蓮沼執太 『メロディーズ』インタビュー
ーーなるほど。では、この作品も配信されているアップルミュージックをはじめとした、定額ストリーミング・サービスについてはどうお考えでしょうか。というのも、そこまで音の作り方にこだわっていくと、おのずとリスナーに届けられる際の音質も気になりそうだなと思って。
いや、このアルバムがアップルミュージックでも聴けるって、僕はすごいことだと思いましたよ。それこそワンクリックで気軽に聴いてもらえるわけですからね。そういう僕もアメリカではスポティファイに入ってたので、配信でもぜんぜん聴いてます。それと同時にレコードやCD、カセットもあらゆるフォーマットで音楽を買って聴いていますね。どう考えても、非圧縮のアナログのほうが音は良いことになっています。そのアナログにしたって、当然音が再生されるサウンドシステムによって変化しますよね。なので、やっぱり聴く人にとって最もチューニングされている環境、慣れている環境で音楽を聴いてもらえるのが一番だと思います。現代のようにいろんな方法で音楽が聴けるようになったからこそ、LPならではのおもしろさも感じられるわけだし、また大学生の時のようにレア盤を買ってみようかな、とか思うわけですよね。そういう意味では、以前とはLPとの付き合い方も変わってきた気がしますよね。それもそれでいいなと思ってます。
ーーなるほど。でも、この作品って、アルバム全体の長さも流れも、LPの尺にぴったり収まるじゃないですか。もしかすると、制作している段階でそこはいくらか想定していたのかな、とも思ったんですが。
その通りです。このLPのいいところは、ちょうどA面とB面でうまく流れが分かれてるんですよ。というのも、このアルバムは1曲目と5曲目がひと綴りになっていて、6曲目からまた違う流れになっているんですよね。まあ、だからってはじめからアナログ化を想定していたわけでもないんですけど、アルバム作品自体にそういうリズムがあるので、このレコードをとおして聴いてもらえると、まるで書籍を読み終えたあとみたいな感覚を味わってもらえるんじゃないかなって。
ーーでは、今回のアナログ化にあたっては、主にどのような処理を施されたのでしょうか?
今回のものに関しては、すごく丁寧にテクニカルなオーディオ処理をしたうえでマスタリングしました。僕、マスタリングで低音のこまかい動きを変えるのが、ホント好きなんですよ。「この下の低音のところ、もうちょっと速くしてください」みたいなマニアックな作業です。特にこのアルバムはいろんな楽器が入っていて、倍音の成分も多いから、それをひとつひとつ処理しながらミックスしていったんです。ただ、そうやってミックスしたものを実際にアナログに通すときにちょっと怖いのが、中音域が潰れちゃって、微妙なところが聴こえなくなるんじゃないかってことで。要は、ボトムが重くなるんじゃないかなと。
ーーサウンド全体の重心が下がるということ?
うん。少なくとも僕の音楽に関しては、アナログ化する際に弦がダメージを受けやすいんですよ。でも、今回のものはそういうことが奇跡的になかったんです。とてもクリアで、しかも低音域が素直にまるくなった。このまるさは、まずアナログでしか出せないんですよね。僕はもう、めちゃくちゃ好みな音ですよ、これ。
ーーこのアナログ化によって、蓮沼さんの理想とするサウンドにより近づけたと。
というか、作品がまたひとつ違うところにいけたような感覚ですね。というのも、基本的にアナログって、自分が思ったとおりにはならないんですよ。現代社会はデジタル中心だから、意外と思い描いたことが起こったりするじゃないですか。でも、レコードはそうじゃない。要は、ハイレゾだと数字だからなんとなく計算できちゃうんだけど、レコードの場合は手作業に近いから、わからないんですよね。で、そのわからない感じが、今回はすごくいい方向にいってくれて、より僕の好きな音になった。
ーーそれはぜひ他のソフトと聴き比べてみたいですね。では、最後に。この『メロディーズ』という作品をつくったことは、これから蓮沼さんの音楽活動にどんな影響を及ぼしていくと思いますか。
実はちょうど今、新しいアルバムの作業中です。それは断片的に楽曲を作っていたので集めてみると、すごいグチャグチャした内容の作品で、直接的には『メロディーズ』とは異なる新しいアプローチをしています。でも『メロディーズ』が世に出ていなければ、生まれなかった楽曲も収録されています。最近での仕事は、パナソニックのCM楽曲だったり、NHKの番組のために書いた曲や映画音楽もありますけど、どれも自分が歌唱をしています。舞台にせよ、映画にせよ、広告にせよ、今までの僕はインストの楽曲を作ることが多かったですが、こうやって自然な感じで歌詞を書いて歌うような音楽もすごくおもしろいです。でも、僕はこれまでもそうやって自分の音楽をひろげてきたので、そういう意味ではなにも変わってないんですよ。なので、また自然な形でヴォーカル・アルバムがつくれたらいいなと思ってますね。
《終わり》
蓮沼執太『メロディーズ』(LP)
発売日:2017年1月1日(日・祝)
レーベル:Shuta Hasunuma/品番:shutavinyl001
価格:3,000円(税抜)
【Side A】
1.アコースティックス
2.起点
3.フラッペ
4.RAW TOWN
5.ハミング
【Side B】
1.テレポート
2.クリーム貝塚
3.ストローク
4.ニュー
5. TIME
蓮沼執太Official Site:http://www.shutahasunuma.com/