Last Update 2018.11.12

Interview

Picoこと樋口康雄、レコードの日 記念インタビュー

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取材/構成:関 美彦


エヴァーグリーン!
Picoのシングル「アダムとイブも」が遂に復刻リリースされる。やっと実現したPicoこと樋口康雄インタビュー。

1972年の渋谷から2018年サバービアで暮らす僕らに大変なプレゼントが届いた。Pico「ABC」からのシングルカット。1972年に発売されたシングルと同じ仕様の復刻。もしもこれが今年の新作なら脅威の天才少年としてバズっていただろう。現在形のソフトサウンディングミュージック。伝説的な歌番組「ステージ101」のキャストとしてキャリアをスタートさせソロアルバム「ABC」を経てCM音楽の巨匠として音楽界では知らぬ者がいない樋口康雄。今回のシングルリイシューのタイミングで質問をできる機会に恵まれた。天才の本音とは。彼のつぶやきこそ音楽だ。

「もともとCDのためではなくアナログレコードのために制作したものですから、このかたちでの再発というのが一番ふさわしいと考えます。『新品の古いレコード』というのに不思議な魅力を感じます」

ストリーミングサービスや、CDではないレコードとしてのリリースについて樋口氏は語る。

– 樋口さんの考えるシングルに必要な要素とは何でしょう。楽しさ、悲しみあるいは人を惹きつける要素とは?

「繰り返しの再生に耐え得る作品であることが必要な要素と思います」

– さて、1972 年の東京の街を表現するとしたらどんな言葉になりますか。渋谷、公園通り、神宮前、印象に残る風景などいかがでしょうか。

「渋谷駅から公園通りに沿ってNHKのある場所までほぼ毎日通っていたので、そこに当時の生活のすべてがありました。日々いろいろなものが新しくなっていったのに、わき道を入ると古ぼけた屋台のラーメン屋があったりした。なんだ、いまだってそうだし、そんならほとんど何も変わって来なかったのかもしれません。ただ、神宮前のヒッピーショップというのは現代にはもうありませんから、やはり今とは少し違っていたのでしょう」

– アルバム「Pico first abc」は特にプロデュースの表記はありませんがご自身のセルフプロデュースのアルバムと考えてさしつかえないでしょうか。ボーカルのディレクションはご自身ですか?

「そういうことになりますが、一緒に組んでスタジオワークをしていたのはジョニー野村(後のゴダイゴのプロデュサー)と日本フォノグラムのあの本城和治氏です」

本城和治氏はスパイダースや森山良子らを手がけ村井邦彦をフックアップしたと言っても過言ではない日本のポップミュージックを作り上げた最重要人物の一人だ。

『ソングライターとしてポップスの世界で使ってもらえたらうれしいと感じるはずです』(樋口康雄)

– シンガーソングライターの幕開けの時代でしたがセカンドアルバム以降は制作のご予定はなかったのでしょうか。

「あるにはありましたが、その後は完全に裏方に廻ったのでそういうことにはなりませんでした。あえてセカンドと言うなら、2003 年の MUSIC FOR ATOM AGE がそれでしょうか」

MUSIC FOR ATOM AGEは樋口氏による鉄腕アトムトリビュートアルバム。EPOや上田知華、アーティストとしてPICOの名前も。「abc」以来の実質セカンドアルバムという事であればたいへん重要な作品なのだが残念ながら未聴。たいへんな後悔だ。

– 石川セリさんの素晴らしいアルバムなど女性ボーカルの作品も手がけてらっしゃいます。女性ボーカルのディレクションで気をつけている事は何でしょう。

「仕事を始める前に『気が合うかどうか』確認することが大切と考えます。それをしないととんでもない事態になることだってありますから」

たいへん耳の痛いお話である。

– 1972年に初めて「アダムとイブも」のシングルをご覧になった時はどんなお気持ちでしたか。レコード店などで手を取りガールフレンドに「これは僕のレコードだよ」とかお話しするような事は?

「1969 年にシングアウトというバンドで RCA ビクターから出ていたので特にそういう感情はなかったです」

シングアウトはステージ101にレギュラー出演していたユニット。中村八大/かぜ耕士のペンによる「涙をこえて」は今でもラジオで聴く大ヒットである。

– 今後シンガーソングライターとしてアルバムを作ってほしいとオーダーがあった際はどうされますか。エルメート・パスコアールのように素晴らしいレコードになる予感がします。ご自身で歌うとすればどんな歌が良いでしょうか?

「今後シンガーはありえないですが、ソングライターとしてポップスの世界で使ってもらえたらうれしいと感じるはずです」

-アナログレコードブームのなかはじめて「アダムとイブも」を手にとるリスナーの方にメッセージをお願い致します。

「50年近く前にこんなことをやっていました。今さら少し恥ずかしい気もしますが、そういうの作っちゃたんだから仕方ないですね。高度成長期の最後くらいの時代と言えますが、実際は音楽業界もこの国もまだヨチヨチ歩きの頃でしたから、まあこんなもんでしょうか」

巨匠の言葉は重く、しかし確かだ。90年代渋谷のレコードショップで「アダムとイブも」を聴いていた。何か渋谷の街によく響く音楽なのだろう。僕はPicoのアルバムをカセットにダビングし素敵な女の子にあげた記憶がある。「I love you」がその曲のタイトルだ。


 

アーティスト: Pico
タイトル: “アダムとイブも / I LOVE YOU”
販売価格(税抜): 1,800円
発売元: ユニバーサル ミュージック合同会社
フォーマット: 7inch
品番: UPKY-9013
JANコード: 4988031299838

 

■アーティストプロフィール

– 樋口康雄
母33歳の時、東京に生まれる。
幼少時から音楽的な環境に恵まれ、バイオリンを嗜む父と琵琶を嗜む祖母の影響を受けて3歳よりピアノを始める。天性の絶対音感のもとに音楽性を育み、学生時代よりNHK音楽番組の編曲を皮切りにテレビドラマ、レコード、CM等の作曲を手掛ける。1971年~1978年までの米国MCAとの専属作家契約の後、独立し現在に至る。本能的直観力で創作するタイプで、一定のシステムをたてたり理論的探究に没頭するタイプではない。明快で色彩的に豊かな管弦楽を得意とする。管弦楽曲“A Thousand Calabashes”(1979年。ニューヨークにて初演)の他、劇場用映画、テレビ・ラジオドラマ、ドキュメンタリー、アニメーション、レコード音楽、劇音楽、舞台昔楽、広告音楽などの付随昔楽多数。

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