Last Update 2017.11.22

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《RSD2017》高木壮太(CAT BOYS)「わたしのレコード遍歴」

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RECORD STORE DAY2017に参加が決定しているインスト・ファンク・バンド「CAT BOYS」の鍵盤奏者、「井の頭レンジャーズ」のプロデューサーでもあり、『荒唐無稽 音楽事典』や『プロ無職入門』といった著作でも知られる高木壮太氏。
RSD2017参加にあたり、レコードとの出会い、レコードにまつわる思い出やエピソードなどを、自身の言葉で語っていただきました。


 

文:高木壮太

幸福なことに生家にはレコードが山のようにあった。
亡父は四国の田舎町の商家のドラ息子で、オーディオマニア兼レコードコレクターという呑気な趣味人だった。
これは4歳上の姉に聞いた話だが、或る日父は新車の白いVWビートルとビートルズの新譜『アビーロード』を同時に買ってきたそうだ、16トラックのクリアな音質で録音された最末期のビートルズの音楽を聴くと、いまでも幼少時の生家の様子が脳裏に蘇るのだが、それと同時にあの有名なジャケットの中でジョージ・ハリスンの肩越しに、夏の日差しを避けて木立に駐車しているナンバープレート28IFの白いVWビートルが、当時の我が家の自家用車に見えてならない。

1歳半くらいのわたしが巨大なヘッドフォンをして陽だまりの部屋でレコードを聴いてる写真が残っている。日当たりの良いペントハウスに住んでいた父は、材木を切り出してオープンバッフルの巨大なスピーカーを自作したり、のちには怪しげなパーツを組み合わせて、わたしのためにギターアンプを製作してくれた。或る日「ものすごく低い音」に興味を持ったわたしに、父はトーンコントロールを調整してウッドベースの音を強調して聴かせてくれた、そういう音響的な手ほどきも受けたし、セロニアス・モンクのライブ盤『ミステリオーソ』を教科書にモダンジャズの即興演奏の鑑賞術などもレクチャーしてくれたものだ。
亡父はジャズとロックを看板にした喫茶店を経営もしていた。マランツのアンプとJBLのスピーカーが売りの地下の店は地元の若者のたまり場でもあり、さまざまな文化系の不良のお兄さん方に取り囲まれた幼少期のわたしは、まことに恵まれた教育を受けたと思っている。
ところが経営センスゼロだった父の店はまたたくまに暗礁に乗り上げ、債権者は店の自慢のオーディオ装置とレコードコレクションに目を付けた。父の店は居抜きで、つまりレコードごと人手に渡ることになった。たしか長嶋茂雄が巨人軍の現役を引退し「わが巨人軍は永遠に不滅です」の迷言を残した頃である、深夜、父とその友人たちが、これだけは手放してはなるまいと、明日には人手に渡る喫茶店のレコードブースから貴重なレコードを選んで抜いていた光景を覚えている、そしてその時、救出されたレコードの一部はいまでも私の部屋にあるのである。

当時のLPレコードは販売店のネームの入った厚手の透明ビニールケースに格納されてることが多かった。「阪神デパート」「丸新デパートレコード部」などと書かれた袋がわたしの部屋に残っているが、むかしはデパートの家電売り場の横にレコード売り場が必ずあったものである。いま昭和歌謡や昭和の文化に精通する若手DJにそのことを説明してもなかなか理解してもらえないのだが。

その他には「トクシマレコード」という店が懐かしい、わたしが高校生の頃まで新町橋北詰にあったロックが充実した名店で、ここは足繁く通ったものである、地下はリスニングスペース兼ラウンジのような不思議な空間で、店員と仲間の若者たちがとぐろを巻いており、冷蔵庫の中からイナゴの佃煮を取り出して食べながらサンタナの『キャラバンサライ』を聴いていた妖しげな光景を覚えてる。想えば当時は四国の田舎町にもレコード屋がたくさんあった。歌謡曲に強い大型店の店先では歌手がキャンペーンで店先で唄ってたし、プロレスの興行も手がけるレコード屋はプレイガイドも兼ねていた。楽器屋兼レコード屋という形態の店も多かった、YMOの「BGM」を買ったのはカラオケリース業とレコードの兼業という店だ、ソノシート製作を請け負う録音スタジオ兼レコード屋という店もあった。あれらがすべて経営が成り立っていたのだから音楽産業は繁栄の頂点にあったのだろう。

本格的にレコードを掘りはじめるのは15〜6歳の頃、中古盤専門店や大学のバザーのエサ箱を漁り始めてからである、当時10万円の噂があり入手困難の幻のレコードだった『村八分ライブ』を学校帰りの質屋でだれかが900円で見つけてきたのをきっかけにゴールドラッシュが起こったのだ、あのころは60〜70年代のロックの日本盤レコードが安かったのでコレクション数を増やすという快感の目標に適合したのだ。クリームやらヘンドリックス、フリーやテン・イヤーズ・アフターなんてブルースロックは評価がどん底の頃で二束三文だった。むろんだれも聴いてないモノを聴くというスノビズムも動機の大きな部分ではあったのだが、なによりも当時熱中していたギターの教則と言う目的もあった。そういえばTYAやジョン・メイオールの日本盤ライナーノーツにはギターのTAB譜が掲載されていた。

 

