Chocolat & Akito <後編>
Record People Magazine読み切り連載企画『Listening Room』スタート!
ここでは、アナログレコードを聴くという文化が日常に根付いているミュージシャンたちが、いちリスナーとして普段はどんな環境で音楽を聴いているのか、どんなオーディオをチョイスしているのかなど、ご自宅やプライベートスタジオへ訪問インタビュー、写真家・平間至氏による写真とともにお届けします。
第1回目のゲストはChocolat & Akito。ミュージシャン同士でもあり夫婦でもあるふたりにとってのアナログレコードとは? そして、耳にしているこだわりのスピーカーは? レコードプレーヤーは?
第1回目のみ前編・後編のスペシャルバージョンでおおくりします。アナログレコードの魅力やエピソードなど、レコードの話が中心となった前編(こちらからお読みください)、愛用のオーディオやリスニングスタイルについての話を中心とした後編、じっくりお楽しみください。
ステレオとモノラルと2台、
針も変えて聴いてますね(ショコラ)
――このスピーカーは少し内向きにしているんですか?
片寄 してますね。ちょっとのことで(音が)変わるんですよね。
ショコラ 動かすと怒られます(笑)。
片寄 本当はここ(スピーカーの間)にテレビを置くのも邪道なんだけど(笑)。でも、あまりこだわりすぎずに楽しんでます。自宅ではそんなに大きな音も出せないし。できる範囲でいいんですよ。ショコラはここの正面のソファーに座って、アメリカ盤とイギリス盤と日本盤の音の違いを無理矢理聴かされてるよね。
ショコラ 「何か違う」って何となくわかる(笑)。イギリスのバンドはやっぱりイギリス盤がいいねとか。
――このプレーヤー(rega)を選ばれたのは理由があるんですか?
片寄 自分がブリティッシュ系の音が好きだということがわかったなかで、イギリスのブランドで予算に合うものを選びました。あとルックスもシンプルでいいなと。
ショコラ うん、色もいろんな色があるんですよね。ウチのはステレオとモノラルと2台、針も変えて聴いてますね。
片寄 ちょっとレコードかけてみますね。
(レコードを聴き比べながら)
・ビートルズ「ペイパーバック・ライター」
・セックス・ピストルズ「アナーキー・イン・ザ・UK」
・ニール・ヤング『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』
・ピート・タウンゼント&ロニー・レイン『ラフ・ミックス』
・ビートルズ『アビイ・ロード』
・ジョアン・ジルベルト『三月の水』
・ジョン・コルトレーン『至上の愛』
――ビートルズはこうして聴くと、攻撃的な音をしてますね。
平間 ほんと、あったかくて丸いだけじゃないですね。ものすごい刺激的。
片寄 ピストルズはこれがまた、CDとアナログとでは全然音が違うんですよ。
平間 本当だ。CDの方は、わざとフィルターかけてるんじゃないかと思うくらい違いますね。ニール・ヤングはオーディオ好きなんですよね。
片寄 すごいらしいですね。自分でカッティングにも立ち会ってるのかな。彼のアナログ盤は再発盤でもオリジナルに負けず劣らないクオリティで驚きです。前にLAのエンジニアにニール・ヤングはマスタリングに1ヵ月かけるって聞きましたよ。このピート・タウンゼント&ロニー・レインのアルバムは、これを聴いてショコラはチャーリー・ワッツのドラムのすごさがわかったと言ってましたね。ジョアン・ジルベルトはまた、レコードがいいんですよ。
ショコラ 息づかいまで聴こえるんですよね。
片寄 ジョアン・ジルベルトはやっぱりブラジル盤が最高ですね。フランス盤はちょっと大人しい感じがする。これウェンディ・カルロスっていう「時計じかけのオレンジ」などのサントラやってたシンセ奏者が録音とミックスを手がけていて、音も素晴らしいんです。CDではこの感じが味わえない。
平間 デジタルとアナログの違いって、アナログには音楽とノイズの切れ目がないところかもしれないですね。デジタルだとはっきりと境界線がわかるから。
ショコラ あとアナログは音が近い感じがしてそこも好きですね。
平間 コルトレーン、いいですね。システムがイギリスのものだから、陰影のある音楽が合うのかもしれませんね。
一番のこだわりは、
高校の時に拾ったスピーカーですね(片寄)
――オーディオで言うと、一番のこだわりは?
