高橋幸宏、RECORD STORE DAY JAPAN 2019 アンバサダー就任記念インタビュー
今年度のRECORD STORE DAY JAPANのアンバサダーを務めるのは高橋幸宏。昨年から、YMOのアナログ・リイシューがスタート。ファースト・ソロ・アルバムのヴォーカルを新録した『Saravah Saravah! 』のアナログも評判を呼び、さらにMETAFIVEのアナログも即完売するなど、高橋はレコードで聴きたくなるアーティストのひとりだ。高橋本人もレコードに愛着を持ち、子供の頃から音楽に親しんできた。今も海外を旅する時には現地のレコード・ストアに立ち寄るという、RSDムーヴメントの今を体現する高橋に、音楽をこよなく愛する先輩リスナーとして話を訊いた。
取材・構成:村尾泰郎
写真:平間至
動画:飯田康寛
取材協力:GENERAL RECORD STORE (https://generalrecordstore.com)
ーー昨年、YMOのデビュー40周年を記念して、オリジナル・アルバムのアナログ・リイシューがスタートしました。アナログで再発されるというのは、やはり感慨深いものはありますか。
高橋「ありますね。海外に行くと、YMOとか僕のレコードって高いんですよ。こんなに高くなくてもいいのにって思ってて。それにここ最近、日本のシティ・ポップが海外で再評価されて、若い人達がレコードを探して聴くようになっている。だからYMOのアルバムも、ちゃんとカッティングとかを考えてレコードを出せたら、と思ってたんですよね」
ーー幸宏さんから見て、若い人達がレコードに興味を持つ理由はどこにあると思われますか。
高橋「まず、ジャケットじゃないですか。かつてレコードからCDになった時、デザイナーががっかりしたと思いますね。あとは音圧とか空気感。レコードには分析できない何かがあるんですよ。もちろん、プレス工場によって違いはありますけど。カッティングまでちゃんと付き合っても、製品になるとダメなこともあるし」
ーーレコードって生ものなんですね。
高橋「そうそう。(アナログレコーディングの)テープって曖昧だから、レベルいっぱいにぶっ込んで、ちょっと歪んでる感じが良かったんです。だから音圧が違う。その分、細かい音が聞こえないんですけど。その点、ハイレゾは細かい音が全部わかるし、解像度は高いですね」
ーーCDが聴かれなくなってきた今、聴かれ方は両極端になっていますね。最新のハイレゾか、古いレコードか。
高橋「そうですね。僕は圧倒的に物が欲しいタイプなんで、気がつけばレコードが貯まってっちゃうんです。買い足したりはしてないけど、自分関係だけでいっぱいあるし、YMOも全部リイシューするんで場所とります。ただ、幅でいうとCDよりレコードのほうが狭い。そのぶん、見つけにくいけど(笑)。若い頃は一発でわかったんですけどね。背中の配色の感じとか覚えてたから。それに昔はアルファベット順に並べたり、レコードショップみたいに整理してたけど、最近は大まかにしか分けてないので」
ーー今でもレコードは聴かれていますか。
高橋「昔ほどは聴いてないかな。でも、レコードに初めて針をおろす時の気分っていうのは、今も忘れられないですね。そういえば、この前レコードで曲順を飛ばして頭出しをするっていうのを、久し振りにやってみたんですけど、もう出来ないですね。昔は何となくわかったんだけど」
ーーコツがあるんでしょうね。
高橋「うん、慣れだと思います。でも、やっぱりレコードは一曲目から聴いて行くのが良いですね。CDしか出なくなった頃は、細野さんと〈曲順はもう考えなくていいか〉って言ったりしてたけど。CDって簡単に曲を飛ばせるから」
ーーストリーミングもそうですね。好きな曲だけチェックして聴く。僕はレコード世代なので、アルバムは順番どおり聴かないと居心地が悪いです。
高橋「そう、一回は通して聴きますね。昔、レコードって子供には高価なものだった。だから、楽しみにしていたアーティストのレコードは、まず通して聴きました。いまネットだと定額でいくらでも聴けるでしょ。音だけ聴くのと、持っているものを聴くのでは価値観が全然違うと思いますね」
ーー幸宏さんは小学生の頃からレコードを買われていたそうですね。
高橋「5年生の頃から買ってました。兄たちも買ってたので、それを聴かせてもらったりもしてたけど、ほとんど洋楽でしたね」
ーー最初に買ったレコードを覚えていますか?
