Last Update 2019.12.13

Interview

吉田哲人、デビュー・シングル「ひとめぐり」発売記念インタビュー

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CMやTVの音楽制作、コンピレーションCDの監修……近年は、チームしゃちほこやWHY@DOLLなどのコンポーザー/アレンジャーとして活躍する吉田哲人。レコード研究家としても知られる彼の楽曲は、棚に埋まったレコード量に比例するマニアックさを忍ばせながらも、それだけでは計れない“人懐っこい”チャームを漂わせながら、アイドルポップ・シーンにおいてもしっかりとした足跡を残してきた。そんな彼が、シンガー・ソングライターとしてソロ活動をスタート。「NEO・ニュー・ミュージック」なるテーマを掲げて世に問うデビュー・シングル「ひとめぐり」は、シティー・ポップの洗練とはひと味違った、テーマから伺える通り、2020年代へ向けてのニュー・ミュージック。ノスタルジアを漂わせながらもナウでキャッチーなポップ・ナンバーとなっている。

取材・文:久保田泰平
写真:畔柳純子

 

──まずはその、なにゆえソロ作品を出そうということになったんでしょう?

 

去年の年末にWHY@DOLLのEP『Hey!』のマスタリングが終わって、あれが僕のなかですごく達成感があったんです。そこで来年はどういうことをしたら自分のテンションが上がるかな?って考えていた時に、友人になんとなく「どういうことやったらおもしろい?」って訊いたら、「ソロ出せばいいんじゃない、なりすレコードから」って(笑)。まあ、そういう経緯もあったんですけど、『Hey!』が出て、しばらく経ったところでほわどるが活動終了っていうことになったから、しまったなあ、ほわどると一緒にやる機会がなくなる!……ってことで、今年ソロをやろうっていう話はしていたんですけど、ほわどるが終わっちゃうから急ぎで、っていうのが本当のところかな。

 

──そこで腰を上げたと。吉田さんにとってほわどるは、近年でいちばんの活躍の場とというか、クリエイティヴィティーを発揮していた場所ではありましたからね。

 

彼女たちがT-Paletteから出すようになってからはずっと僕の曲が入ってたし、毎回マスタリングまで立ち会ってたましたからね。相方がいなくなるようなもので。

 

──ほわどるの制作に携わっていて、いちばんおもしろかったことはどんなところでした? やはり、お互い手応えがあったからこそ、長らく関われていたと思うんで。

 

僕はほわどるがいままでにやってないタイプの曲を、っていうことで毎回作っていたので、彼女たちのいろんなカラーを引き出せればと思っていたし、おかげで僕もいろんな曲調が作れるようになったんですよね。

 

──彼女たちがどんどん応えてくれるぶん、吉田さんも引き出しの奥にあったものを手前まで出せた感じ、ですかね。

 

そうですね。あとは、2人の歌声が魅力的でした。それぞれひとりずつ歌うとまったく個性の違う声なんですけど、ハモとかユニゾンになると綺麗に重なるから、ホント不思議で。基本的に歌がしっかりしてるんですよね。ピッチもきっちりと当ててくるので、うまいんですよね、本当に。

 

──ところで、今回のソロ・デビューにあたって「NEO・ニュー・ミュージック」というコンセプトというかキャッチコピーを掲げていますけど、これにはどういった意味が?

 

「NEO」ってギリシャ語で「新しい」という意味ではあるんだけど、「復活」という意味でもあるんです。「ニュー・ミュージック」自体は和製英語なので軽さは気に入ってて。実はこの言葉を思いついたのも、ほわどるがきっかけなんですよ。僕はJ-POP──TKがブレイクした94年以降のJ-POPはほとんど聴いてこなかったんですけど、僕の作ってるメロディーは明らかに日本のものだし、A→B→サビ(たまに→Dも)みたいな王道の曲も作れるから、僕は何がルーツ・ミュージックなんだろうな?って、ほわどるの作業のあいだにいろいろ考えてたんです。「ラブ・ストーリーは週末に」(2017年2月リリース)っていう曲も、僕はずっとビーチ・ボーイズが好きだからこういう難しいハモを作るんだろうなって思ってたんですけど、なんかビーチ・ボーイズでもないんだよなあこの動き、っていうのがあって、ある時にオフコースの「夏の終り」っていう曲をひさしぶりに聴いたときに「これだー!」ってなったんです。そうか、自分のルーツはニュー・ミュージックなのか!って思って。

 

──シティー・ポップではなく、ニュー・ミュージックと。

 

シティー・ポップとニュー・ミュージックの違いって、あんまりないっちゃないんだけど、僕のメロディーは今のシティー・ポップ・ブームでディグされているものとは作りが違うから、やっぱりこれは子供の頃に好きだったオフコースや南こうせつにルーツがあるんだって。それでまあ、今やるニュー・ミュージックということで「NEO・ニュー・ミュージック」と。シティー・ポップへのアンチはまったくなくて、自分のルーツに素直に従うんだったらこれでしょっていう。

 

 

──オフコースはいつぐらいに聴いてたんですか?

