Last Update 2018.8.10

Interview

ポニーのヒサミツ 『The Peanut Vendors』発売記念インタビュー!

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断言しよう。東京に暮らす前田卓朗によるソロ・ユニットであるポニーのヒサミツは、間違いなく新たな日本語ポップスとしてルーツ・ミュージックに軽やかに切り込む東京の最重要アーティストの一人である。カントリーやスワンプ・ロックのようなアメリカのルーツ・ミュージックへの影響を強く受けてはいるものの、あくまでカジュアルな日本語ポップスを作ることを何よりの歓びとするようなソングライター。派手に立ち回ったり、エゴを押し通すような強さではなく、粋な歌とちょっとユーモラスな言葉、ウィットに富んだメロディでポップ・ミュージックの豊かさを伝える優しさを持った、ある意味では日本ではとても稀な音楽家と言えるだろう。

だから、前田の周囲に集う仲間たちは、演奏、作業をするという感覚より、一緒に音楽を楽しみ共有しているようなくだけた暖かな風合いが漂う。仲間たちのバックグラウンドも様々。サポート・メンバーはサボテン楽団なる名前で活動する服部誠也(バンジョー、ギター、ピアノ)、yumboの芦田勇人(ペダル・スティール・ギター、トランペット)、シャムキャッツの大塚智之(ベース)、唐沢隆太(ヤバイネーション)、佐藤洋(キーボード)というラインナップだが、全員が前田の作ったこのいい歌をどうやって届けようかと穏やかに音で交歓しているのが伝わってくる。そして、そこに、森は生きている解散後も1983他で大活躍中の谷口雄(ピアノ、アコーディオン)、ザ・なつやすみバンドの中川理沙(コーラス)が加わり……さながら東京のビッグピンクここにあり、というような雰囲気だ。

そこで、カクバリズムから7インチ・シングルとしてリリースされた「羊を盗め」(その時のインタビューはこちら)も収録、さらには漫画家・本秀康さん主宰のレーベル=雷音から先行7インチ・シングルとして発売された「そらまめのうた」のそれぞれのタイトル曲も含む約4年ぶりとなるニュー・アルバム『The Peanut Vendors』をめぐって、ポニーのヒサミツの中心人物であるその前田卓朗と、今回のアルバムにゲスト参加した谷口雄に、共通して彼らが好きなルーツ音楽へのアプローチの仕方、その魅力、そこから自分たちの歌にするまでの思いについて語ってもらった。
 

文/写真:岡村詩野

 

ポニーのヒサミツ- 2nd ALBUM『The Peanut Vendors』 トレーラー

 

──二人は年齢も一つ違い(前田が86年、谷口が85年生まれ)の同世代ですし、谷口くんが1983以外にも多くのセッションに関わってることもあり、今は二人が同じイベントに出ることも少なくありません。そもそもどのように知り合ったのですか?

前田「谷口くんが森は生きているをやっていた頃ですが、最初はドラムの増村(和彦)くんと知り合ったんです。まだ会ったことなかったのに、ポニーのファースト・アルバムのトレイラー映像をツイートしてくれてて」

谷口「うん、だって、その頃、車の中でずっとあいつポニーのファーストかけてて…もうエンドレスで。こっちも“誰これ? いつの時代のバンド? え、同世代なの?”って感じ。だって、カーステだったってこともあるけど、まるでSP盤みたいな音に聞こえたんだもん」

前田「ただ録音がチープだったってだけなんだけど(笑)。あとあと増村くんに聞いたら、そのファーストの1曲目のドラムが特にすごく好きだったみたいで……でもそれ叩いてるの当時ドラムだった芦田君ではなくて僕なんですよ」

谷口「(笑)」

前田「で、森~のファースト・アルバムのレコ発に行って、そこで谷口くんや岡田(拓郎)くんとも会って」

谷口「4年前だよね。で、ポニーのヒサミツのファーストのレコ発も呼んでもらったんだ。その頃からだよね、仲良くなったのって」

前田「うん。一緒に飲みに行ったり、飲みに行った場所に森のメンバーの誰かがいたりして、それでいつのまにか…って感じだった」

谷口「森は生きているのメンバーって、だいたい飲みに行く前には決まってディスクユニオンに寄っていくから(笑)、だいたいレコード袋を持ってるんだよね。で、飲みながらその中身を見せ合ったりして。それで自然と音楽の話をするって感じだよね」

前田「そうだね。でも、同じようにレコード好きでも買い方とかが少し違う。岡田くんとか増村くんなんかは特にそうだけど、森は生きているのメンバーって割とオリジナル盤かどうかとかUK盤とかUS盤とか、そういうのにこだわる(笑)。でも、僕はあまりそういうのは気にしないっていうか、レコードで手に入れることが大事で、中身がよければいいし、ちゃんと聴ければいいし。そういう聴き方の違いがそのままバンドの音に現れてるなって思っていました(笑)」