高橋「『罠にかかったパパとママ』っていう映画の主題歌のシングル(「Let’s Get Together」)です。 ヒロインだったヘイリー・ミルズっていう女優が歌っているんですけど、初恋ですね。今見るとそんなに可愛くないし、歌もヘタなんですけど(笑)」
ーー恋は盲目っていいますから(笑)。曲を聴きながら、映画を思い出していたわけですね。
高橋「そうです。子供の頃って音楽と映像の記憶が混ざり合っていて、いまだに曲を聴くと映像が浮かんでくる。だから自分が曲を作る時も、映像が浮かぶような音を考えるんです」
ーー幸宏さんにとって映画は重要な存在なんですね。
高橋「そういえば、SKETCH SHOWで『セシルの歓び』っていう映画の挿入歌「Do You Want To Marry Me」をカヴァーしたんですけど、当時フルコーラスの音源が見つからなくて、コレクターの人にコピーしてもらってカヴァーすることができたんです。で、テイ(・トウワ)君が年に一回、ヴァイナルだけしかかけないイベントをやってて。去年そこで僕の誕生日を祝ってくれたんですけど、その時、彼が「Do You Want To Marry Me」のシングルをかけてくれたんですよ。〈ヤフオクで5万で手に入れました!〉って言ってて、びっくりしましたね。まあ、彼はヴァイナル・ジャンキーだから。YMOのアルバムも同じのを何種類も持ってるし」
ーーすごいですね! それにしても、子供にとって洋楽ってエキゾチックな音楽ですよね。言葉もわからないし、曲の雰囲気も違うし。
高橋「僕が小学生の頃、大学に行っていた長男がアメリカにホームステイしたことがあったんですよ。当時は向こうの地方新聞に〈日本人が来た〉っていう記事が載るような時代だったんですけど、長男が帰国した時、いっぱいレコードを買ってきたんです。次男が音楽をやっていたんで、向こうのレコード屋で〈弟が音楽をやっているから珍しいレコードがほしい〉って言ったみたい。どれもホットロッドやサーフィンの二流、三流のバンドで有名な曲をカヴァーしてるんです。それが格好よくて。ジャケットも良いですと。高台にヴィンテージの車が2台止まってて、その下にLAの夜景が広がっているような感じ。〈うわあ、アメリカって良いなあ〉って思いましたね」
ーーそこでアメリカへの憧れが生まれた?
高橋「そうですね。中学になってビートルズとか(ローリング・)ストーンズとか、ヨーロッパのほうが好きになるけど、アメリカの音楽もずっと好きで聴いてました。例えばブラック系だと、モータウン、アトランティック、マッスル・ショールズとか、ずっとリアルタイムで聴いていたことは大きいです」
ーー幸宏さんがいちばん、レコードを買っていた時期というといつ頃ですか。
高橋「YMOの頃かな。とにかく輸入盤を探しまくってましたね。当時はネットなんて無いから雑誌とかを見て」
ーー当時よく行ったレコード屋ってありますか。
高橋「パイドパイパーハウスかな。結構行ってましたね」
ーーパイドで買ったレコードで印象に残っているものはあります?
高橋「フィーリーズです。ジャケが好きで」
ーーもしかして、ファーストの『Crazy Rhythms』ですか?
