笹倉慎介(OLD DAYS TAILOR)
笹倉慎介さんといえば、はじめはTONEの是澤さんから音源を聴かせて頂いたり、僕のまわりで、森は生きているとの共演盤『抱きしめたい』がヒットしていたり、普通にファンだったのだけど、どうやら平間至さんと友人らしい。平間さんにこの写真連載のページの取材で訪問してみませんか、とご相談して、ご当人にコンタクトしてみると、ちょうど、新バンドOLD DAYS TAILORのレコーディングするタイミングとのこと。だったら新録のもようも撮影しませんか、みたいにとんとん拍子に我々は入間ジョンソンタウンのスタジオ&カフェ guzuriに向かったのでした。
写真、取材:平間至
構成:本根誠(rpm編集部)
笹倉 2007年に、この近くの稲荷山公園で行われたハイドパークミュージックフェスティバルというイベントを観にきて、入間にもまだ米軍ハウスがあることを知ったんです。大瀧詠一さんや『Hosono House』での住居+プライベート・スタジオというノウハウに憧れもあって、すぐに物件探しをはじめました。運良く見つかったハウスは公園に隣接していて、車通りも人気も無く、録音に最適な環境でした。当初は完全にプライベートなスタジオでしたが、知り合いのミュージシャンにも貸しているうちに「一週間ロックアウトで」とか、段々と公なスタジオっぽくなっていったんです。
平間 カフェはいつ頃からやっていたんだっけ
笹倉 2009年くらいかな~。リラックスできるスタジオを目指して整備を繰り返していたんですが、いつでもレンタルで埋まっているわけでも無いので、スタジオ以外の活用方法を考えていたんです。むかし、老舗の珈琲店で働いていたこともあったので、その経験を生かして、不定期ですがカフェを始めたんです。今は自家焙煎もしています。
平間 久々に来たらだいぶ様子が変わったね。
笹倉 ブースを作ったんです。広く使っていたメインルームにも、やはりセパレーションが欲しいなと思って(自分で)工事しました。その時、セパレートする壁は、普通の壁より、一面レコード棚がいいなと思って更に(自分で)作って。
ただ実際に棚が出来あがってみると、自分のレコードコレクションではスカスカで、、。近くにハイドパークミュージックフェスティバルを主催した麻田浩さんが住んでいて、レコードを大量に貸して下さったんです。あの時代のコレクションをそのまま移植できたのは嬉しいですね。
平間 その壁面の棚とか防音扉とか全部自分で組み立てるの?
笹倉 ネットや古道具屋などで良さそうなパーツを買い集めて、時間を見つけて少しずつ作業しました。
平間 オーディオもヴィンテージ?
笹倉 プレイヤーはProjectというブランドで最近の物です。エンジニアの故・藤井暁さんに教えてもらって使っています。必要なものが一切付いていないシンプルなところが気に入っていますが現在は廃盤みたいです。2013年に最初に自分の作品をアナログで出したときに、周りの人があまりプレイヤーを持っていなかったので、メーカーに連絡して、販売代理店みたいなこともやりましたね。当時は物販でレコードプレイヤーも販売していました。Luxmanの真空管アンプやCoralのスピーカーはヴィンテージです。YAMAHAの10Mで、10Mはモノラルで聴くとき用に置いてます。
カフェ営業のときはブース内も使いますよ。個室っぽくグループのお客さんを案内したりして。
(平間さんとの出会いの問いに)以前、平間さんのお誕生日会で、友人の羊毛くん(羊毛とおはな)が演奏することになっていて、僕は羊毛くんにボーカルで誘われたんです。それが平間さんとの出会いですね。
平間 2014年かな。共通の知り合いはいてお名前は知ってたけど、あのパーティのあと、このカフェに来てお話するようになってね。その後小山奈々子さんという共通の知り合いと塩竃でイベントやることになって、テーマが、旅する音楽だっけ、笹倉くんに、彼が持っているトレーラーハウスを富士山の西湖に持ってきてもらって撮影して、それを塩竃で発表したりね。最近もうちの平間写真館のCD棚を作ってもらって、そのうち写真館でライブもやってもらおうとか話してます(笑)。
笹倉 最初はアナログへのこだわりはそんなになくて、親のレコードをぽつぽつ聴いてたぐらいだったけど、自分の好きなフィールドの音源が発売当時はアナログでしか聴くことができなかったんだな~とか思うと、、CDで出会った音源もやっぱりアナログで聴きたいな~って、少しずつ買い直している、後追い、かつ買い直し世代ですね。
