完全セルフプロデュースのNEO・エレポップ・ガール、加納エミリ、7インチ発売記念インタヴュー
昨年5月に突如彗星の如く現れ、10月にリリースした1stEPが、SNS上で大きな話題を呼んでいる加納エミリ。
作詞/作曲/編曲/振付まで完全セルフプロデュースし自らを“NEO・エレポップ・ガール”と名乗る彼女が、なりすレコードから、初の7インチ・シングル「ごめんね c/w Been With You」を2月13日にリリースした。
これを記念しRecord People Magazineでは、いまだにそのキャリアに謎が多い彼女に直撃インタヴューを敢行。
2018年「アイドル三十六房年忘れ!R-グランプリ」の第7位に加納エミリを選出した南波一海氏が話を伺った。
取材・文:南波一海
写真:畔柳純子
– 加納さんのInstagramを遡ると、サロンモデルをやっていたところから始まって、ある日急に歌手活動のことが載るようになるんですよね。もともとはどんなことをしていたんですか?
加納:自分でもよくわからなくて。サロンモデルもそこまでがっつりやっていたわけじゃなくて、お誘いをいただいてやったって感じで、それをバイトにしていたわけでもないんです。
– よく街で声をかけられる「カットモデルやってみませんか?」みたいな。
加納:そうです。あとはInstagramのダイレクトメールからご依頼をいただいて、とかくらいですね。音楽活動のほうは、19才くらいの頃からDTMで曲を作り始めたんです。その19才のときからいままで、大体4年間くらいは空白みたいな期間があって。じつは、某レコード会社にお世話になっていたんですよ。
– そうなんですね。
加納:大手だったので、自分のやりたいことがなかなかできなくて。大人のかたのGOサインが出ないと動けないっていう状況が続いていたので、なかなか露出ができず、ずっと水面下で黙々と曲を作り続けていました。
– いわゆる飼い殺しみたいな状態で。
加納:完全に飼い殺しです。
– それはどのくらいの期間だったんですか?
加納:20歳で入って、22才の夏くらいに契約解除になったので、2年とちょっとくらい。音楽は作っていたけど音楽活動はしてなくて、2018年の5月にようやく始まった、という感じです。
– ソニーの育成にいたけどデビューしなかった人とかたくさんいますもんね。
加納:自分のまわりにも、そういう人達たくさんいました(笑)。
– そこに至る前のことから聞いていいですか? DTMをやり始めたのはなにがきっかけだったのでしょうか。
加納:曲を作り始める前に北海道から上京するのが先に決まっていて。漠然と東京で音楽をやろうと思っていたんです。東京行きが決まったので、しょうがなくって感じというか、いよいよ作るしかないなと思ってMacを買って、ソフトをインストールして。
– 北海道にいた頃はやってなかったんですね。
加納:東京に来てほぼゼロから始めました。北海道にいた頃も一応ボイストレーニングみたいなことはやっていたんですけど、漠然と音楽の仕事したいな、くらいしか考えてなかったんです。
– 中高生時代は楽器をやったりもしていない?
加納:楽器は全然できないです。父がドラムをやっていたので触ったんですけどすぐに飽きてしまって。ピアノもベースも触りはしたんですけどすぐに飽きちゃいました。パソコンで作るのが一番楽しいです。
– ただ音楽活動をしたい、歌手になりたいという夢が漠然とあって、それを動機に東京に出てきたんですね。
加納:そうなんです。小さい頃から歌手になりたいと思ってはいたけど、なんでここまで音楽にこだわっているのかは自分でもよくわかってなくて。毎日の音楽のことしか考えてないけど、自分はコレクター気質とかでもないし。小学生の頃から宇多田ヒカルに憧れていて、こんな人になりたいと思っていたんですけど、途中で無理だと気づいて。王道とかかっこいいアーティストになれるタイプの人間ではないと自分で悟ったんですよ。かっこいい人たちを横目に、自分の目標に近づける方法がないかなって探していたときにニュー・ウェイヴと出会いました。
– ニュー・ウェイヴを聴き始めたのはいくつくらいからなんですか?
加納:21くらいです。
– 意外と最近のことなんですね。
加納:最近なんです。高校生の頃から洋楽ばっかり聴いていたんですけど、「わぁ、これだ!」と思ったのがニュー・ウェイヴで、これがやりたいと思ったのも本当に最近のことなんです。
– 中高生の頃はどんな音楽が好きだったんですか?
