Last Update 2018.12.13

Interview

曽我部恵一(サニーデイ・サービス)インタヴュー 「『Popcorn Ballads』はバンドが崩壊しかけた時のひとつの在り方。これがその最終期、ここから先はないよ、って感じ」

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豊かで贅沢な音楽とは

 

――「クリスマス」は、季節に合わせて7インチシングルで出そうと思っていたんでしょう?

曽我部 いや、全然そんなことない。全部流れで決まったことで、この時期にフィジカルをリリースするのが決まったのもたまたまだし。

 

――小西(康陽)さんにリミックスを頼もうっていうのは、どういう経緯で決まったの?

曽我部 クリスマスの頃にフィジカルが出ることになって、それなら「クリスマス」のMVを作ろうってことになって、じゃあリミックスを誰かに頼もう、それは小西さんしかいないでしょう、という流れです。

 

――考えてみたら、2年前のピチカート・ワンとサニーデイ・サービスのツーマンも12月28日で、同じ時期だったよね。これは本当に個人的なことだけど、ぼくが書いたサニーデイの本『青春狂走曲』が今年出版されるまでの流れは、曽我部くんからあのツーマンにDJとして参加してほしいと依頼されたことから始まっていると思ってる。小西さんのレーベル、レディメイド・インターナショナルから曽我部くんのソロデビュー・シングル「ギター」がリリースされたのが2001年12月、ちょうど16年前のこの季節だった。二つの星が巡り巡って、『クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽』という美しい形に結実したのがすごく嬉しい。

曽我部 僕としてもよかったです。やっぱりピチカート・ワンの『わたくしの二十世紀』(2015年)は、アルバム芸術として日本のポップス史上第1位だと思っていて。あれよりもいいアルバムを挙げてみろと言われたら、俺は他のものを挙げられない気がしてます。

 

――あのアルバムは、二十世紀的な文化が終焉に近づいているのをひしひしと感じながら、小西さんが後世に「遺言」を残そうと思って作ったように聴こえてしまうくらい重みのある作品。ぼくもあの年のベストだと思ってるけど、曽我部くんの評価がそこまで大きいことを知って、あらためてもっと広く聴かれるべきアルバムだと、今、痛感した。

曽我部 本当にまだ十分には聴かれてないですよね。あそこまで歌の存在に圧倒されるアルバムって……、他にはビリー・ホリデイのレコードくらいな気がする。制作をした感じがしない。ただ歌があるっていうか。僕のレコードもそうですけど、普通は制作をした跡が見えるじゃないですか。アートって、そこを評価するものですよね。あれはそうじゃないし、たぶんビリー・ホリデイとかもそうじゃない。

 

――本当に何の作意もなく、ごく自然に、ただそこに在るという感じがする。

曽我部 それをやられたら、僕は何をしたらいいの?っていうか。

 

――曽我部くんも常にそこを目指している感じはあるよね。

曽我部 だから次は、本当にそこをやりたいです。打ち込みがどうとか音楽性がどうとかってことじゃなく、言葉とメロディが持つ支配力というか、絶対性みたいなものを目指したい。「東京の街に雪が降る日/ふたりの恋は終わったの」(「東京の街に雪が降る日、ふたりの恋は終わった。」)って、あの声とあのメロディとあのアレンジで歌われた時に、それが宇宙になってしまう。

 

――さっき話していた「犬の日々」と、少し共通しているね。

曽我部 うん。なんか……あれをやらないとダメだなって。「クリスマス」のリミックスをやってもらった時に、小西さんから頼まれてギターを弾きに行ったけど、弾いてすぐに帰りましたもん。

 

――あまり会話をしなかったんだ?

