ザ・クロマニヨンズインタビュー 「音楽鑑賞を贅沢に楽しみたい人は、レコードを一度試したら、って思う」
ザ・クロマニヨンズの12作目となる『レインボーサンダー』は、ロックンロールを軸にルーツ・ミュージックへと自然に掘り下げ楽しんでいる彼らにしてはストレートなロックンロール・アルバムだ。何も考えてないと言う甲本ヒロトと真島昌利の二人だが、アナログ・レコードについては人後に落ちないこだわりを持っている。二人それぞれ6曲ずつ書いて12曲、トータル37分弱はLP盤にちょうどよく収まる長さだ。それも考えているわけではないと言うが、レコードを作ることを前提にアルバムを作り続けている彼らにとって、もはや体が覚えている感覚なのかもしれない。
取材・文: 今井智子
写真: 福士順平
ーー最近の作品は、ブルースがあったりブギが入ったりと、ルーツ・ミュージックを感じさせるサウンドやスタイルの曲も入ってバラエティに富んでいるものが多い印象があるんですが、今回は直球という印象で。
甲本ヒロト そうですねえ、僕はわりと、前回(『ラッキー&ヘブン』)だと「ハッセンハッピャク」とか、少し前だと「這う」(『JUNGLE9』)とか、わりとファンクを織り交ぜたような、いわゆるエイト・ビートじゃないものをやりたがる傾向もあったんですけど、今回はそれが1曲も出てこなくて、こんなんなっちゃったんです。
ーーマーシーさんは?
真島昌利 いやー、いつもと変わんないなあ。
ーー根本にあるものは変わらないんでしょうけど。例えば「ミシシッピ」」はブルースのルーツへのリスペクトみたいな曲かと思ったら、そっちに寄せていかないのが意外な感じもします。
真島 なんでしょうねえ、あんまり考えてないもんで。この詞だから、こんなのとか考えてないですから。(笑)
ーーギター弾いてて曲ができて、歌詞が乗っかるみたいな?
真島 そういう時もあるし、歌詞が先にできる時もあるし。同時にふぁーって出てくる時もあるし、いろいろです。
ーーヒロトさんは曲作るときはメロディが先とか、あるんですか
甲本 考えてみたら、僕、作ったことないんですよ
ーーは?
甲本 作曲とか作詞という経験がないといっていい。「ある」んですよ、詞と曲というか歌が。それは生活してると、ポンと思い浮かぶんですよ。作るぞ!と思うんじゃなくて、ハッと思いつくんです。それは、いつ思いつくかはわからないんで、締め切りがあったら大変なことになるんですけど、ハハハ。
ーー自ずと溢れるままに?
甲本 溢れもしない、あ、溢れる時もある。1番の歌い出しから3番の最後まで、3分間の曲が3分間でズルズルズルーッとでてきて、はいできた!という時もあるし。できたじゃないな、あった。そういうときは不安になるんですよ。もしかしたら、どこかで聞いた歌かもしれない。と思って一生懸命思い出すんですけど、ああこれ僕のオリジナルだって。それをスタジオに持って行く。だから、わかんないですね、どうやってできてるのか。だからそれを文字に起こしたときに、整合性のない、なんだこれ意味わかんない、というのはよく言われます。
ーーそれは本人にも理解できないんですか?
甲本 うん、僕は考えて作ってるわけじゃないから、適当なんです。
ーーでも作詞作曲のクレジットは入るわけで。
甲本 うん、僕はそれを味見をするんです。美味しいか美味しくないか。美味しい!と思ったら、それが意味が通っていようがいまいが、みんなに分けてあげようって思う。
ーーときにはイマイチだなっていうのもあるんですか。
甲本 そんなのばっかりだよ(笑)
ーー(笑)こうやって聴かせてもらえるものは、太鼓判、お墨付きの美味しいもの?