谷口「それはあるね~。岡田がいたら機材の話になるよね」

前田「岡田くんとは同じリボン・マイクをヤフオクで狙ってたってこともあった。で、“あ、あれ落札したの僕”ってなったり(笑)。飲み友達と言えばそうなんだろうけど、でも、そういう中で音楽の話や機材の話ができるのって嬉しかったですね」

谷口「僕がいたら野球の話になっちゃうけどね(笑)」

前田「ポニーのヒサミツって、結構好きな音楽に忠実っていうか、元ネタみたいなものを隠さず出しちゃうところがあるけど、森は生きているも参考になる音源があって、それを自分たちの作品の中で生かしていくような作り方をしてると思う。そういう音楽との向き合い方をしているアーティストとかバンドで同世代の仲間って、僕の周辺にはほとんどいなかったから嬉しかったですね」

谷口「しかも、その好きな音楽が自分が生まれるよりずっと昔の音楽で……僕がね、ポニーくんに感じるのはギャラガー&ライルとかなんだよね」

前田「へえ! 聴いてはいるけど、聴き始めたのは2年前くらいかな」

谷口「僕はやっぱり60年代とか70年代のアメリカン・ポップスとかロックが好きなんだけど、今回のポニーのヒサミツのアルバムに参加して改めて感じたのは、すごく聴きやすいポップスなんだけど、よくよく演奏してみるとコード進行がちょっと不思議だったりとか、全然曲を覚えられなかったりとか。“え、なにこれ!”って思っちゃう。カントリー・ロックにカテゴライズされがちだけど、ちゃんと聴くと違うかな?って感じの曲なんだよね」

前田「そう、よく言われるけど、自分としてはそんなにカントリーかなあって感じ。今回のアルバムも全然ド・カントリーなアルバムを作ろうと思ってたわけじゃないし、実際に最初にあった曲はカントリーっぽい曲はそんなになくて、レコーディング直前に急いでカントリー寄りの曲を作って増やしたくらいで…、その中には、ギター、バンジョー担当のメンバー、サボテン楽団(服部誠也)のために作った「夜の飴玉」もあって。ここでサボテン楽団は彼の尊敬するジェリー・リードの「ザ・クロウ」や(マール・トラヴィスで知られる)「キャノンボール・ラグ」のようなギターを弾いてくれてます」

 

Chet Atkins & Jerry Reed – “The Claw”
https://youtu.be/VNvwxJsGN5Q

 

谷口「でも、そうやってメンバーの個性っていうか、持ち味を生かした曲を作ったりするのって、ポップ・バンドとして理想的っていうか、すごくいいなって思う」

前田「前のアルバムを出した後くらいから、この今のメンバー(前田、サボテン楽団、芦田勇人、佐藤洋、大塚智之、唐沢隆太)でライヴとかも一緒にやってきて。今回のアルバムはその過程で出来上がった曲ばかりなんですよ。ザ・ピーナッツ・ベンダーズっていうのは、今回のアルバムのタイトルですけど、同時に、この架空の6人組のバンドの名前でもあるんです。みんなそれぞれ他のバンドとかもやってるけど、こうやって集まってアルバムを作ったよ、みたいな」

谷口「まるでエリアコード615(60年代後半から70年代にかけて活動していた、ナッシュヴィルの腕利きミュージシャンたちによるバンド)だね。“東京のエリアコード615”!」

前田「でも、僕は2コードだけでいい曲を作れる自信もないし、抜群の歌唱力とか歌声もないし……っていうところから、コードをこねくりまわしたり、あれこれ手を加えたりして自分だけのスタイルを見つけてきたんですよ」

谷口「なるほどね。そもそも何がきっかけでこういうアメリカの音楽を聴くようになったの?」

前田「きっかけは細野晴臣さん。大学の頃に『FLYING SAUCER 1947』(2007年)を聴いてルーツを遡って。そしたら、同じサークルにサボテン楽団っていう、既にアメリカ音楽にハマっていたヤツがいることに気づいて。部室で一人、チェット・アトキンスとかを弾いているんですよ(笑)。“それ、僕も弾けるようになりたいな”って言って教えてもらって……そこからのつきあいなんです。まあ、それでも周囲にいたのはサボテン楽団くらいでしたけどね(笑)」

