Last Update 2023.12.27

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本日休演、コアントローズからボンボヤーズ、ギリシャラブまでーー東京発京都経由世界行き(?)ミロクレコーズってどんなレーベル?

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公式サイトにアクセスするとナイアガラ・レーベルを思わせるフォントにニヤリ。
ミロクレコーズ公式サイト:http://mirokunomiryoku.wixsite.com/mirokurecords

 

取材/文:岡村詩野

 

京都の現在の音楽シーンの一角を担う現役京都大学生たちによる4人組、本日休演というバンドを聴いたことがある人なら、彼らの作品がミロクという奇妙な名前のレーベルからリリースされていることに気づいていることだろう。レーベルの公式サイトにアクセスすると、かの大滝詠一によるナイアガラ・レーベルのオマージュのようなフォントが乗ったロゴが目に飛び込んでくる。そこからも熱心なポップス愛好家的な目線が強く出たインディーズであることが伝わってくるが、実はこのミロク、まだ20代前半の若者たちによって運営されているというのだから驚きだ。しかも、本日休演のアルバムで広く注目を集めることになったレーベルながら、京都ではなくあくまで東京が拠点。スタッフは今も全員東京に暮らしている(3月現在)。

 

ミロクレコーズの主要スタッフは代表の大澤海斗を筆頭に、加藤弘樹、小池茅、城真也、横見祥嗣(以下全員敬称略)。個人で映画制作もする小池が主にPVなどの映像を、城は録音エンジニアを担当しているが、それほどキッチリとした役割分担もなく、全員が協力しながら制作から宣伝、営業まであらゆる工程に携わっている。この3月で全員が大学を卒業するが、レーベル自体はまだ彼らが大学生の頃にスタート。今回、改めて代表の大澤に伺った話をもとに紹介していこう。

 

左:ポスターやステッカーなどは全てスタッフによる手作り。 右:何故か弥勒菩薩をイメージしたポップなロゴ!

 

「現在に続く形態としては2013年に立ち上がりましたが、ミロクレコーズという名前自体は僕が高校の頃から使っていました。その後大学(大澤は早稲田大)に入り、中南米研究会というサークルで知り合った城がナカザワドアノブというアーティストのレコーディングをしていた縁で、ある日そのナカザワドアノブを紹介されました。彼とはすぐに仲良くなって自主制作のCDR盤を作る手伝いをしたのですが、その最中に“高校時代にミロクレコーズという名前で友達にコンピを作ってた”という話をしたら、そのレーベルでナカザワドアノブ売り出そう!と煽られて、そのままやるハメになってしまいました。それがきっかけです」

 

今でいうミックス・テープ、ミックスCDのようなものを趣味で作って配っていたという大澤自身、60年代や70年代の洋邦ロックに明るい音楽ファンだが、その趣味指向をそのまま発展させる形で正式に誕生したのがミロクだった。そして「多くの人に聞いてもらうべき音楽、声だと思っていた」というナカザワドアノブの作品『夜よギターを鳴らせ』を第一弾としてリリース。残念ながらナカザワはその後急逝してしまったが、大澤は今も「ナカザワドアノブありきのミロクレコーズ」だと断言する。というのも、シンガー・ソングライターとして東京でも異彩を放っていたそのナカザワドアノブのバック・バンドにはその大澤と、共にミロクレコーズをたちあげる小池も名を連ねていたからだ(当時の演奏風景を写した映像には二人の姿も見られる)。城もまた“ふるえるゆびさき”で活動していたことがあり、スタッフ全員がそれまでになんらかの形で音楽に関わっていたことから音源制作、リリース作業はスムーズだった。

 

 