甲本 美味しい!でもどうして美味しいかはわかんない。
ーーそれで1曲目が「おやつ」ですか。
甲本 それ面白いね(笑)。
ーー先行シングル曲「生きる」。この曲は、壮大なタイトルで、歌い出しの「黄土色の」というところがすごい力が入っているんですけど、聴いていくと虫採りですかっていう肩すかし感がすばらしいです。
甲本 でも(その虫は)見たことないんだよ、図鑑にも載ってないんだよ。
ーー中南米に行っても捕虫網なんですかね?
甲本 網も使うけど、あの辺だと、叩き棒。
ーーえ?
甲本 布みたいのを木の枝の下に広げて、バン!と棒で叩くんです。そうすると、バラバラッと落ちてくる。すると新種がいっぱいいて、まだ名前のない、図鑑に載ってないのが。
ーーまるで採りに行ったことがあるかのような(笑)
甲本 ないない、それはよくネイチャー系の番組でやってます(笑)
真島 あの人すごいねえ、コスタリカで採ってる人。
ーーネイチャー系お好きですよね。
甲本 結構二人とも好きだよ。そういう番組見ると盛り上がって話してるし。そういう話はいくらでもできる。
ーー新作『レインボーサンダー』にも、いろいろな音楽を聴いてきたお二人の経験が伝わる曲が多いです。「ミシシッピ」は”Doo-wop””デルタのクイーン”、ミシシッピからリバプールまで、カントリーの最もディープな土地アパラチアも歌いこまれて。
真島 本(もと)ですよね。アイルランドから移民できた人たちが住み着いた土地。
甲本 本が幾つか集まってくるんだよな。それで混ざる。
真島 うん、混ざってね。アメリカの音楽って黒人の人たちのもあるけど、移民白人たちの、影響もすごく、大きいですよ。
甲本 アメリカじゃなきゃできなかったものだと思う。それで、ジョニー・キャッシュが、新しいカントリーの形、いわゆるフィドルもペダルスティールも入らないっていう、独特なものをね。
真島 それがロックンロール。
ーーミシシッピからリバプールの穴倉キャバーンへ。最後は東京の笹塚あたり、と歌ってますね。
真島 最後、図々しく笹塚を入れて(笑)。ロックンロールのバトンは受け継がれました(笑)
ーー「ファズトーン」という曲はギタリストらしい曲ですが、演奏にファズは使われていないという(笑)。でもファズへの愛が伝わります。
真島 それはねえ、僕がエレキギター買って、初めて買ったアンプ、エルクっていうメーカーのアンプなんですけど、そのアンプに、ヴォリューム、トレブル、ミドル、ベースというのがあって、もうひとつ少し離れたところに、ファズというスイッチがあったんですよ。それを入れると、ちっちゃい音でも、音が歪んで、”ビィーン”て伸びていくような音になって、”不良じゃん、かっこいいー!”って。(笑)
ーーファズは不良の音なんですか(笑)
真島 不良な感じするじゃん(笑)なんか、ゆがんでてひずんでて。でね、”これ、何かの音に似てるなー”と思って。ビートルズの「レヴォリューション」とか「ヘルタースケルター」とか、『ホワイト・アルバム』で鳴ってるギターの音、こんなのが鳴ってるみたいな感じで聴こえる。それで、その曲とか弾いて、遊んでましたね。
ーーギターサウンドの原点? バンドっぽく、不良ぽくなる?
真島 (笑)なんかね、ちょっと近づいた気がした、ビートルズとかローリング・ストーンズに。
甲本 「サティスファクション」のイントロは何?
真島 あれもファズだね。
甲本 ディストーションとはちょっと違うよね。
ーーあの、人工的な感じの音になるのが、非日常的なところに行くスイッチみたいな感じでしょうか。
真島 なんか、ワルになる気がした、当時。これで俺も、一人前のワル、みたいな、ふふふっ。こんな音でギター弾いてる俺、ワル(笑)
ーーそれでバンドを組むんですか?