加納:海外の有名な……ビルボードとかのトップに入るようなものばっかり聴いていて。ブルーノ・マーズとかリアーナとか。途中からダフト・パンクにハマって、ダフト・パンクのことをたくさん調べていたら元フェニックスのメンバーだったというのを知って、音の少ないバンドがいいなと思って。そこからストロークスとかインディー・ロックを聴いたりするようになっていって。ストロークスを検索していると、不思議とYouTubeでニュー・ウェイヴのバンドが出てくるんですよね。
– サジェストで出てきたんですね。
加納:それを聴いたら「あれ? かっこいいな」と思って。色々聴いていくなかでニュー・ウェイヴが一番しっくりきたんです。
– 加納さんのお気に入りのSpotifyのプレイリストを見ると、趣味がハッキリと出ていますよね。
加納:偏ってますよね。
– グルーヴィーなものとかよりも、縦軸がぱきっとした硬いビートのものが好きなのかなと。
加納:安っぽくて簡単そうな作りのやつ(笑)。こういうのが本当に好きなんです。
– 自分で好みのものに辿り着いたっていうのもいいですよね。誰の影響なのかってよく聞かれそうだなと思っていたんですよ。
加納:お父さんの影響とか誰々の影響とか。いままでも物販で20回以上は言われました。みんな「お父さんの影響?」って言いますね。
– それは……遠回しに彼氏の影響じゃないよねって願望が漏れ出ている可能性が(笑)。
加納:男の影響だとしてもせめてお父さんであってくれっていう(笑)。でも、説明も時間がかかっちゃうんですよ。全然違うんですけどって言ってもイチからは説明できないじゃないですか。
– 最新の洋楽が好きでダフト・パンクを辿っていったらフェニックスにいって、音数の少ないバンドに興味を持ってストロークスを聴いて……ってひとつひとつ説明していくわけにもいかないですもんね。限られた物販の時間で。
加納:取材だったら喜んでお喋りできるので、こういうのを読んでいただければ(笑)。
– そういう音楽を聴くなかで、バンドとかユニットをやろうという考えにはならなかったんですか?
加納:飼い殺しされていた時期にユニットを2回組んだんですよ。ふたり組のユニットで、それはアイドルじゃなくてアーティストでいこうっていう感じで。でも、どっちもうまくいかなかったんです。特にふたつめのユニットは仲がいいまま解散したんですけど、自分はやっぱり人とやるのが向いてないなと思ってしまって。ひとりでやって、自分の果たしたいことを果たすしかないと思って。
– そのユニットでライヴをすることはあったんですか?
加納:ふたり目の相方とは2回やったんですけど、それもお客さんも全然いないようなイベントだったので誰に知られることもなく解散しました。その頃やっていた曲をいまもそのまま歌ったりしてます。7インチのB面の曲もその頃に作った曲です。
– カーディガンズっぽい「Been With You」のほうですね。事務所を離れてひとりになったあと、なにがきっかけでステージデビューすることになったんですか?
加納:辞めたあと、半年くらいはなにもしなかった時期があるんですよ。最初のひと月くらいはメジャーデビューできなかったじゃんっていう気持ちがあったので、音楽辞めようかなと思ったりもしていたんです。普通に友達と遊んで気を紛らわせたりしてました。でも、音楽辞めたら自分の人生どうなるんだろう、ほかにやることないしなと思って、もう1回音楽を始めてみようって決意したんです。それで(2018年)1月から着々と準備して、5月に活動をスタートさせました。最近の人はあんまりやってないらしいんですけど、ハコ(ライブハウス)に直接デモテープを持って行ったりして。
– 昔ながらのやりかたで売り込みに行ったんですね。
加納:いまは声をかけていただいて素敵なかたと対バンさせていただく機会が増えましたけど、あのときはそれ以外に方法がななかったんですよね。ほかに繋がりがなくはなかったけど、そういうのは「出てどうする?」っていうイベントだったりしたので、だったらハコの人に女の子だけが出るイベントにブッキングしてもらうほうが早いかなと思って。
– それがアイドル現場だったと。
加納:そうです。最初はゴリゴリの地下アイドルイベントみたいなのばっかりでしたね。
– アイドルの括りのなかでやることには抵抗はなかった?
