Last Update 2018.12.13

Interview

曽我部恵一(サニーデイ・サービス)インタヴュー 「『Popcorn Ballads』はバンドが崩壊しかけた時のひとつの在り方。これがその最終期、ここから先はないよ、って感じ」

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台風クラブという衝撃

 

――唐突に始まって違和感を残すという点では共通しているかもしれない。「Tシャツ」は台風クラブにインスパイアされて作った曲なんだよね。

曽我部 キャロルやクールス、横浜銀蝿みたいな曲を絶対に1曲は作ろう、というテーマを今回は持っていたんだよね。今年はずっとそういうものばっかり聴いていて、これぞ日本歌謡の心だと思っていたら台風クラブが出てきて。これしかない!って思いつつ作ったのが「Tシャツ」。いわゆるロックン・ロール。それもすごくステレオタイプな。

 

――これまで色んなジャンルの和モノを聴いてきた曽我部くんにとって、そのマイ・ブームは初めてだよね。

曽我部 うん。

 

――どこら辺を新鮮に感じた?

曽我部 言葉のノリですね。言葉がいっぱい入るんですよ。8ビートだったら8分音符に全部言葉を置けちゃうし、1小節だと16の言葉を置けちゃうから(歌詞を)詰め込めるんです。「今日も元気にドカンをきめたら/ヨーラン背負ってリーゼント」とか、言葉が結構入っているでしょ。

 

――横浜銀蝿の「ツッパリHigh School Rock’n Roll」だね。

曽我部 台風クラブもそういう風にしているんですよ。今まではビートを落として、BPMを90ぐらいにしてラップ的に言葉を詰め込んでいく手法が主だったと思うんです。それは僕だけでなく世の中的にもそうだったんだけど、台風クラブはそうじゃない。BPMを速くして、全部のビートに言葉を置いていくようなやり方をしている。それって今まであまりなかったし、彼らはそこがすごく新しくて、革命的に響いています。つまり、キャロルとか横浜銀蝿みたいな言葉の置き方なんですよね。存在としては、実はアンチ松本隆なんですよ。

 

――はっぴいえんど的な言葉の置き方に対するカウンターになっているんだ。

曽我部 サウンドも違うんだけど、今までのバンドと決定的に違う質感はそこだと思う。

 

――石塚(淳)くん(台風クラブのリード・ヴォーカル/ギター/作詞・作曲を担当)が意識してやっているかどうかは分からないけど。

曽我部 意識はしてないですね。彼らは、言ってみればローリング・ストーンズなんで。

 

――ライヴでも「退屈」っていう、もろにストーンズっぽい曲をやってたよね。あれは新鮮だった。こういう曲を作る新人バンドは久しくいなかったな、と思ったね。

曽我部 石塚くんはギターがほんとに上手い。僕らのちょっと下の世代から30歳くらいまでの人たちをざっくり括ると、ギターが一番上手いのは三輪(二郎)くんだと思っていたの。でも、三輪くんはあのギターにビビると思う。三輪くんがクラプトンで、石塚くんがジミー・ペイジみたいな……いや、石塚くんはジェフ・ベックかな。センスとリズム感が尋常じゃない。ドラムとベースと一緒にドライヴしていく。その感覚がやっぱり、今までにないですね。

 

――シンプルだけど、これは聴いたことないなー、って感じが残るんだよね。

曽我部 一番カッコいいパブ・ロックの在り方、その教科書みたいなバンドですよね。だから、誰もが対バンしたくないバンドだし、みんな一気に好きになっちゃう。詞もいいし、曲もいいし、どの曲も5年くらいかけたようなアレンジじゃないですか。パッと先週作りました、みたいな曲じゃない。

 

――「飛・び・た・い」とか、シュガー・ベイブみたいな横ノリのガレージ・ポップな曲もあるし。

曽我部 シティポップ的なビートも、余裕で入れているんですよ。彼らにとってはその辺のコード進行とか、ちょっとした16ビートのシンコペーションのアクセントも余裕でこなせることで、「こんな感じでしょ?」ってやっているように見える。つまり台風クラブって、ストーン・ローゼズが出てきた時の感覚にすごく似ている。

 

――確かに、ストーン・ローゼズの楽曲も、これまでにあった要素で構成されているのに、なんとも言えない新鮮さがあったよね。

曽我部 珍しいものではないんだけど、飛び抜けて何かが違うということなんですよ。パンクみたいな分かりやすい革命ではないけど、現代的なすごく微妙な違いで、でもその前と後では違う「何か」なんですよね。出るべくして出たなって。そんな感覚を抱いたのはストーン・ローゼズ以来。例えば、アークティック・モンキーズが出てきた時とかオアシスが出てきた時はもっとすごかったけど、何がすごいのかは分かったんです。分かりやすい異物が現れたっていうか。台風クラブにはそういう感じがない。すべての伝統を引き受けつつも、そこに完全なる断絶があるわけです。彼らは、サニーデイとも、はっぴいえんどとも、シュガー・ベイブとも、決定的に違う「何か」なんですよね。

 

――ぼくは残念ながら見れなかったけど、京都・磔磔で曽我部くんとスカートと台風クラブの3マンライヴをやった時、曽我部くんが台風クラブと一緒にセッションをした曲が「御機嫌いかが?」だったんでしょう? 彼らのその選曲にめちゃくちゃ感動したんだよね。あれはサニーデイのファースト・アルバム『若者たち』(1995年)の中でも台風クラブっぽい気がして、「やっぱり、そこなんだ!」みたいなさ。でも曽我部くんが今言ったように、日本のポップ・ミュージックの全部の伝統を引き継いでいるのに断絶がある、という見方には得心がいった。
ストーン・ローゼズはファースト・アルバムを一聴しただけだと、ザ・バーズっぽい60’sリヴァイヴァルのフォーク・ロックに聴こえなくもないけど、でも違うからね。