その後、大澤と同じサークル仲間でもあったその小池が、高校時代の同級生だった留萌ちよじを頼って自主映画を撮影しに京都へ。京都大学へ進学していたちよじは、サークルで知り合った岩出拓十郎と埜口敏博(どちらも実はスタッフの加藤と中学高校の同級生だった)、佐藤拓朗らと本日休演というバンドで活動をしていたが(現在ちよじは脱退)、それを知った小池がナカザワドアノブの東京でのレコ発イベントの対バンとして本日休演を推薦。実際のライヴを見て衝撃を受けた大澤たちはすぐさま本日休演のアルバムをリリースすることを決意し、そこから今に至るまでの京都勢との縁ができていったのだという。ちなみに、その小池が監督し、埜口、ちよじ、岩出らが出演した京都を舞台とする短編映画『余命一日のノぐち』(2013年)は現在『YOU TUBE』で見ることができる。

 

 

そうして本日休演のファースト『本日休演』を2013年に発表。最初は流通も通していなかったが口コミで噂が伝わり、ブルーズ、フォーク、アフリカ音楽、レゲエなどを柔軟に消化させた本日休演は次第に京都では知る人ぞ知る存在に。年に一度の音楽フェス『ボロフェスタ』にも出演、昨今はHomecomingsやSeussなどをリリースする京都の人気レーベル=SECOND ROYALから7インチ・シングル「アラブのクエスチョン/ごめんよのうた」もリリースされるに至った。2015年にはセカンド・アルバム『けむをまけ』を発表。今やミロクの顔のような存在になっている。

 

「ただ、その時々で努力はしつつも風まかせでした。岩出くんがギターを担当していた縁もあり、本日休演をやめたちよじくんの新しいバンドであるコアントローズのファーストをリリースして、岩出くんがプロデュースで関わるというので今度はギリシャラブも……。東京と京都とをつなぐレーベルというイメージもあるかもしれないですが、事後的にそういう立ち位置を見つけたって感じです。僕自身生来の出不精のうえ、ライブ・ハウスの雰囲気があまり好きでないので、なかなかライブに行って人脈を拡げるなどができないでいたんです。でも、彼らのライヴを見に京都に行くとすごく居心地が良かった。ただ、東京にあるわずかばかりのご縁で情報を発信してもらえたりしたので東京で活動開始した意味は大いにあったと思います」

 

これまでにミロクレコーズが発表したのは5タイトル(ナカザワドアノブの最初のCDR、本日休演『けむをまけ』のアナログ・レコードは除く)。まもなくリリースされるギリシャラブの『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』で6タイトル目となる。2014年に最初のミニ・アルバム『商品』を京都のレーベル=SIMPOレコードから発表しているギリシャラブは、この春から龍谷大大学院生となる天川悠雅を中心とする4人組。それまで京都のシーンとはあまり関わりがなかったが、ライヴで共演をした縁から本日休演と意気投合、岩出がプロデュース参加、メンバーの埜口に至ってはベーシストとして加入、さらに有泉慧や元メンバーの佐藤拓朗もミックスで関わるなど今や本日休演ファミリーの様相を呈している。もちろん、本日休演をやめたちよじによるコアントローズのアルバム『気球に乗って、どこまでも…』には岩出の他、本日休演のドラマー、樋口拓美も演奏で参加。このあたり、互いのバンドのメンバー同士が力を貸し合うことで土壌を形成しているブルックリン、シカゴ、シアトル、ポートランドなどアメリカ各地のインディー・シーンを彷彿とさせて面白い。

 

また、大澤以下、スタッフの多くがアナログ・レコード好きであることから、彼らはヴァイナルでのリリースにも積極的だ。レーベルのオフィスでもあった大澤の下宿(就職に伴う引越しのため一時的に撤収)には誇らしげにいくつものレコード盤が飾られていたし、昨年秋にはその大澤自身による無国籍ポップ・ユニットのボンボヤーズが7インチ・シングル「亜熱帯道中/五月の青い風」で初の作品をリリース。本日休演の『けむをまけ』のレコード盤には、京都のドローン・バンド、supersize meと共同でミックスした曲が独自に収録されていたり、B面のラストが無限ループになっていたりとヴァイナルを楽しむ遊び心も仕掛けられていた。ポスター、ステッカー、バッジなどのグッズを作り、通販購入者にはオマケとしてつけてあげるようなサービスもリスナーには嬉しい。