片寄 どこかなあ? もしかしたら、このスピーカーにはこだわってるのかも。拾ったもので何なんですけど(笑)。セレッションって、フェンダーのアンプのスピーカーユニットとかもセレッション製なんですよね。
――だから中域ががっしりしてるんですね。
片寄 この感じがすごく好きで、こだわってるのかもしれないですね。
ショコラ そうですね。
片寄 この後にも何台か買ったスピーカーもあったんですけど、どうしても音楽がつまらなくなっちゃって、またこれに戻しちゃうんです。
ショコラ 私たちの新曲ができて音のチェックをする時は、このスピーカーで聴くのが一番よくわかるよね。それで音の調整をしたりとか。
片寄 そうだね。これで聴いてよければ自分の好きな音かなと。
ショコラ ある意味、基準になってるスピーカーですね。
片寄 0円だけどね(笑)、自分の家のレベルでは十分満足してるね。リスナーとしては解像度うんぬんより、ただ楽しく聴ければそれでいいんで。仕事でより高度な解像度を求めてチェックしたいときはオール・デジタルでECLIPSEのスピーカーを使って聴いています。
平間 部屋の雰囲気と音がすごく合ってますよね。つくっている作品ともつながっている気がしますね。
片寄 そうかもしれないですね。そうあるべきだと思うし。いろんなミュージシャンがウチに遊びに来てはレコードを聴いて楽しんでくれるのも嬉しいんです。レコードのおかげでいろいろな人がウチに来るっていう、交流のキーにもなってる。レコードってそういう存在でもありますね。それによってプロデューサーとアーティストという関係性の場合には、より共通言語も増えるんですよ。だから一緒に作品をつくる人には、なるべくウチに来てもらえる機会があればいいなと思ってますね。
――リビングとレコードを聴く部屋は同じなんですね。
片寄 いや、分けるほど広くないし、聴くときは二人一緒に聴くからね。
――じゃあ、特にテレビのチャンネル権みたいに、どちらかにプレーヤー権がある、ということでもないんですね。
ショコラ テレビ観るより音楽を聴く方が圧倒的に多いし、特に決まってないですね。
――レコード棚の収納のこだわりはありますか?
片寄 ありますね。例えばスイートソウル、ファンク、ブラコンという順に並んでいて、その中でも地域ごとに並んでいます。その上でアーティストごとになってますね。あとは時代ごとに分けてますね。
ショコラ へぇー! 初めて知った(笑)。
片寄 違うところに戻すと見つからなくなるから。僕だけが把握してるという(笑)。
平間 収納というよりも編集的ですね。
片寄 そうですね、流れがあるというか。僕は音を横のつながりで聴くようなタイプなので。
ショコラ 私は家ではレコードは探せないしさわらない(笑)。
買わなくても、レコード屋にいるだけで癒されるんでしょ?(ショコラ)
レコード屋にいるだけで元気になるんだよね(片寄)
――ざっと、何枚くらいあるんでしょう。
片寄 数えないですけど、自宅にあるのは3000枚くらいですかね? 棚にいっぱい除湿剤も入れてます。置ける数だけにしないと……でもつい買っちゃいますけどね。
ショコラ 聴くと、やっぱりレコードは欲しくなるもんね。
――ジャケ買いもされますか?
片寄 ジャケ買いするのはショコラの方だね。
ショコラ そうですね。あとアメリカの100円コーナーを見るのが好きで、そこでジャケットがかわいいのを買ってワクワクしたりしますね。
片寄 昔、カリフォルニアの夕日みたいないい感じのジャケットで、A-FUSEって書いてあるレコードをジャケ買いしたんですよ。家でメロウなAORを期待して針をおとしたら日本語で歌謡風のサウンド…「あれ?」ってビックリして。よく見たらそれ、布施明のレコードだったんです。それからあまりジャケ買いはしなくなりましたね(笑)。
――おふたりで一緒にレコード屋に行かれたりしますか?