田舎町で入手できないレコードを手に入れるためには、フェリーで紀伊水道の荒波を4時間揺られ大阪まで買いに行くのだが、まるで天竺に経典を求める三蔵法師である。1万円を握り締め、フェリー代が4000円である。残りの6000円で飯を喰ったり地下鉄に乗ったりすると、購入できる輸入盤や貴重盤は1枚か2枚である。阪急三十二番街のレコード市や、梅田のワルツ堂で絶対にハズレを引かないために穴が開くほどインデックスを解読し、ライナーノーツを引きずりだし、店員に制止されるまで読みふけり、吟味に吟味を、厳選に厳選を重ねるのである、それはまさに鬼気迫る光景であった。ブッキッシュにレコードを漁る悪しき衒学趣味はこの頃からだが、拙著『荒唐無稽 音楽事典』のルーツとなったのは、紛れもなくそういう経験が元になっている。

貸しレコード屋という商売が徳島に上陸したのは1981〜2年だと思う、それまでも図書館でレコードを借りることはできたのだが、図書館にはThe WhoやP.I.Lのレコードは無いのである、突如、近所にできた貸しレコ屋、たしか店名は「キングスロード」だったけな、身体を斜めにして飛んでいったものである、ところが入会金兼保証金がなんと2万円、これでは1万円フェリー三蔵法師少年には無理である。その後、保証金は下がるのだが、炎天下の車の後部座席に忘れて盤がすべてひん曲がり猛弁償などという悪夢の想い出もある。貸し借りといえば友人間でのレコードの貸し借りは非常に高度な政治性と駆け引きが要求され、時には流血騒動にまで発展することもあった。それは『山羊の頭のスープ』の不透明なテープダヴィング経路の追及時や、DEVOの輸入盤紛失事件などのときに起こった。いまの若者には信じられないだろうが、慢性的な音楽の飢餓状態下で人心の醜悪な部分が露呈するのは初期のジャマイカのサウンドシステム同士の抗争で我々が知ったとおりである。

 

40代以上の年配の方ならあるいはNHK『FMリクエストアワー』という番組を覚えておられる方もおられるだろう、あれは素敵な番組だった、各地方のNHKFMが独自製作してる視聴者参加型のプログラムである。土曜日の学校を終えたら(むかしは土曜日も学校があったのだ)お好み焼きを食べた後、15時までに放送局に行くのである。スタジオの入口にレコード棚があり、そこから好きなレコードを取ってお姉さんに渡すと番組中で放送されるというシステムであった、番組自体は18時まで3時間もあるので、退屈して生放送中に騒ぎ退場になるということもあった。わたしがリクエストしたのはKISSの『ハードラックウーマン』やロッド・スチュアートの『I’m Sexy』など他愛もないポップソングである。

 

上京してからも中古盤はずっと漁ってたのだが、本職のDJ諸氏のものすごいコレクションや圧倒的な財力と狂気スレスレの執念に触れるにつれ、片手間のレコードハンティングも身が入らなくなってくる、情報量が増えてくると音楽の飢餓感が薄れてくる、そしてYouTubeがトドメを刺したわけだが、それでも自宅で散乱したレコードに囲まれてA面B面ひっくり返して時の経つのを忘れるという幼少時からの慣習は簡単になくなるものではない。数年前からアナログ盤を多数プロデュースする機会を与えられているのだが、こうなると因果が巡ってきたという感慨も沸くのである。先日ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した夜、ふとレコード棚の『ブロンド・オン・ブロンド』を手に取ってみた、亡父の店が潰れた時に救出されたオリジナル盤である。内ジャケに亡父の万年筆の落書きがあり「此のレコードはボクの般若心経でアル」と書かれていた。レコードに翻弄され続けてきたわたしの人生を振り返ると、レコードはまさに宗教的恍惚をもたらす経典そのものだなと想わずにはいられなかった。

 

高木壮太オフィシャルサイト
http://www.246.ne.jp/~sota/music.html

 

■RSD 作品情報

CAT BOYS『Love Somebody』

高木壮太を擁するインスト・ファンク・バンドCAT BOYSの大名曲が、なんと新録ver.でシングル化!

レーベル:CONY
品番:CONY-0008
フォーマット:7inch
価格:1,400円(税抜)
発売日:2017年4月22日(土)
トラックリスト:

Side A
1.Love Somebody

Side B
1.Blow Your Mind

西東京小箱シーンの雄、ご存知「午前3時のラウンジファンクバンド」CAT BOYSが2016年に引き続き、RSD限定盤をリリースです!「BEST OF CAT BOYS vol.1」収録曲で、ライブでもお客さん全力大合唱アンセム”Love Somebody”が新たにレコーディングした新録ヴァージョンで遂にシングル化。思い出野郎Aチームのホーン隊をフィーチャーした、エモ度200%増しの豪華絢爛号泣多幸系ソウルに仕上がっております。パーティのピークタイムに、ぜひお買い求めください。
B面は90年代リバイバルやsuchmosが敬愛を公言することにより目下再注目中Jamirquaiの名作”Blow Your Mind”のカヴァーを収録。セクシーなエレピもたまらない、ディープなミラーボールチューンに仕上がっています。

高木壮太
CAT BOYS
RSD2017
RECORD STORE DAY
レコードストアデイ