高橋「そうそう。アントン(・フィア)とか、メンバーみんなスクールボーイみたいなやつ。なんか独特だったでしょ?曲の途中からビートが全部倍になっちゃうし。結構アレンジの参考にさせてもらったな。スーザンのプロデュースをした時とか」
ーーそうなんですか。それにしても、輸入盤のレコードって日本盤とは違った質感がありましたね。
高橋「当時の日本盤は紙が良過ぎたんです。向こうのはペラペラで、その代わりコーティングしてあって光ってた。だからビニール袋に入ってないんですよね。で、ジャケットに直接シールが貼ってあった。〈SMASH HIT!〉とか。〈そういうジャケットで作りたい〉ってメーカーによく言いましたもん。そしたら〈無理なんですよ〉って言われて。〈なんで無理なの?〉って訊いたら〈そういう紙がないんです〉って。あと、クレームが来やすいとかね」
ーー日本人は繊細ですから、ジャケットが少しでも汚れていたり折れたりしてると、クレームになりやすいんでしょうね。
高橋「そうみたいですね。だから、ミカバンドの海外盤が出た時は嬉しかったですね。コーティングされたペラペラのジャケットで出たから。ただ、勝手にジャケットにバンド名を入れられたりして〈あれ?〉っていうのはあったけど」
ーーそういう微妙な違いがコレクター心をくすぐるんでしょうね。幸宏さんは海外でレコードを買われることも多かったのでは?
高橋「昔はすごい買ってました。例えばロンドンだったらラフトレードにはよく行ったし、もっと昔はポートベローでよく探しましたね」
ーー中古レコード屋が多いんですか?
高橋「蚤の市みたいなのがあって、そこで買うんです。土日に開かれるんですけど、そこにトノバン(加藤和彦)と僕とコンちゃん(今野雄二)の3人で出掛けて行って、古着とかレコードを買いまくるんです、レゲエだけでもたっぷりあるんですけど、ジャケットがなくて茶色い袋に入ってるだけ。そういうのを片っ端から買っていく」
ーー時期的にいつ頃ですか。
高橋「ミカバンドの頃だから70年代前半ですね」
ーーその頃にレゲエを買いまくっていたんですか。早いですね。
高橋「僕たち日本一早いんです。当時は〈レガエ〉って呼んでたけど(笑)。トノバンが泉谷しげるのアルバムをプロデュースした時に、初めて日本でレゲエをやったんです(泉谷の73年作『光と影』に収録された「君の便りは南風」)。当時はボブ・マーリーの存在も知らなかったから、とにかく〈Reggae〉って書いてあるレコードを見つけると買ってました」
ーー大量のレコードを持って帰るのも大変ですね。
高橋「飛行機では重量オーバーで持って帰れないから、別の荷物にして日本に送るんだけど、〈届かなかった……〉っていうこともありましたね(笑)」
ーー昔、レコードは海を渡ってやって来た。それに比べて、今ではデータをダウンロードするだけで便利にはなりました。
高橋「ダウンロードで済ませるのと、モノを買うのとどっちが良いかっていう論争はずっとあるけど、マニアックに音楽を聴く人はやっぱりアナログ盤が欲しいんじゃないかな。そういえば、アナログ盤をかけるバーって結構あるじゃないですか。そういうところに行くと偏ってることが多い、ソウルばっかりとか、ニューウェイヴばっかりとか。もっと幅広く聴かせてくれる店があったら良いのにって思いますね、そういうところでみんなで楽しくやれれば、アナログももっと売れるんじゃないかって」
ーーそうですね。ライトユーザーというか、そんなに音楽が詳しくないお客さんもレコードを楽しめるようなお店があるといいですね。では、最後にアンバサダーとしてメッセージを頂いてもよろしいですか。
高橋「今、レコードをかけられる安価なシステムが出て来たじゃないですか、ターンテーブル含めて。レコードで持っていたいアーティストがいるっていうことが、わかる時がいつか来ると思うんですよ。だから、レコードがかけられるシステムを一度持ってみるのも楽しいんじゃないかな。あと、レコードは飾っておくのもいいですよ。僕も部屋に飾っていて定期的に変えています。自分の作品が多いですけどね(笑)」
RECORD STORE DAY JAPAN オフィシャルサイト
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