真島 それとは別に、もうビートルズを初めて聴いた瞬間から、これがやりたい、バンドがやりたいって思ってた。
ーー自分の思い描くビートルズに近づいたんですね。
真島 なんかそんな感じ。(笑)
ーーさてレコードについて伺いたいんですが、ツアーのステージでは、よく新作を収録曲順に演奏していくじゃないですか
甲本 そうだった。前回もそうだった?
真島 うんだいたい。
ーーそういう時は、ヒロトさんが「ここでA面が終わったよ」と説明してくれて、ひっくり返す仕草をして。
甲本 そうですね、僕らが新作を作る時は、まずレコードを作るわけです。それをCD化してもらうんですよ。レコードが先にできあがる。で、曲順考える時も、A面とB面との分数を合わせるのがすごい大事で。A面の最初最後、B面の最初最後、という区切りというか、B面最後の曲を聴き終わったらもう1度A面聴きたくなるだろうかとか、そういう感じで決めていくんで、いつもレコードを作るという意識です。
ーーAB面で曲の振り分け方ってテーマがあったりするんですか。
甲本 テーマはないんだ。iTunesに取り込んで、シャッフルかけるんです。そうすると、たまに上手いのが出てくるんだ。
ーーそこはデジタルなんですか?
甲本 そう! すごくいいのは、shift(キー)押して、ここからここまでってやれば6曲分の分数が出るじゃないですか。それによって、いちいち前は電卓で計算してたのがやらなくてすむから、すごく楽です。
ーーiTunes任せで曲順が決まってるんですか。
甲本 そうそう。もともとテーマなく集まった曲なので、コンセプト・アルバムでもなんでもないから、どうなってもいいんです。なんとなくうまく流れれば。
ーーAB面の切り替えって大事だと思うんですけど。
甲本 大事だね。すごいわかりやすく、A面1曲目でつかんでいって、あるじゃない、”つかみはオッケー”って。そこから入って、A面最後はちょっと落ち着いて、B面1曲目でまた立ち上がる、みたいな。それでB面最後を聞いた後、よしもう1回、って思わせられるっていう、そういう大きな流れは、レコード作る人はみんな思うんじゃないかな。
ーーCDだとそれが一続きになる感じですけど、今回は「恋のハイパーメタモルフォーゼ」がB1。あの力強いコーラスから入るんですね。
甲本 そうです。重要ですね。
ーーレコードを見たことがない若い人は、裏面があることを知らなかったりします。
甲本 そうだねー。なんでクロマニヨンズのCDは、こんなに分数が短いんだろうって。そんなこと言ったら、ビートルズやローリングストーンズ全部そうなのに。
ーーレコードで作ることを前提に作業をしてると、あまり長い曲が入れられないなあとか思ったりするんですが。
甲本 曲が長くなるのって、作った後に盛り込んでいくから長くなるんですよね。最初からそんなに長尺の曲、いろんな展開って、ポンと浮かぶもんじゃないような気がするんですよ。やっていく中で付け足して長くなっていく。我々の作業には、それがないんです。長くしようと思えば、どんな曲も長くなる。ここにちょっとギターソロいれてみよう、とか、やっていきゃあねえ、それやんないだけです。
ーークロマニヨンズも2枚組とか作りたくなったりしませんか。
甲本 あのね、2枚組って大作の感じするじゃないですか。LPの時代。たいてい1枚ですよ。ビートルズだって『ホワイト・アルバム』ぐらいですよ。ローリングストーンズだと、「メインストリートのならず者」。滅多にやるもんじゃない。
真島 ボブ・ディラン『ブロンド・オン・ブロンド』、ザ・フー『トミー』とか大作だもんね。
甲本 そんなに滅多にするもんじゃない。でもザ・クラッシュ『サンディニスタ!』3枚組って驚いた。
真島 あれも片面26分とか長いんだよね。でもすげえいい曲入ってる。
ーーよどみなく2枚組を挙げられるのはさすがです。曲が山ほどできたらああいうもの作りたくなるんでしょうか。
甲本 できたからというより、やりたくなったんでしょう。僕らは、このパッケージもかっこいいと思う。1枚でポンッと出す形態も含めて作品だと思って。アルバムって絶妙なバランスだと思う、LPって。爆音で聞くのに、ちょうどいいです。
ーー片面10数分、両面で30数分。
甲本 喫茶店とかでずっと小さい音でかけておくには長いほうがいいでしょうね。
ーークロマニヨンズがレコードにこだわる理由はなんでしょう、音ですか。
甲本 僕らはねえ、専門家みたいに理屈はわかんない。だから、CDが出た時にはそんなに意識的じゃなかった。僕らもレコード作らないでCDだけになった時代もありますよ。ある日気づいちゃったんですよ、明らかにアナログ盤のほうが音が好きだって。それがどんどん確信になっていった結果が、これだと思います。
真島 ハイロウズはずっとアナログ作ってた。
ーー音楽を作る立場で、アナログの音を選択した?