加納:なかったです。昔はアイドルじゃなくてアーティストがいいなと思っていたんですけど、変な振り付けとかニュー・ウェイヴとか、色んなものを加味したときにアイドルのほうが面白いかもと思って。もともと偏見もないので、そこでやってみようと。
– アイドルファンの人は受け入れてくれる懐が深いですもんね。
加納:深いです。
– ちなみにいまはフリーで活動していますけど、それ以外の道は考えなかったんですか? どこかに所属するとか。
加納:私はいま23才(2/13で24才)なんですけど、遅くはないけど急がないといけない年齢だと思うんですよ。事務所を探そうかなっていうのも一瞬考えたんですけど、探している間に時間だけが過ぎそうなのがこわくて。とりあえずフリーで始めてみて、音源を作って、あちこちに送ったりしながら活動しようと思ってました。最初は。
– そうしたら、思いのほかフリーのままの活動がうまくいって。
加納:はい、だんだんいけそうだなと思い始めて(笑)。逆にフリーもほうがいいのかなと。しばらくはこのままでいこうと思っています。どこかに属したいというのは特になくて、現状はめちゃくちゃ満足してますね。ただ、私もずっとフリーでいようとも思っていなくて、ここから先はなにかが必要だなと思ったら、そのときは探そうかなとは軽く考えています。ご縁があればと思っています。
– いまはアルバイトをしながら活動を続けているんですか?
加納:そうですね。最近はお客さんも増えて物販に来てくださる人が増えたので、バイトの日をだいぶ減らせるようになってきたので、2019年はもっと減らして、音楽に当てる時間を少しでも増やしたいんです。いまは全然貧乏なんですけど(笑)、2019年はめちゃめちゃ制作をやる予定です。
– 注目され始めた時期の生活と音楽活動のバランスは難しいですよね。音楽活動が忙しいけどそこまで稼げるわけではなく、かといって生活に追われると活動とか制作時間が削られてしまうという。
加納:バンドマンとかもありがちですよね。本末転倒にならないようにしたいと思ってます。
– 少し話を戻させてください。音楽をひとりでやることになり、しっくりきたというニュー・ウェイヴに傾倒していくわけですが、いざ作ってみて手応え的にはいかがでしたか?
加納:「ごめんね」は2018年の5月か6月に作った曲なんですけど、作っていてすごく楽しくて。1日中作っていても飽きなかったんです。自分のなかでこれは作りやすいっていう感覚はありました。でも、ひとりでDTMでやるのは楽しいんですけど、たとえばギターの音がほしいなと思うときに、私のイメージするギターが弾ける人がまわりにもいないので苦労したりしてます。
– これまでもギターの音が入ってる曲はありますよね?
加納:あれはLOGICのサンプルなんですよ。
– サンプル音源をうまくはめこんでいるんですね。
加納:そうなんです。ちゃんと弾いて入れてもらったわけではないんですよ。今度のシングルは、なりすレコードの平澤さんにbjonsのギターの人を紹介してもらうんです(笑)。
– CD-R『EP1』の音源は歌も自宅で録っているんですか?
加納:そうです。7インチのはスタジオ録音なんですけど、自分でリリースするほうは家でいいかなって。
– ミックスも自分。
加納:はい。自分でやってます。マスタリングができていないのでそのままの状態でリリースしているんですけど、それはちょっと申し訳ないなと思いつつ。最近のセルフプロデュースのかたってミックスも自分でやっていることが多くないですか?
– 多いですね。ここをもう少し頑張ればもっとよくなるのになと思うことはよくあります。逆に荒削りな感じがいい場合もありますしね。それから、色んな人に聞かれると思うんですけど、あの独特なダンスはどこから生まれたのでしょうか。
加納:エレクトロ系の音楽をやろうと思ったときに、そういうアイドルはたくさんいるじゃないですか。人数が多いグループもいるし、すでに人気のある人たちもいる。となると、自分がひとりで同じことをやったとしても勝負できないなと思ったんです。だから変なフリという隙きというか、掴みどころがあるといいなと思ったんです。アイドルは隙きがあるほうが絶対にいいなと思ったので、ああいう振り付けになりました。
– 狙った上でああなっているんですね。
加納:狙ってます。振り付けも自分で考えてますし。難しいんですけどね。変すぎてもダメだし、普通すぎると印象がないしっていうところで。
– エレクトロでソロだと、KOTOちゃんみたいにバリバリ踊るのもハードルが高いし。
加納:そうなんですよ! KOTOちゃんはKOTOちゃんにしかできないことをやっているじゃないですか。私、KOTOちゃんの大ファンなんですけど、同じことをやっても勝ち目がないので、違うところで勝負するために変な振り付けを選びました(笑)。
– 加納さんの曲調と歌とダンスの組み合わせが本当に絶妙で。どこかが少しでも間違うとおかしなことになりますよね。