 

もちろん、スタッフが全員社会人になり、活動がなかなかスムーズにはいかなるだろうこれからがレーベルとしての正念場であることは間違いない。いうまでもなく、東京には既にいくつものレーベルやインディーズがある。そうした他レーベルとほとんど共闘せずに、一途に好きな音楽を仲間と一緒に届けてきた、ある種大学のサークルの延長線上にあるようなレーベルだったミロクレコーズは、それゆえに純粋だ。だが、世代や指向を超えたつながりをこれからどう求め訴えかけ、広げていくのか。どのようなポジションで、どのようなアングルから不特定多数のリスナーに提案していくのか。今まであまり意識してこなかったであろうそうしたヴィジョンやディレクションがミロクレコーズの今後の課題になるだろう。

 

「これまでは運と直感と好みで選んでリリースしてきました。それとミロクのスタッフが好きになれるバンドというのは大切な点です。一緒に活動する上においてみんなが能動的になれることがミロクレコーズの連帯感につながってきたからです。逆に言えば、相対的に見れてないのでどのようなカラーかはわかりません。ただ、流行りの音楽を出すのではなく、いろんな音楽が残ってる未来はきっと明るいと思うので、何10年も先の音楽オタクの中でカルト的人気を博すようなレーベルになればいいなと思います。大器晩成型レーベルとして。とはいえ、僕が就職で名古屋に行ってしまうのでとにかく続けることを第一に考えています。それと、願望としては海外にもミロクレコーズの音楽を売りたい。台湾、アメリカ、ヨーロッパなどにギリシャラブや本日休演、コアントローズ、ボンボヤーズのファンがいればめちゃくちゃ幸せ。日本人とは違う聞き方をするのだろうというのを考えるとワクワクしますね」

 

■所属アーティスト

ギリシャラブ

http://greeceloveband.tumblr.com/

↑監督は、台風クラブの山本啓太(B)

 

↑監督は入江陽などを手がける副島正紀

 


 

本日休演

http://honjitsukyuen.wixsite.com/qyen

 


 

THE COINTREAUS(コアントローズ)

http://aoe1928.wixsite.com/thecointreaus/blank-ujovk

 


 

ボンボヤーズ

https://www.facebook.com/bonvoyaaz/

 


 

ナカザワドアノブ

 

■ディスコグラフィー

 

ギリシャラブ『イッツ・オンリー・ア・ジョーク』(CD)
発売日:2017年3月15日(水)
品番:MRCD-5654
価格:¥2,000-(税抜)
track list:
01.竜骨の上で 02.つつじの蜜 03.夜の太陽 04.セックス 05.機械 06.ヒモ 07.パリ、フランス 08.よろこびのうた 09.パリ、兵庫 10.イッツ・オンリー・ア・ジョーク 11.ギリシャより愛をこめて

特設サイト:http://mirokurecords.com/its-only-a-joke/

 


 

本日休演『けむをまけ』(LP/CD, 2015年発売)
LP品番:MRLP-5555
CD品番:MRCD-5656
レコードの日2015アイテム

 


 

ボンボヤーズ『亜熱帯道中』(7″,2016年発売)
LP品番:MREP-5667
レコードの日2016アイテム

 


 


THE COINTREAUS『気球に乗って、どこまでも…』(CD,2016年発売)
品番:MRCD-5655


 

ナカザワドアノブ『夜よ、ギターを鳴らせ』(リマリスタリング プレス盤,2014年発売)
品番:MRCD-5667

 

■ミロク謝音祭

2017年3月11日(土) ミロク謝音祭 @代官山 晴れたら空に豆まいて

 

出演
コアントローズ
ギリシャラブ
本日休演
ボンボヤーズ

ミロクレコーズ

開 18:00 演 18:30

前 2,900- 当日 3,200- +1D
各種割引あり(上記フライヤーをご覧ください)

ご予約・お問い合わせ:mirokunomiryoku@gmail.com

イベント詳細:http://mameromantic.com/?p=50661

 

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