真島 うん。
甲本 聴くために作るわけじゃないですか。だから聴くということが一番大切なんですよ。だから絶対にアナログ盤。
ーー再生プレイヤーに対するこだわりもありますか。
甲本 もともとは、僕は60年代のビートグループのサウンドとかを、浴びたいんですよ。そのなかに飛び込んで、全部を投じてみたい、という思いがあって、そうするとアナログ盤のほうがいいんですけど、こだわるなら、60年代のイギリスの音楽を聴くんだったら、60年代のイギリスの機材がいいんじゃないかと思って、しかも高級オーディオじゃなくて、当時の家庭にこのぐらいのものがあったんじゃないかと想定できるものを探して、買って、揃える。
ーー逆に大変そうですね。
甲本 大変でした。50〜60年代の、イギリスの真空管のアンプ。プレイヤーも当時のもの。
ーーやはり違いますか?
甲本 気分がいいね(笑)。当時の、ジョン・レノンやミック・ジャガーが、これでマディ・ウォーターズを聴いたのかなとか。だから、マディ・ウォーターズを買うんでも、UKプレスのチェス盤(笑)とか買って。
ーーアメリカ盤じゃないんですか(笑)
甲本 両方買うの馬鹿だから(笑)。アメリカ盤のオリジナルも聞くし、UK盤も。
真島 パイインターナショナル(PYE INTERNATIONAL)ね。
甲本 黄色の派手なレーベル。いい音でしょう。
真島 いい音。
甲本 パイインターナショナルの、サニーボーイ・ウィリアムソンを聴くとか。楽しみのためにやってることだったら、とことん楽しいほうがいいもん。理屈がわからなくても、気分がいい。だったらそっちを選ぶ。
ーーそこまで凝れない今の若い人が、お手軽なプレイヤーで聴いても?
甲本 全然いいよ。
真島 だって僕らがレコード聴き始めた頃って、本当にポータブルなやつで聴いて感動したんだもん。だからなんでもいいんじゃないかな。
ーーとにかく聞いてみることが大事ということですね。
甲本 そうだね、CDとレコード、両方聴いてみて。CDだってちゃんとグレードが素晴らしいから、今あるわけで。全然たりないわけじゃないんです。僕らは贅沢してる。でも音楽鑑賞を贅沢に楽しみたい人は、レコードを一度試したら、って思う。
アーティスト:ザ・クロマニヨンズ
タイトル:レインボーサンダー【完全生産限定/アナログ盤】
発売日:2018年10月10日
発売元:アリオラジャパン
品番:BVJL-29
仕様:LP
価格:2,913+税
収録曲:
Side-A
1. おやつ
2. 生きる
3. 人間ランド
4. ミシシッピ
5. ファズトーン
6. サンダーボルト
Side-B
1. 恋のハイパーメタモルフォーゼ
2. 荒海の男
3. 東京フリーザー
4. モノレール
5. 三年寝た
6. GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)