O’CHAWANZインタビュー 今は「まただ」という気持ちは全然ない
一方向のジャンルに留まらず、ヒップホップの雑食性を柔軟に取り込みながらアイドルシーンにおける独自のスタンスを確立してきたO’CHAWANZ。グループはコロナ禍以降も積極的に活動を続け、2020年には2枚のアルバム『Mellow Madness』『コラボ』を、昨年はアルバム『Do The Right Thing』と初の7インチレコード「EARTH c/w SPARK!!」をリリース。メンバー編成を変えながらも活発な動きを見せてくれていたが、この3月で長らくグループを支えてきたメンバーのいちこにこが活動終了することに。現体制ラストとなるミニアルバム『Episode X』リリースのタイミングで、メンバー二人にその背景とこれからの展望を訊いた。
(取材・文/南波一海)
え、いちこちゃんが? そんなことある?
――3月末にいちこさんの活動終了が決まっていますが、具体的な理由をどこかで発表したりはしているのでしょうか。
いちこにこ(以下「いちこ」):YouTube配信で話したりもしたんですけど、それもふわっとしてたかも。
しゅがーしゅらら(以下「らら」):そうだね。会社の都合で、とは文面にしてないので。
――お二人とも社会人として働きながらこの活動をしているんですよね。そして、本業の都合で音楽活動を辞めざるを得なくなってしまったと。
いちこ:4月から人事制度が大きく変わるんですよ。そうすると、全国まではいかないにしても異動も多いし、少し前に部署異動してからは平日も休みづらくなってきたんです。もう社会人6年目になって、責任ある仕事も結構増えつつあって。
――端的に言うと、偉くなってきた?
いちこ:いやいや……偉くなりましたって冗談で言ったりしてますけど(笑)。この活動と仕事の両方をめちゃくちゃ頑張っていくというのはいっぱいいっぱいになってきてしまった、という感じです。
――お金のことや就職の悩みはアイドル活動していく上で多くの人がぶつかる問題じゃないですか。O’CHAWANZはそこがすでにクリアされているのがいいなと思っていたんです。でも、たしかに会社員を続けているとそういうことも起きていきますよね。
らら:今までもキツかったしね。距離的にも。
いちこ:そうそう、毎回群馬から東京に出てくるのも地味にキツかったので。
らら:ライブが終わるのが遅くて車で送ってもらったりしたこともあったし。
いちこ:うちの上司から、係長とかそういうのにしたいと言われていて。
らら:え、いちこちゃんが? そんなことある? 20代で係長……すご……。
いちこ:それで結構プレッシャーかけられているというのもあります。
らら:そっか。いちこちゃんは仕事もちゃんとやりたくて就職してるから、多分こういう感じになっていて。私の場合はやりたいこととかは全然関係なく仕事を選んだんですよ。
――ららさんはアイドル活動がしたいから、しっかり定時にあがれて土日も休める仕事を選んだんですよね。
らら:そうです。いちこちゃんみたいに偉くなることも多分ないし(笑)、転勤も絶対にないんです。いちこちゃんは両方やれてたのがすごいと思う。
――いちこさんはこれ以上続けられないと思い、辞意を伝えるわけですよね。そのときのことをうかがっていいですか。
いちこ:最初に言ったのがららちゃんだったんです。
――運営スタッフではなく。
らら:それを聞いたときは嬉しかった。その話を言われたのがイベントの日で、楽屋で着替え中だったんですよ。話しかけられた瞬間にそういう系の内容かなと気づいたんですけど、私はまだ着替えてて。O’CHAWANZの活動は3月いっぱいまでしかできないっていう、決定的な部分を話すときは着替え終わってからちゃんと聞きたかったんですけど、まだズボンを履けてなかった(笑)。ズボンを履かないまま話を聞いたのをすごい覚えてます。ああ、間に合わなかったなって。
――しっかり受け止めたかったのに(笑)。
らら:間抜けな格好で聞いてしまいました。
いちこ:ズボン履いてなかったのは覚えてないよ(笑)。その前の週くらいに会社の人事説明会があって、これはやばい、早めに話さなきゃと思ったんです。
らら:今まではメンバーが辞めるときって、最初に私に言ってくれたことはなかったんですよ。いちこちゃんが一番に言ってくれたのは嬉しかったです。
――その話を受けて、ららさんはどういうリアクションを取ったんですか?
