行い、Boris, Klan Aileen, MONO, ROTH BART BARON, ART-SCHOOL, polly, Burgh, acid android, 石野卓球, The Birthday 等錚々たるアーティストを次々に自主企画「首」に迎える。2016年9月に6枚目のアルバム『Hallelujah』を MAGNIPH/Hostessからの日本人第一弾作品としてリリース。
11月11日には結成11周年記念&アルバムリリースツアーの国内ファイナルとして新木場スタジオコーストワンマン公演を行った。2017年7月、FUJI ROCK FESTIVAL’17 へ出演。2018年2月には、イギリスの伝説的シューゲイザー・ バンド RIDEの日本ツアーのサポート・アクトを務める。2018年5月、新作 EP『TODAY』をリリース。
https://the-novembers.com/