曽我部 っていうか、そう言えちゃうんですよ。だから旧世代としては説明がつかない。でも若い子たちからしたら、完全に新しい“自分たちのバンド”が出てきたって思うだろうね。ストーン・ローゼズが出てきた時には僕らがそう思ったけど、一世代上の人たちがよく分かっていない感じはありありと伝わってきた。その感じっていうのが、台風クラブの現象に近いのかな。ネバヤン(never young beach)とかヨギー(Yogee New Waves)とかは(世代を越えて)みんながいいって言える世界観があるけど、そういうのとはちょっと違う。たぶん本人たちはまったく無自覚なんだろうね。そこは才能としか言えなくて、そういうものになっちゃうというか。俺たちも出てきた瞬間に、少しそういうところがあったと思うんだ。

 

――本能的に、匂いだけで嗅ぎ分けて、自分がグッとくるところだけパッとつかんでいるのに、ああなっているのかもしれないね。

曽我部 うん。たぶん普通にみんな一緒で、シュガー・ベイブやはっぴいえんどや村八分が好きなんですよ。それで同じようにやっていたら、ああなったんだと思う。方法論とかは別にないっていう、それがいいんだよね。

 

――じゃあ、本当に10年に1組くらいしか現れないバンドだね。

曽我部 俺はそう思ってます。

 

 

ポップスと自分のレコード棚

 

――すっかり台風クラブ談義になってしまったけど。

曽我部 年末の音楽談義的な感じで、いいんじゃないですか。

 

―確かに2017年を振り返ってみると、たくさん良いアルバムが出たけど、新しいバンドの中では台風クラブは大きなトピックだよね。

曽我部 ナンバーワンですね。各音楽誌のJロックの年間ベストでは台風クラブが1位になっているはずですよ。そうじゃなかったら、選者は自分の好みだけでベストを決めているということになる。だって他に何がありますか?

 

――コーネリアス『Mellow Waves』は素晴らしかったよ。あれも飛び抜けているけどね。

曽我部 もちろん僕らの世代にはね。でも、どういう人に響いているのかってことが、僕にとっては重要で……好みはいろいろあっていいんだけど、時代にとってどういう意味があるのか、それこそがポップスの意味だから。ポップスとして語るならっていう話ですよ。自分のレコード棚の話だけするなら、なんでもいいんですけどね。20代前半の音楽ファンが聴いているか、ポップスとしてどう機能しているかって考えるなら……ちょっと違うと思うんです。「若い人たちに聴いてもらわないと」とか、「時代に響かないと」とか、小山田(圭吾)くんはそういうことをあまり意識しているようには見えない。小沢(健二)くんはたぶん8割ぐらいそっち(を意識してる)でしょ。

 

――なるほど、小沢くんはそうかもしれない。根っからの芸術家だけど、革命家/煽動家でもあるから、世間をあっと言わせるような揺さぶりをかけてくる。小山田くんは世間を振り向かせようとか、世の中を動かそうとは特に思わない純粋芸術家だから、「天気読み」はしない。曽我部くんも純粋芸術家だけど、時代とは関わりを持ちたいと思っている。『Popcorn Ballads』はどういう人たちに届いて、この時代にどういう風に響くんだろうね。

曽我部 今の時点ではまだフィジカルとして発売されてないからなんとも言えないんですけど、アナログ盤とかCDが出て、どこにどういう風に届いて、みんながどういう風に共有していくのか興味はあるけど、正直、そこは半分くらいしか興味がないです。

 

――もう半分の興味というのは?

曽我部 自分の作りたいものを作るってことだけ。やっぱり自分のことになると、そういう風に思うかな。台風クラブの他に今年聴いた日本人の曲だと、高井(康生)くんがやっているAhh! Folly Jetの「犬の日々」っていう曲が本当に好きだった。あれが自分の好みでいえば、今年のベスト曲。カヴァーですけど(注:原曲は小川美潮+山村哲也。1997年のコンピレーション『江戸屋百歌撰 丑/This is Love』に収録)、アレンジも歌い方も含めて、本当に今聴きたい曲だった。「高井くんありがとう!」って感じ。俺は一生聴きます。これは好みなんですけどね。

 

――ぼくも「犬の日々」を発見した高井くんのセンスは素晴らしいと思った。名曲だね。

曽我部 今日も相変わらず笑い声が聞こえていて、商店街からは人のざわめきが聞こえていて、ただそれを聞きながら通り過ぎていくつぶやきのようなポジティヴな感覚。あれは結構新しいと思うんだけどなぁ。今までは「それって美しいよね」って声高に言ってみたり、「なんで自分はそこにいないんだろう」っていう疑問を歌にしていた。でもそうじゃなくて、今日の夕飯の支度の準備の音が聞こえているということを、あんな歌い方で表現するっていうことに俺は超感動して。こういう曲に出会えてよかった。

 

――歌詞は荒地派の詩人、北村太郎の現代詩(**)を小川美潮さんがちょっと補ったものなんだよね。

曽我部 そうなんだ。シンガーソングライターのあるべき姿だと思ったし、私小説であり、つぶやきでもあるし、これが歌だなと。俺はAhh! Folly Jetが今年のベスト。

 

**詩集『ピアノ線の夢』(1980年、青土社)、『現代詩文庫118 続・北村太郎詩集』(1994年/思潮社)に収録。

 

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曽我部恵一
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