 

「NEXT」(82年9月にTBS系で放送。オフコース版『Magical Mystery Tour』とでも言うべき特別企画番組)はリアルタイムで観れてて、それが6歳の時ですね。最初は親が買ってた『SELECTION 1973-78』(ベスト・アルバム)を聴いたんですけど、4、5歳の時にやはり親が持っていたビートルズを好んで聴いていたので、『SELECTION 1973-78』を聴いた時に「日本語で歌っててコーラスがビートルズみたいに綺麗だ!」って、子供心に感動して。

 

──「ひとめぐり」も、カップリングの「光の中へ」も、その影響を思いきり感じさせる曲ですよね。オフコースの雰囲気を今の音楽に落とし込んでる人はなかなかいないというか、そもそも小田和正が現役バリバリなので……。

 

そうなんですよね。小田さんが現役すぎて「再評価」っていう動きが起きにくいんですよね。でまあ、オフコースのサウンドをやりたいなって思って作ったんですけど、言っても一応僕は商業作曲家ではあるので、まったく戦略ナシでそうしたわけではなくて、ここは空いてるスペースだと思ったからやったっていうのも正直あるかな。おっしゃったように、やってる人がいないから、たぶん、いまやったら僕しかいないだろうっていう(笑)。

 

──自分のルーツに素直にていうことなので、決して奇を衒ったものではないですよね。ほわどるを通して見せてきたものと地繋がりではあるし。

 

もっと正直なことを言うと、シングル2曲の前に1曲出来上がっていたものがあって、それはね、なんか変わった曲というか、ちょっとアヴァン・ポップな曲で。アーティスティックな面を出したいっていう欲はなんだかんだであるから、いままでの僕にない切り口で曲を作らないとなって思って作ってなりすレコードに渡したんですけど、次の日に「良い曲なんだけど、あの曲は難しすぎるから」って僕が考え直して取りやめました。そこでなりすレコードから「ニーズを考えず、好きなの作ってください。」と改めて言われて、そこで考え直してみて思ったのは、ほわどるに提供してきた曲って、本当にこれが好きだと思って作ってた。やっぱり、そういう曲を作らなきゃいけないなと思って、できたのが「ひとめぐり」。だからね、ほわどるの存在って本当に大きいんですよ。変にアーティスト活動を考えちゃうとアイドルに書いてる曲は商業作家としてやってるもので、アーティスティックな面はこっちだみたいに提示してしまいがちだけど、それは違うと。本当に自分が好きなものを提示して聴いてもらってるんだから、そこを素直に僕もやるべきだって。

 

──ほわどるの曲はビジネスとして割り切って作っているわけではないと。

 

ないですね。その都度その都度で自分が100%良いと思ったものを出していたし、そこと一直線なんだっていうのをソロでも聴かせたほうが、本当の意味で自分が打ち出せると思ったんですよ。それもあって、A面はこれだなって。そこでほわどるに詞を書いてもらうっていう幸せなことまでしてもらって。

 

──詞は、てっきりご自身で書くものかと思ってました。

 

ほわどるとの共同作業があまりにも楽しかったので、最後だからというのもヘンだけど、自分がソロ名義で出す時には、今までは僕が提供する側だったけれども立ち位置を変えてなにかやりたかったんですよね。曲はパソコンのなかで一人で完結できる世の中になってるけど、僕は、誰かと何かいっしょにしたいっていう気持ちが強くて、「ひとめぐり」もほわどるに歌詞は書いてもらってるし、ギターは渡瀬賢吾さん(bjons/roppen)にお願いして自分の想定した完成形より全然上のものが出来たし、普段のお仕事ならストリングスのアレンジやピアノを弾いてもらってるのはユメトコスメの長谷(泰宏)くんに弾いてもらったりとかしてて、そのほうが明らかに楽しくて。

 

──B面は加納エミリさんが書かれた詞ですけど、両曲とも女性に書いてもらうっていうのは狙ったところだったんですか?