平間 笹倉くんの音楽はアナログで聴きたい音だね。レコードで持ってピンとくる感じ。音楽家として活動するうちに70’Sヴィンテージ・ロックに向かっていって、生活全般もそっちに向かっていってる世代なのかな。
笹倉 そうですね、形から入るというか(笑)。大好きな音楽に出会うとやはり彼らのライフスタイルもすごく気になります。ニール・ヤングやジェイムス・テイラーとかのばりばりのショウビジネスっぽくない感じ、いいなあ、とか。音源の周りにある形にも憧れがありますね。環境に身を置くことで、そこから生まれるものがあると思うんです。例えばアリゾナまでトレーラーハウスを買いに行ったりしていると、ウエストコーストへ向かうフリーウェイで思うわけです、ニール・ヤングの「ヘルプレス」はこの道を走って生まれたのかな~、とか。音楽の背景にあるスケールが違いすぎることに、ショックというか、感動するというか。
平間 トレーラーハウスでの移動ライブのシリーズとか、カフェ営業とか、人との対面の機会を作るね。大手の助けに頼るのではなく、自分で対面の機会を作って、自分で届けているね。ぼくも平間写真館をやっていて、単に呼ばれて撮影するだけでは得られない、定点:ホームから人を見たり感じたりすることから得られるものってあると感じている。
笹倉 カフェでもライブでも、お客さんからリフレッシュを与えてもらっている感じはありますね。音楽制作もカフェも、長く続けているとそれが当たり前になってしまって、、続けることの意味がわからなくなる時があるんです。自分の音楽や、この場所が何なのか、とか笑。ここへ来てもう12年目になりますが、お客さんやスタジオに来るミュージシャンのかけてくれる言葉があったから、ここまで続けれいられるのだと思います。
ところで、今年は音楽で発信したいな、と思います。自分の現在位置も、どこに行きたいのかも、いろいろな活動や周りからのお言葉で見えてきたので。
平間:それが良いかも。ぼくは友人としてここ数年、笹倉くんがおこなっていた自分の居場所を確認するための旅や移動を横で感じていたからね。良い作品になる気がする。
--JET SETに勤務していた頃、笹倉さんや森は生きているのようなProud to Independentというか、メジャーのシステムと違う思考のミュージシャンがこんなに魅力的な活動をしているんだって驚いて、嬉しくなりました。
笹倉 いや、意外とメジャー志向です(一同笑)
ぼくがいることはもっとみんなに認知されたいです。ぼくのフェイヴァリットのジェイムス・テイラーとかもそうですが、どメジャーじゃないですか。相当に名曲で活動も何もかもがメジャーじゃないと、当時は特にそうですが、海を渡って日本に来て、発売から何十年してぼくのような世代に届くわけがない。その影響下にあるぼくの音楽も多くの人に伝わって欲しいな、とは思います。あとは、相応に聴かれないと音楽活動を続けられないですしね。ここ数年はカフェやスタジオ運営など、自分を変節させずに音作りと向き合う場を整えるためのセットアップをしてきたんだなと思っています。
ハタから見たら、好きなことやって、メジャー志向ないんだろうな、、という見え方はなんとなく想像できます。でも、自分の音楽が大きくなったら嬉しいな、という思いは、普通にあります。
今回OLD DAYS TAILORではRecord Store Day のシングル盤を出したら、アルバムに進もうと思っています。更にいろんな人との出会いや言葉が楽しみです。
OLD DAYS TAILOR / 晴耕雨読
レーベル TOYOKASEI
フォーマット 7inch
販売価格(税抜) 1400円
品番 TYO7S-1004
平間 このオーディオセットで聴いていると、音のここがいいとか、高級だとかレアだとかのコメントは野暮に思えるね。場の持つムード、音、レコードのセレクト、全ての一体感を楽しむ場なんだね。ハイファイ偏重とはまたちがう究極のリスニングルームなんだなと思いました。
笹倉 アコースティックな音楽を聴いたり演奏したりしていると、生身が強くないとだめだな、と痛感します。肉体性のある音楽というか、特に歌。そこにしかぼくの居場所はないと思うので、これまで聴いてきた生身の強い音楽に、更に近づきたいですね。
[guzuri]
http://www.guzuri.com
[オーディオ]
プレイヤー:Project 品番 essential PHONO(廃版)
アンプ:Luxman 品番 38FD
スピーカー:Coral 品番 BX-1200
YAMAHA 10M