曽我部 畏(おそ)れ多いとはこのことで、もう音楽の神ですよ。ピチカード・ファイヴのレコードも小西さんのどんなリミックスも、『わたくしの二十世紀』があったら何も要らないと思う。そういう意味では、北沢さんがいつも「小西さんの遺書」と言っているのも分かる。

 

――あの一枚に小西さんのエッセンスが凝縮されている、すべてがあると言えるよね。

曽我部 あんなに豊かで贅沢な音楽ないですよ。売ろうっていう商売っ気もないし、ただ贅沢な空気や空間を小西さんが用意してくれている。それ以外の意図が何一つない。

 

――聴き手がピュアになれるアルバムだよね。

曽我部 あの手法であと何枚か作って欲しい。いい曲はたくさんあるし。絶対に俺のことは呼ばないで欲しい。(堀込)泰行くんとかいいんじゃない? あと、意外と玉置浩二さんもいいと思う。俺とか坂本(慎太郎)くんとかが入ると変な空気になりそう。

 

――(笑)曽我部くんもフィーチャリング・ヴォーカリストの1人として考えていた、と小西さんは言っていたよ。

曽我部 でも選ばなくて大正解だし、当たり前だと思う。「俺の歌でなんとかしてやるぞ」ってどこかで思ってしまうし、そんなことは聴く人にとっては余計な話だから。ただ歌う、ということをできる人だけがあそこに呼ばれていて、いい声でただ歌っている。その人の人生とか苦悩とか、歌い手の内面を一切感じさせない。ボカロですよ。

 

――なるほど! あのアルバムにフィーチャーされた歌手はヴォーカロイド的役割なんだ。

曽我部 (西寺)郷太とか最高だよね。郷太はあれを歌うために生まれてきたんじゃないかな(笑)。

 

 

『ニューロマンサー』とハーラン・エリスン

 

――さっきからすごく面白い話が続いているんだけど、このままだと『Popcorn Ballads』のフィジカル盤リリースっていう本題にほとんど触れないことになっちゃう。かろうじて『クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽』には触れて、それで小西さんの話になったんだけど。

曽我部 でも、自分の「歌観」みたいなものにすごく触れてないですか?

 

――確かに、今の曽我部くんのモードについては目いっぱい訊けているけど、フィジカル盤『Popcorn Ballads』自体について、やっぱりもう少し訊いておきたいな。今年『青春狂走曲』という本を作っていた時、大詰めの段階で『Popcorn Ballads』が配信されて、それで大急ぎで追加取材をさせてもらったんだよね。その時に聞いた話だと、当初の構想が膨らんでさらに発展しそうだと。要するに『Popcorn Ballads』という本編とは別に、ラッパーをフィーチャーした外伝的なものを構想していると話してくれたね。今回リリースされたフィジカル盤『Popcorn Ballads』は、それとは違うものだと思うんだけど……。

曽我部 その構想はまだあります。『Popcorn Ballads』の最後の塵のような、もっとワケが分からないものにしたいけど……ただ進行中なので、まだ詳細は言えないんです。

 

――じゃあフィジカル盤に追加された新曲の話をしようか。配信の時にあった「heart&soul」というインタールードがなくなって、その代わりに「抱きしめたり feat. CRZKNY」という新曲がディスク2の頭に置かれた。他にもディスク1の4曲目に「きみの部屋」、ディスク2の5曲目に「はつこい feat. 泉まくら」、12曲目に「花狂い」という新曲がプラスされているけど、これは今回のために書き下ろしたの?

曽我部 「はつこい」と「きみの部屋」は当初、6月の配信の時に入れようと思っていて。だから、それ以外の2曲が書き下ろしです。

 

――新しく付け加えられた曲が全部良くて、嬉しかったな。「はつこい」は『DANCE TO YOU』の初期のセッションで田中(貴)くんと(丸山)晴茂くんと3人で録ったまま眠っていた音源を甦らせて、ファンが一番好きなサニーデイど真ん中の切ないメロディーと歌詞に泉まくらさんのラップを入れることで、男女両方の視点から恋愛の儚さを描いているのが新鮮だった。「きみの部屋」は〈血と肉と骨はなにから なにからできているの?〉という、今作の中でも屈指のパンチラインを持つ強力な曲だし、これが加わったから曲順が入れ替わる必然性もあったと思う。

曽我部 最初の配信の時は1曲目に置いた「青い戦車」の次に「きみの部屋」が来る予定だった。でも、この2曲が並ぶと破壊された近未来の退廃した街っていうイメージが強すぎると思って、それで曲自体を外したんです。

 

――フィジカル盤はその2曲が並んでもいいと思ったんだ。

曽我部 まあ、頭に例の2曲があるので、大丈夫かなって。

 

――クレイジーケニー(CRZKNY)に頼もうというアイデアは、当初の構想からあったの?