らら:引き止めたりはしなかったです。同じ社会人として状況もわかるから。いちこちゃんはそういう日が来るまで続けくれると言ってくれていたので、遂にその日が来たんだなって。
――ららさんは以前、グループを辞めるタイミングは自分で決めるものだと言っていたと思うんです。とはいえ、3人編成でかなりうまくやれている時期があって、この1年ほどでまた振り出しに戻ってしまうような感覚もあるんじゃないかと思うんです。さすがに続けるか悩んだりはしませんでしたか。
らら:そうですよね。いちこちゃんに言われた次の日くらい、ひとりになったときに自分はどうしようって考えたんです。じつはちょっとだけ辞めようかなと思ったんですけど、2秒くらいで続けようと思いました。長い2秒間でした(笑)。前にいたグループが解散したあと、O’CHAWANZとして続けるか、それとも私も辞めて一般の人に戻るかという選択をするときがあって。変な言いかたなんですけど、私は辞めるときにたくさんの人に悲しんでほしくて。
――惜しまれて辞めたい。
らら:そうです。でも、前のグループの解散で引退したとしても、悲しんでくれる人はそんないるかな? となって、もうちょっと増えるまでやろうと思ったんです(笑)。いちこちゃんの最後のライブがエイジア(clubasia)になるんですけど、私もそこで終わりにしたら、たくさんの人に惜しまれるという願いが叶うかなって。それで辞めようかなとちょっと思ったんですけど、私が続けてることが生きるモチベーションになってますと言ってくれるファンの人のことが頭によぎったんです。そんなふうに言ってくれる人がいるんだから、まだ続けようと思いました。
――なるほど。そう考える人はたくさんのファンが悲しんだら辞められないような気もします(笑)。
らら:ただ、それは二の次というか(笑)。続ける理由の一番はこの活動が楽しいからで、それがまだまだずっとあるんです。ラップとかヒップホップもだんだん楽しくなってきたし。
――ラップへの意識が変わったのは近年のことですもんね。いちこさんも同じようにファンのことが頭をよぎったりしたのではないでしょうか。
いちこ:ちょうどはかせちゃん(元メンバーのりるはかせ)が辞めるときあたりで、私、仕事のことで病んじゃったんです。薬飲みながらライブやってたりして。
――そうだったんですか!
いちこ:はかせちゃんはワーっとなってるし、私たち二人がO’CHAWANZを続けてくれるのが嬉しいという声もあるし、頑張らなきゃ頑張らなきゃとなってしまって、それで参っちゃった部分もありました。お客さんが好きでいてくれることは嬉しいけれど、頑張らなきゃという義務感を持ってしまった。
ゆるくないからっていうのは言っておきたい
――真面目すぎるところがあるんですね。
いちこ:私はTwitterをよく見るんですけど、人の言葉がすごく残っちゃうので、誰かが悲しんでるのを見るのがつらくて。ららちゃんと私は社会人だから、頻繁に活動できなくてものんびりやってほしい、みたいなツイートは結構見かけるんですよ。
らら:たしかに。
いちこ:その言葉に影響されて、続けることがいいのかなと思っちゃう自分と、やっぱりいっぱいいっぱいだし、どこかで区切りつけないとどちらかが適当になっちゃうなと悩んでしまって。辞めることを撤回することはないけれども、今も悩んでるんです(笑)。私自身もよくわからないんですよね。ただ、ゆるく続けてくれって言われるけど……(ららを見て)O’CHAWANZってゆるくないじゃん?
らら:そうそう、全然ゆるくない。いつもやらなきゃいけない作詞を抱えてるし。
いちこ:ゆるくないからっていうのは言っておきたいです(笑)。私が辞めることで悲しんでくれる人がいるのもわかってるし、迷惑をかけるのもわかってるけど、仕事が「じゃあ来月から新潟転勤ね」みたいなこともありえるんですよ。そうなった場合、ライブとかリリースが決まってるのに出られないというのもイヤなので、この3月でちゃんと区切りをつけることでよくなることもあるんじゃないかなって。
――薬を飲んでまで続けてきたということを聞くと、本当にお疲れさまでしたという気持ちになります。悩んでいるとはいえ、軽々しく辞めないでとは言えないですよ。
いちこ:でもそれはまぁ、上司のパワハラみたいなのがあったので。
――そっちですか!
らら:痩せちゃってたもんね。
いちこ:適応障害みたいになってしまって。それで部署が変わったんです。
らら:いちこちゃんは仕事ができちゃうから、任されちゃったりもしやすいんだろうな。
いちこ:4月以降は休む時間が取りたいし、というのもあるし、あとは年齢的にも疲れやすくなったというのもあります。うまくバランスが保てなくなってきてはいるのかなと。東京の会社に勤めてたらまた違ったのかもしれないですけどね。
――本当にタイミングがそうだったということですよね。そして、ららさんは続けていくと。
らら:はい。でも、いちこちゃんが辞めたあとはどうなるか全然わからないです。新しいメンバーを増やすのか、ひとりでやっていくのか。
いちこ:ひとりでやってみたい気持ちはあるの?