ショコラ 一緒に出かけてる時に明人がレコード屋に行くって言うと「え〜!?」って言っちゃう(笑)。後々、楽しませてもらってるので感謝するべきなんですけど(笑)。でも、私の好きそうなものも買ってきてくれるので助かってます。
片寄 レコード屋に行くと、「このジャケットかわいいよ」とか、飽きさせないように大変ですよ(笑)。
ショコラ 買わなくても、レコード屋にいるだけで癒されるんでしょ? 「ちょっと疲れたからレコード屋に行こう」って言ってるもんね。
片寄 そう、レコード屋にいるだけで元気になるんだよね(笑)。
――片寄さんは以前、パイド・パイパー・ハウス(70〜80年代、南青山にあった伝説のレコード店)の最年少のお客さんだったと訊きました。
片寄 最年少かは分かりませんが、13歳くらいの頃から通ってましたね。エルヴィス・コステロが好きで、コステロのプロデューサーのニック・ロウにも興味が出てきて、そうするとニック・ロウがやっていたバンドも聴きたくなったんですけど、なかなかレコードが手に入らなくて。それを探しにパイド・パイパー・ハウスに行ったんです。子供だったし、最初はビクビクしながら通いましたね(笑)。僕、16歳でライブハウスに行き始めて、当時ブルーハーツの(甲本)ヒロトさんやマーシー(真島昌利)さん、コレクターズの加藤(ひさし)さんたちにすごくかわいがってもらってたんですよ。みんなにいいレコードを教えてもらったりもしてましたね。あと、中古レコード屋さんのセールに並んでいたりすると、中学生が珍しくて大人の人たちが話しかけてくれるんです。「何を探してるの?」って。そこでまたいろんな情報を教えてもらって。やっぱり、今みたいにネットのない時代だから、人と人とのつながりで音楽の情報やレコードの知識を増やすしかなかったんですよね。いいレコードを持ってる人がいると、あまり知らない人でも、平気でその人の家に聴かせてもらいに行ったりしていた時代で。当時は色んな出逢いがリアルにありましたね。
――今ではなかなかないことですね。
片寄 あと、中学の頃、武蔵小山に今もあるペット・サウンズ・レコードの上にある塾に通っていたんで、塾の行き帰りはペット・サウンズにもよく行きましたね。何かを買おうとすると「それよりもこっちにしなよ」とかレアなザ・ビーチ・ボーイズの盤を薦められたり(笑)。昔のレコード屋さんは個性があって楽しかったですよね。
いつまでも、人の音楽を聴いて
ワクワクしていたいですね(片寄)
――おふたりの活動は、例えばレーベルメイトで言うとLUCKY TAPESやSuchmosのように「レコードの音、いいよね」というような若い世代のミュージシャンたちとも感性が合う印象がありますが。
片寄 最近は音楽で一発儲けようって時代じゃないから、むしろ本当に音楽好きがバンドやってる感じがして嬉しいです。僕、ソウルやファンク、AORもすごく好きなんですけど、自分のつくる音楽ではその要素をそのままではあえて出さないんです。基本的にはパンク、ニューウェーブが根っこにあるので、やはり異様なミクスチャーをしてしまう。その点、若い世代はもっとストレートにそういった要素を取り入れてるのが興味深いですね。でも僕の記憶ではAORやブラコン、ディスコみたいな音が若い世代のメインストリームになる時代は初めてですよ。とても面白いし、嬉しいですね。かと言って、僕らもへそ曲がりだからGREAT3でもChocolat & Akitoでも、次に出すのはその路線そのままではないんですけどね(笑)。
ショコラ でも、ひねくれてるワケじゃなく、次にやりたいことがそれじゃなかったっていうだけでね(笑)。
片寄 そうだね。
平間 そういうミックス具合が片寄さんらしい気がします。
片寄 音楽的に、すごく折衷する人間だと思いますね。ジャンルにしてもひとつのもので語れないというか。世の中そんな単純じゃないだろうって思うし、人間の感情にしても複雑なものが好きなので、それを音でも表現したい。昔は、ひと言で表現できない音楽をやっていることがコンプレックスというか自分の弱点のように思ってたんですけど、さっき言ってたような最近の素晴らしい若手音楽家たちの中には、ひと言で言えない音楽性を持った人が増えてきてるのが一番嬉しいですよね。
――ユーチューブやストリーミングなど、現代のリスニングスタイルの影響もあるんでしょうね。
片寄 そうですね。ジャンルじゃなくてもっと広い感性で聴いているというか。そういう点は、自分にとっては居心地のいい時代になったと思いますね。
平間 時代が追いついた。
片寄 いやぁ、追いついたっていうのはアレですけど、ズレがなくなってきた(笑)。来年でデビューして25年ですけど、初めてですね、時流と合ってるかもと思うのは。常に、前にいたり後ろにいたりしていたので。面白くなったと思います。だからプロデュースしいていても、10代、20代のミュージシャンとは特に気が合いますね。
――ジャンル関係なく若い世代ともマッチするのは、片寄さんもショコラさんもずっとリスナーであり続けているところが大きいのかもしれませんね。
片寄 そうですね、ずーっとリスナーなんですよね。ミュージシャンて2通りに分かれると思うんですけど、ミュージシャンでありリスナーであるタイプと、本当に人の音楽を聴かないタイプと。自分は典型的なリスナータイプです。いつまでも、人の音楽を聴いてワクワクしていたいし、そこから刺激を受けてまた自分の音楽をやるという。これからもそうありたいですね。
――アルバムも楽しみにしています。今日はありがとうございました。
撮影:平間至
インタビュー構成:秋元美乃
<audio equipment>
・レコードプレーヤー…rega25、regaP3
・パワーアンプ…QUAD 405-2
・プリアンプ…QUAD 44
・CDプレーヤー…QUAD 67
・スピーカー…Celestion Ditton15
・スピーカー…ECLIPSE(富士通テン)
・変圧器…Power Max
・レコード棚…通販で購入、自宅にて組み立て