曽我部 ケニーさんは『DANCE TO YOU REMIX』に参加してくれていて、それがすごく好きだったし、元々すごい人だなと思っていたから今回も頼んだんです。ジューク/フットワークのシーンから出てきた広島の人なんですけど、今年リリースされた『MERIDIAN』っていう3枚組のアルバムがすごくて。ジャンルが括れない、新しい音楽って感じですね。

 

――そのアルバムはまだ聴けてないけど、MERIDIAN(***)というタイトルを見てコーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン(Blood Meridian)』(1985年/邦訳は2009年、早川書房)という小説から採ったのかなって、ちょっと思った。

曽我部 え、誰?

 

――アメリカの作家でコーマック・マッカーシーという人がいて、ピュリッツァー賞を受賞した代表作『ザ・ロード』(2006年/邦訳は2008年、早川書房)はここ数年に読んだ小説で一番衝撃を受けた。『ザ・ロード』では終末世界を描いているんだけど、父親と幼い息子が生き残りをかけて『子連れ狼』みたいに荒野を旅する黙示録的な物語。彼自身もヤバい作家で、元々は純文学の人だったんだけど、突然クライム・ノヴェルを書き始めた。それが傑作揃いで、コーエン兄弟が映画化した作品(『血と暴力の国』2005年/邦訳は2007年、扶桑社)もある。

曽我部 『ノーカントリー』(2007年)じゃないですか? あの意味の分からなさは半端ないよね。

 

――それでもアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、助演男優賞の四冠を獲ったからね。『ザ・ロード』も2009年に映画化されている。マッカーシーは句読点が極端に少ない独特の文体で、吸引力がとにかくすごいんだ。

曽我部 小説でいうと、『Popcorn Ballads』を作っていた時はハーラン・エリスンの存在も大きかったです。

 

――アメリカSF界の生ける伝説。『世界の中心で愛を叫んだけもの』『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』とか、タイトルがいちいちカッコよすぎる。これまで読んだことがないタイプの面白さだって、曽我部くん、興奮してたよね。ハーラン・エリスンが好きなら、コーマック・マッカーシーを気に入らないわけがない。どちらも破滅に瀕した世界や極限状態に置かれた人間を巨視的な視点で描き切って容赦ないからね。曽我部くんが読んだら新しいアルバムをもう1枚作れてしまうと思う。

曽我部 『Popcorn Ballads』を作っていた時に影響を受けたのって、当初はウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』(1984年/邦訳は1986年、早川書房)で、後半はエリスンって感じだったんです。

 

――今作のテーマは「戦時下の恋人たち」ということだけど、SF的なヴィジョンをもとに作り始めたアルバムなんだよね。「すべての若き動物たち」は『ニューロマンサー』にインスパイアされた曲なんでしょう?

曽我部 そう。でも、それはエリスンを読む前に書いたけど、エリスンの小説にありそうなタイトルですよね。「クリスマス」はエリスンの短篇「ソフト・モンキー」(短篇集『死の鳥』に収録/2017年、早川書房)と設定がそっくりだし。

 

――それを聞いた時は驚いたね。そのシンクロニシティはすごいよ。

曽我部 エリスンには完全に呼ばれていたんです。

 

――必然の出会いだったんだ。

 

***meridian(名詞):①子午線、経線 ②(繁栄・発展などの)絶頂、最高潮、全盛期。

 

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