らら:ええ!? どうかなぁ。めるちゃん(初期メンバーののんのんれめる)が辞めて、1回だけひとりでライブをしたんですよ。そのあとSAKA-SAMAに期間限定で入ったときにわかったのが、やっぱり私は仲間がいるほうが楽しいということで。だから、できれば誰かと一緒にやれたほうがいいかなと思う。
――ちなみに現在一緒に活動している、りるひなさんがサポートメンバーで入った当初は、即戦力ということもあり、なんなら正式加入してほしいという話をしていましたよね。それに関してはやはり難しいですか?
らら:ひなちゃんがO’CHAWANZだけをやりたいとかだったら話は別ですけど、きっとうさみみ(りるひなこと新山ひなが籍を置くグループ・うさぎのみみっく!!)みたいな感じのザ・アイドルが声もキャラも合ってると思うし、本人もそういうほうがやりたいんじゃないかなと思うから。ひなちゃんを正式メンバーに無理に引っ張るようなことはできないです。かといって、前みたいに私がSAKA-SAMAには入ったりもできないですし。今のSAKA-SAMAはキレがすごいので。でも、今はとりあえずはいちこちゃんを送り出すことしか考えないようにしてます。終わってから考える(笑)。
――O’CHAWANZは一時はメンバーがららさんひとりというところまでいって、そこからメンバーの増減がありつつもリリースを重ね、発声まで変えながら現在のラップスタイルを確立していきましたよね。お客さんがゼロだった時期もあったけれど、よくぞここまで、と言いたくなるほど着実にファンを獲得してきました。お二人は大変な道を辿ってきたと思います。
いちこ:それを言われると、ああ、辞めていいのか……ってなっちゃう。申し訳ない。
らら:人の言葉に影響されてもいいんだよ?(笑)。でも、いちこちゃんは最初の頃からO’CHAWANZを自分の最後のアイドル活動にすると言っていて。
いちこ:前のグループを中途半端に1年くらいで辞めちゃったので、次でやり切って終わりたいと思ってたんです。
――その覚悟がグループを前進させたんだろうなと思います。
らら:これまで、いつもいい感じになってきたぞ、勢いに乗ってきたぞというところで誰かが辞めちゃって、またイチから始める感じだったんです。「まただ」と思ってがっかりしちゃってたんですけど、いちこちゃんは、じょしゅちゃん(元メンバーのじょしゅあんぬ)が辞めたあとかな、「私は絶対に辞めたりしないから。仕事のことでどうしても辞めないといけない日が来るかもしれないけど、その日が来ない限りは辞めないから」って言ってくれたんです。そんなこと言ってくれる子は初めてで、それこそあのときの私が欲しかった言葉だからすごく嬉しかったのを覚えてます。だから今は「まただ」という気持ちは全然ないんですよね。
いちこ:(涙を流して)嬉しい。その話をしたの覚えてる。懐かしいね。
――ららさんもこれまでとは違う感覚で送り出そうという気持ちでいるわけですね。
らら:そうです。まだ先は長いから、そのあとのことは、まぁなんとか。
――O’CHAWANZをかなり長いスパンで考えているのもすごいなと思います。いちこさんラストライブの前には新作も出ますね。
らら:そうだ、最後に二人で出したいと言って、ミニアルバムを出させてもらうことになりました。いちこちゃんとその曲をできるのも短いんですよね。
いちこ:すみません。
らら:違う違う、責めてるわけじゃないから(笑)。
いちこ:でも、O’CHAWANZはメンバーの替えがきかないから、人が辞めちゃうとできない曲が出てくるんですよ。
――歌詞も自分たちで書いてる曲が多いですしね。そのとき、そこにいた証があるのは素晴らしいことだと思いますよ。
らら:本当に。いちこちゃんが書いてる歌詞はいちこちゃんでしかないから、別の人が言ってもおかしくなるんですよね。よくお酒のこととか出てくるし(笑)。
いちこ:はかせちゃんのところを二人でやるのもいまだに口が慣れなくて難しいよね。
らら:だから私は先のことを考えないんです(笑)。私は3月、いちこちゃんを送る! あとはなんとかなる!
いちこ:(笑)。O’CHAWANZをよろしくお願いします。
■リリース情報
アーティスト:O’CHAWANZ
タイトル:Episode X
フォーマット:CD
品番:SCDF-033
レーベル:Second Factory
販売価格:2,500円(税抜)
発売日:2022年3月9日(水)
アーティスト:O’CHAWANZ
タイトル:EARTH c/w SPARK!!
フォーマット:7インチレコード
品番:NRSP-797
レーベル:なりすレコード
販売価格:1,500円(税抜)
発売日:2021年7月17日(土)<レコードの日>
■ライヴ情報
O’CHAWANZ 1st Generation Last Oneman Live「No Time To Die」
日時:2022年3月25日(金)
開場18:00 開演19:00(予定)
会場:clubasia
料金前売4,000円/当日5,000円(限定数)