谷口「いいなあ…。僕なんてそういう仲間が一人もいなかったもん。で、The Thorns(マシュー・スウィート、ピート・ドロージ、ショーン・マリンズによるユニット)のファースト・アルバム(2003年)を高校の頃に聴いて。そこにジェイホークスのカヴァーが収録されてるのを聴いて、“うわ!”ってなって即買いに行って」

前田「「ブルー」ね」

谷口「そうそうそっからどっぷり。で、同時にザ・バンドのファーストとセカンドを《HMV》のワゴンセールでCDで買って。あれがあって今があるって感じ。でも、仲間はいなかったんだよね。ただ、その頃、僕、浪人中で深夜のスーパーマーケットでバイトをしてたんだけど、そこでのバイト仲間に古本屋を目指してる先輩がいて。すっごい音楽が好きで、レヴォン・ヘルムに会いたくてアメリカに遊びに行っちゃうような人だったんだけど、その人の家でブルース・コバーンを聴かせてもらったり、ジェフ・マルダーのライヴに連れてってもらったりして……でも、ほんと、その人くらいでした。ただ、僕、ザ・バンドとか聴きながらもシューゲイザー・バンドでドラムを叩いたりもしていたな(笑)。自然とそういうのを自分じゃやらなくなっちゃったけど……やっぱりザ・バンドがいいな…みたいな」

 

──昔のアメリカン・ロックやカントリー・ロックって今の10代の若い世代がなかなかすぐには夢中にはなれないものじゃないですか。どういうところに魅力を感じたのでしょうか?

谷口「僕の母がシャ乱Qがめっちゃくちゃ好きだったんですよ。彼らに「パワーソング」って曲があって、それの鍵盤の音が当時すごく好きで。僕、ピアノをずっとやってたんですけど、今思えばそれって生のウーリッツァーだったんですね。たいせいですよ、弾いてるのって(笑)。その原体験が実はすごく重要だったんじゃないかな~って思いますね」

前田「はははははははは!」

谷口「そういう子供の頃の音の体験が刷り込まれてたっていうのがあるような気がしますね」

前田「それ、わかるなあ」

谷口「だって、今聴くとすっごいスワンプなんですもん、あの曲」

前田「僕は谷口くんほど音色とかにこだわって聴くタイプじゃないけど、逆にソングライティングとかに、小さい頃から自然と注目して耳にしてきたのかもなって思いますね。若干のラフさが残っているのが逆にいいっていうか。器用じゃないけど、その中で美しい曲を作っている、そういうソングライターが好きなんですよね。70年代のディランもそうだし、ロビー・ロバートソンとかもそうです。あの時代の音楽に夢中になったポイントってそういうところなのかもしれないですね」

谷口「わかるわかる。ザ・バンドなんかガース・ハドソン以外みんな器用じゃないもんね(笑)。そういうところが好きっていうの僕もある。でも、僕はソングライターっていうよりプレイヤーとして聴いちゃうところがあるから、だから音色とか奏法なんかに耳がいっちゃう。同じようにザ・バンドが好きでも、そこが前田くんと違うところなのかな。僕はフレーズ的にいろんなプレイヤーに惹かれていった。こういうフレーズをもっと弾きたいっていう思いから音楽をやってるところがあって、実際にそこから今のようなプレイ・スタイルになったんだと思うんです。森は生きているの時は、そうやって弾きたいフレーズを弾きまくってたからよく怒られたけど(笑)」

前田「確かにそこは違うね。僕は谷口くんや森は生きているのメンバーと違ってそこまでプレイヤビリティがない。その分、いいソングライターでありたいというか、それしかできないというか。だから、サボテン楽団とか今のポニーのヒサミツのサポート・メンバー全員そうですけど、演奏者として自分よりうまい人、自分には弾けない楽器を弾ける人がいるなら、弾いてもらえばいいよな、という気持ちでやっています」

 

The Band – “The Weight”

 

──そういう意味では、アメリカの音楽が好きというより、聴いていいなと思ったものがアメリカの音楽に多かった、という形でルーツに気づいた流れなんですね。しかも、お二人それぞれ、聴いているポイントが違うというのも面白い。実際、今回のポニーのヒサミツのアルバムを聴いて真っ先に思い出したのはアメリカの音楽家じゃなくポール・マッカートニーでしたから。

谷口「そうなんだよね!」

前田「いや、ほんとにそうかもしれないです。コードやメロディーなんかは特に」

 

──でも、ポールはずっとアメリカの音楽に憧れ続けているソングライターの一人ですよね。

前田「そうですね、そういうところに親近感を感じるのかもしれません。アメリカで録音したイギリス人の作品とか、アメリカをイメージして作られた作品とか……そういうのが一番すんなり好きになっちゃう。前に取材してもらった時に挙げたラブ・ノークスとかはまさにそういうソングライターだと思います」