 

加納さんが忙しいなかやってくださるってことだったんでお願いしたんですけど、スケジュール的に合わなければ、やっぱり女性の方に頼んでたと思います。それはやはり小田和正さんの歌詞の世界が好きだからなんですよね。小田さんの歌詞って、私小説的で男性目線の歌詞ではあるけどやわらかいじゃないですか。「秋の気配」なんかもひどい男の歌詞なんだけど、歌詞の言い回し的にはやさしい男っぽく映ってる。そういうやわらかい手触りで書いてもらうほうが、僕が望んでいる世界観になるなって思って。それに、ニュー・ミュージックの歌詞って、物言いがストレートなものってあまりなかったと思うんですよね。そうなると、男性より女性なのかなって。あとはその、イマドキの詞の世界って、男女問わずストレートなものが多いから、それを回避したいっていうのもありましたね。

 

──「ひとめぐり」のメロディーには、オフコース感もありつつ、それとなくオメガトライブ感というか、林哲司感も漂わせてますよね。

 

それね、長谷くんとかにも言われたんだけど、実は僕はそんなに林哲司さんの曲を意識的にはそんなに聴いてないんですよね。「ザ・トップテン」や「ザ・ベストテン」が好きだったから、よく出ていたオメガトライブとか菊池桃子の曲も知ってはいるし、絶対耳にしてるから、影響がゼロとは言い切れないんですけど、そんなには聴き込んではいなくて。ただ、いつも最終的に「これは林哲司だな」って自分でもそう思ってるところがあって、なんでこうなってるんだろうな?って。

 

──無意識に刺さってたメロディーなんでしょうね。レコードは買ってないけど歌えるし、みたいなものってありますよね。

 

何かで観たんですけど、マチャアキがムッシュの想い出話してて。かまやつさんが「新曲できたよ」って持ってくるんだけど、なーんか聴いたことあるなあと思って、そのことをかまやつさんに言うと、「でも、イイ曲でしょ」ってニッコリ笑う。その話がすごく好きなんですよ。たぶん、僕もそれなんですよね。似てるものを探せば絶対あるはずだって、僕もそれは自覚してるので、なにかに似てるんだろうけど、でもイイ曲でしょっていうものを提示してるんですよ。

 

 

──人の感情を揺さぶるメロディーラインやコードの流れっていうのは限りなくあるものではないと思うので、世の中にはほとんど出尽くしちゃってるんじゃないかと思いますね。たしかに、似てるものを探せば絶対ある。

 

「ひとめぐり」もそうだし、ほわどるの曲の大半も、いわゆる黄金進行って言われる「4-5-3-6」のコード進行を使ってるんですね。さんざん使い古されたものと思って回避する人もいるんだけど、いいコード進行だし、使い古されたコード進行を使ってでも、まだまだイイ曲が作れますよってことも提示したいから、そこは堂々とやってますね。僕がレンジの広い歌手であればオクターブやそれ以上を使って似たメロディを回避できますけれども、僕は歌手ではないので普通の人が歌える音域でメロディーを書くと使える音域も限りがあるんだけど、そんななかでもいろいろバリエーションをつけられればいいかなって思ってるので、何かっぽいなあって言われても、「そうだね、でも、イイ曲でしょ?」っていう感じで。

 

──何かに似てるなあって思った「何か」っていうのは、相当イイ曲だから記憶のどこかに残ってるんでしょうね。

 

と、僕も思ってるので、名曲に勝ちたいじゃないけど、音楽に「使い古された」っていうのはないかなと思っていて。あと、「似てる」を拒んで逃げたメロを作ると、わけわかんなくなっちゃうから。そこは、44歳になってようやくソロ・デビューする気になった理由かなって気がしますね。若い時は、似てるって言われると悔しいし、自分がダメなのかなって思っちゃうんですけど、44歳までやってきてると、「イイでしょ」って、普通に言えますね。いろいろチャレンジしたうえで削ぎ落として、でもこれなんだっていう。

 

──B面の「光の中へ」もオフコースの影響を感じさせる曲ですけど、ちょっと趣きが違いますね。

 

B面をちょっと変わった雰囲気にしたのは、いわゆる今だと7インチでもWサイダーみたいな感じでシングル・カットされると思うんですけど、昔のシングルってB面は様子見じゃないけど、実験的でこういう世界もあるよっていうのを見せる場でもありましたよね。そういう意味もあって「光の中へ」は、僕の歌を抜くとアンビエントポップみたいなもの、そうなるように作ったんです。ヴォーカルとメロディーがあるからオフコース感はあるんだけど、今のシンセ・ウェイヴとかロウファイ・ヒップホップとか、ネット界隈で聴かれてるようなものを目指して作ってはいますね。加納さんもわりと難しめな曲によくこういう歌詞を乗せてくれたなあって、加納さんのすごさも感じられますね。

 

──「ひとめぐり」にも言えますが、メロウなんだけどアカ抜けした感じがあって、そこはこだわりどころですかね?