加納:ただのヤバいやつですよね。踏み間違えたら危ないな、ギリギリだなと思ってます。曲のクオリティが下がったり、オシャレ系に行き過ぎると全部がギャグになっちゃうので、そこだけはしっかりやろうと思っています。
– 曲を作るときは自分がハマったものを参考にするんですよね。
加納:そうです。いつも色んな曲を参考にしながら1曲を作り上げてます。あの年代の曲を聴いて、ここがいいなと思ったら早速自分の曲のイントロに取り入れてみたり。昔の音楽が身近で、簡単に聴ける時代なのもよかったのかもしれないです。
– 何度も聴いて分析したりして。
加納:「この音はどう鳴っているんだろう。重ねてるのかな」とか色々考えながら。それを続けてきたので、最初の頃と比べて作りかたが変わってきたと思います。最初はゴミクズみたいな感じでした(笑)。ピアノもコードもわけわからんみたいな。でも音楽をよく聴いて、このベースはふたつ音が入ってるんだって気づいて、取り入れるようにしたり。
– 分析的に音楽を聴いて、自分の打ち込みに反映させていっていると。
加納:私、分析がすごい好きで。アイドルさんの曲もよく聴き込んでます。KOTOちゃんの曲を聴いて、佐々木喫茶さんはとてもじゃないけどマネできないなぁとか思ったり。
– 歌詞を書くことに関してはどうですか? 「ごめんね」はクールな女性が主人公ですよね。
加納:今回のレコードの2曲はどっちもフィクションなんですけど、「ごめんね」は女の子が元カレに対してまったく未練がないし、言っちゃえば大した相手じゃないしっていう歌詞なんです。女性の恋愛ソングって、失恋か、彼氏大好きみたいなハッピーな感じが多いじゃないですか。こういうふうに女の子が斜め上からものを言ってる歌詞ってあんまり見たことなかったので、作ってみたいなと思って作りました。
– 「Been With You」は?
加納:これは……なんとなくこんなイメージかなと思って適当に作りました。
– 急に雑!
加納:私、歌詞を書くのがすごく苦手なんですよ。大っ嫌いな作業です。自分でやるしかないので嫌々書いてるんですけど。
– 避けれるものなら避けたい? たとえば誰かに書いてもらうとか。
加納:そのほうが楽ですね。歌詞を書く時間をアレンジに当てたい。
– 自分のなかで言いたいことがあるわけでもない。
加納:そうなんですよ。私、なんで歌手になりたかったのかな(笑)。色んな歌手のかたの歌詞を見て、文学的でかっこいいなと思ったりするんですけど、私は文学的なことが書けないんですよね。字を追うのが苦手なので本を読むのも本当に好きじゃないし。
– 洋楽志向も強そうだし、歌詞をそこまで聴き込まないほうなのかもしれないですね。
加納:音で聴いてるのでまったく歌詞は気にしないです。でも日本のポップスは歌詞がめちゃめちゃ重要じゃないですか。だからもうちょっと頑張らないといけないなと思ってはいるんですけど、どうしても難しいんですよね。
– 「ごめんね」の歌詞がすごくいいから、書きたいと思うきっかけがあるといいんでしょうね。
加納:そうですね。「ごめんね」は楽しく考えながら書けました。
– 歌についてはどう考えていますか?
加納:自分の声は結構好きなんですけど、歌唱力はもっとつけないといけないと思ってます。いまのままでずっとやっていくならこのままでもいいのかもしれないですけど、やっぱりもう少しステップアップしたいから、そうなると歌唱力をつけないと厳しいなと思いますし、ライヴでも感動するポイントじゃないですか、歌唱力っていうのは。
– 一番わかりやすく心が動くポイントですよね。ライヴといえば、ザ・ウェークエンドの来日公演を見に行ってましたよね。
加納:最高でした! 感動しました。
– ニュー・ウェイヴの人っていう印象が強いですけど、いまのヒップホップとかブラックミュージックは加納さんの好きなものが多いだろうなと。
加納:音数が少ないスカスカな音楽好きからすると、ヒップホップとかは好きなものが本当に多いですね。808のポンって音を聴くとおおってなります。興奮するのはそういう音です。
– めちゃいい話ですね(笑)。そろそろ終わりの時間なのですが、2019年は活動がもっと活発になるだろうし、色々なリリースがあると期待していいんでしょうか。
加納:はい。知名度も全然ないし、まだまだこれからなので、音源をいっぱい作って、ひとりでも多くの人に喜んでいただきたいなと思っています。それと、有名なみなさんともっとお仕事がしたいです(笑)。
【商品情報】
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②HMV record shop限定アナザー・ジャケット
③渋谷パイドパイパーハウス&福岡・六本松蔦屋書店限定アナザー・ジャケット
アーティスト:加納エミリ
タイトル:ごめんね c/w Been With You
発売日:2019年2月13日
発売元:なりすレコード
品番:NRSP-755
仕様:7inch
販売価格(税抜):1,500円
JAN:4582432135407
収録曲:
A.ごめんね -Single Ver.-
B.Been With You