谷口「わかる~! グリン・ジョンズとイーサン・ジョンズの親子とかも僕にとってはそういう存在かな」

 

【カクバリズムから7インチ・シングルを出したポニーのヒサミツが語る大切な6枚のレコード】
https://r-p-m.jp/features/meandrecord_hisamitsu

 

前田「僕自身そうだけど、アメリカを直接知らないからこそ描ける景色ってあるんですよね。」

谷口「ただ単に技術として難しいことを難しく聴かせるようなことってむしろ簡単なんだよね。でも、そうやっていろんなプロセスを経て想像して作るのって難しい。今回のポニーのヒサミツのアルバムって、でも、そうやって作られた作品なんだなって、そういうところが魅力なんだろうなって思う。カントリーばかり聴いてたら絶対にこういう作品にはならないと思うし…」

前田「手伝ってくれたメンバーも本当に個性的だしね」

谷口「シャムキャッツやyumboのメンバーもいるんだもんね」

前田「自分が聴いてきたものが自然と出ちゃった結果というか、そういうことしかできないというのがまずあるんですよ。僕は割とそうそうに白旗をあげちゃうところがあって。アメリカに憧れるけど、英語で歌えないから日本語で歌っちゃうとか、本格的にカントリーをやることができないから、なんちゃってでやってみようとか。そうやってできることをやってきたのがポニーのヒサミツ。でも、本格的にカントリーをやったり、英語で歌ったりとか、そういうのだと僕がやっても説得力がないと思うし、つまんなくなってしまう気がしていて。だから、僕の曲は割と元ネタがハッキリしているものが多いのは、無理に消化させずに好きな曲や影響を素直に消化した結果なのかもしれないです」

谷口「うん、だから、レコーディングの現場もすごく楽しかった。真面目にカントリーやるとか、ルーツ音楽やるって感じじゃなかったし。でも、前田くんの曲って実はすごく演奏難しいんですよ」

 

 

──谷口さんが参加しているのは「Walking Walking」「健忘症」の2曲ですね。谷口さんはどのような感じで録音されたのですか?

前田「谷口くん以外の演奏は終わっていて、あとは谷口くんにお任せ、という状況だったんですよ」

谷口「でも、面白かったのは、僕とサボテン楽団がそれぞれ鍵盤弾いてるんですけど、一つのピアノの部屋に僕とサボテン楽団とが順番に入って違う曲の鍵盤を交互に録音したんです。“1回の表、谷口、1回の裏、サボテン楽団”みたいな感じで。野球の攻撃みたいで楽しかった。二人とも全然違うスタイルだから、こういう機会はとても興味深かったですね。これからってどういう感じでやっていきたい?」

前田「なんだろう……色々と曲ができていて。カントリーっぽい今回の延長のような曲もあるし、細野さんや久保田麻琴さんのトロピカルっぽい曲もあれば、ホーンを入れるようなもっとポップスに寄った曲もやってみたいし、、まだ迷っていますがその時やりたいことをやっていくと思います」

谷口「プロデューサーは? 誰とやりたいとかってある? ミッチェル・フルームとかも合うかも。ポール・マッカートニーをナイジェル・ゴドリッチが手がけたアルバム(『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード~裏庭の混沌と創造』2011年)とかも超よかったじゃん」

前田「ああ、ポールのプライドがバキバキに折られちゃったってアルバムね。あれよかった! でも僕はポールみたいに折られる程のプライドがないからなあ(笑)。正直プロデュースをつけたいって思ったことはなかったんだけど、確かに誰かにプロデュースしてもらうのも面白いかも。」

谷口「10万枚売って、ニック・ロウにプロデュースしてもらうのってよくない?」

 

ポニーのヒサミツ- 春を謳えば

 

ポニーのヒサミツ 『The Peanut Vendors』発売記念 One Man Live
『(We Are)The Peanut Vendors!!』
2018.3.10(土)
渋谷 7th Floor
開場 11:30 開演 12:00
予約 2000円 当日 2300円(+ドリンク代)

出演:ポニーのヒサミツ
バックバンド:サボテン楽団、大塚智之(シャムキャッツ)、芦田勇人(yumbo)、佐藤洋、唐沢隆太(ヤバイネーション)

ゲスト:スプーンフル・オブ・ラヴィン[谷口雄(1983)+渡瀬賢吾(roppen)+サボテン楽団+ポニーのヒサミツ]
中川理沙(ザ・なつやすみバンド)
DJ魔法(aka.長門芳郎) 

※来場者特典3曲入りCDR「ポニーのヒサミツ Sings The Beatles」

 

ポニーのヒサミツ