 

インストはさらっと、メロディーにフォーカスがあたるように、珍しく音数というか展開を削ぎ落としたようなものにして。あとはオフコースの「I LOVE YOU 」や「NEXTのテーマ」みたいな「ドッドド♪」っていうリズムと12弦のアコースティックギターで加藤和彦イズムを注入してます。オフコースは特にですが、80年代から超モダンな楽器を使って音楽を作っていたニュー・ミュージックのミュージシャンは多いから、そういうところも含めてニュー・ミュージックにふたたびフォーカスを絞って、実はサウンドがすっごくモダンだった、むしろ今聞いた方が面白いってことをわかってもらえるかなって思いながら作ってますね、「光の中へ」は。「B面は実験的」っていう、当時のシングルのフォーマットをかなり意識して作りましたね。

 

──音のバランスについては、ものすごく気を配っている。

 

メロウな曲の時はどうしたらいいかって悩みがちだから、そういう時はよくオフコースの、とくに『over』を聴き返すんです。まんまの音にしたいわけではないにしろ、ドラムの比率をどうするすればメロディアスなのにノレる曲になるのかとか、良いバランスのお手本がそこにあるんです。80年代のアルバムだから、低音の処理とかは現代に比べたらやっぱり軽いし、そこはちょっと厳しいんだけど、それでもすごく参考にはなりますね。「哀しいくらい」とかメロウなんだけどリズムがしっかりしてるから、こういうメロウな曲の時でもビートはシャキッとさせて、タイトにさせたほうがいいんだなとか。

 

──絶妙なビート加減もあって、湿っぽい感じに聞こえないですもんね。

 

メロウな曲だからメロウな音にするとか……そう、西寺郷太さんが「歌に感情を込めて歌う」ことに問題提起してましたよね。その話がすごくおもしろくて、2曲ともに影響を受けてます。今回初めて、自分の声がどんな声か、どんな歌い方をすればいいのかっていうことを人生で初めて考えたので、「ひとめぐり」は100回ぐらい歌い直してるんですよ。で、自分が結構高いところまで出せるから、最初はキーが高かったんですね。だけど、このままの歌声だと誰も買わないし、自分も聴かないなとプロデューサー視点で思っちゃって、どうしたらいいんだろうって。あとはその時点では歌詞に合わせて一所懸命感情を込めて歌ってたんですけど、なにかピンと来ないなってなり、試しにキーを下げてみたら、だいぶイイところまできたなってなったんだけど、でもなんかなあ……って思ってた時に郷太さんの話を読んで。そうか、感情を込め過ぎちゃ、歌い上げちゃだめなんだって思って。

 

──サウンドもさることながら、吉田さんの歌も聴きどころということで、そこもしっかりと推していきましょう!

 


【イベント情報】

吉田哲人「ひとめぐり / 光の中へ」発売記念イベント
日時:2019年11月15日(金)20:00~
場所:HMVrecordshop新宿ALTA イベントスペース

<内容>
トーク&ミニ・ライブ&特典会

出演:吉田哲人
司会:臼杵成晃

<特典会参加方法>
イベント当日に吉田哲人「ひとめぐり / 光の中へ」をお買い上げの方に特典会参加券を配布いたします。特典会参加券をお持ちの方は、ミニライブ終了後に特典会にご参加いただけます。

<特典会内容>
特典券1枚につきチェキ&ジャケットにサイン&秘密のポストカードプレゼント

<対象商品>
吉田哲人 7インチ・シングル「ひとめぐり / 光の中へ」

アーティスト:吉田哲人
タイトル:ひとめぐり c/w 光の中へ
品番:NRSP-772
仕様:7インチ・レコード
発売元:なりすレコード
流通:東洋化成ディストリビューション
発売日:2019年10月30日(水)
価格:1,500円(税抜)