Last Update 2023.12.27

Record Stores 原理主義! ~ゆったり楽しむとこんなにも素敵なレコードストアという世界~

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1983年の3月13日、僕はBen Wattのファースト・アルバムを新宿のCISCOで購入した。¥2,650だった。いろんなジャンルを雑食に聴きあさる癖はこの頃からあって、沢山買うからなるべく一枚単価をケチっていたはずだけど¥2,650は、アメリカ盤より割高だったUK盤とはいえ相当に期待のこもった買物だったと思う。

当時は、ニューウェイブ、今で言うポストパンクに入れ込んでいて、ボサノヴァなど聴いたこともなかった僕だったけど、エコー満載でメランコリックな弾き語りに一聴して引き込まれた。大好きだったボブ・ディランの「おれはさびしくなるよ」のカバー解釈も素晴らしかった。

この時期、都内の輸入盤店、中古盤店はニューウェイブやサルサ、レゲエなど海外の音楽がものすごい勢いで動いていたこともあり、活気、個性にあふれていた。ぼくの当時のメインコースと言うと、渋谷・新宿のCisco、カット盤の安さびっくり渋谷Honky Tonk、レコード盤をコレクションする際、外側のビニール袋をはずしてハダカのままレコード棚に入れた方が格好良いと気づかせてくれた高田馬場Opus One、パブロック系だと表参道Pied Piper House、ノイズ・アングラ文化なら明大前Modern Music、吉祥寺にはNatty Dreadというレゲエの専門店もあって、おそるおそる通っていた。


部屋の中でレコ棚だけが蛍光灯に照らされてるのがいやだ!反射して見づらい!BOOK OFF感出まくり!
では、ビニールかけないでジャケットがボロボロになるじゃん、という件は、また追って検討会をばw

 

この時期のレコードショップは単に販売業というよりメディア、音楽媒体者としての役割も果たしていたと思う。月間雑誌だったりすると情報伝達に一か月かかるけれど、ジャンルによっては毎週新しい音源が入荷し、あっという間に品切れになるので、ほぼ毎週どこかのレコードストアに行って音楽シーンの流れを受けとめに行かなくてはいけない。ラジオでも雑誌でもまだ取り上げられていない未知の才能に触れに行くのが毎週楽しかった。

上記のような個性的なお店のスタッフは、情報を持っているだけではなく、みんな格好良かった。彼らはたいがい、忙しそうにコピー用紙みたいなもの(オーダーシート?)にむっつり目を向けているか、これまた格好良い常連客と音楽談義に花を咲かせていて、ぼくはそうしたやりとりに聴き耳たてて、情報摂取に努めるビギナーだった。


西荻窪:ぎゃばん では、店主の工藤晴康さんお手製による英文解説の翻訳が特典として付いていた。
工藤さんは現在、新宿エリア最インタレスティングなレゲエクラブ OPEN をやられています。

 

1983年の5月13日、渋谷の、まだ公園通りにあったDisk Unionで、ぼくはスタッフに思いきってBen Wattのようなレコードは他にもないものかたずねるという行為に及んだ。ダウナーでメランコリックで、でも歌声がなめらかで、、みたいなお気に入りのポイントを話した気がする。Durutti Columnなども好きであることも一生懸命話した気がする。しばらくお話をしてあこがれの常連客気分を味わっていると、お店のスタッフはぼくに『これを聞いてみたら』とNick De Caro『Italian Graffiti』を推薦してくれた。勿論、ニューウェイブの音楽家でないことはその場でわかった。生まれて初めてレコードストアでスタッフに嗜好を述べて推薦を受けたのが嬉しくて、即時買って帰った。輸入カット盤¥1,880。

帰宅してすぐにレコード盤を聴きながら、内容の素晴らしさはすぐに伝わって、同時に、メランコリックでやんわりした歌声、というポイントでDisk Unionのスタッフは推薦したのだろうけど、お客さんの嗜好品をサプライするだけではなく、レコード屋さんはお客さんに音楽の聴き方を教えることもできる仕事なんだなぁと、あらためて感じ入ってしまった。

1983年6月11日、ぼくは公園通りのDisk Unionにまたしても行って、ニック・デ・カロがすごく良かったことを、あの時のスタッフをつかまえて礼を述べた。そしたらスタッフが、では、これを聴いてみては?と棚から探し出してくれたのが、Chet Baker『Sings』。国内盤で¥2,300。

これも買ってすぐに帰宅してリスン!素晴らしかった。それまでロックンロールやニューウェイブなどバチバチした音楽しか知らなかったぼくに、わずか三か月の間にAOR、ブラコン、モダンジャズまで教えてくれたレコードストアのスタッフに強く憧れた。ぼくはいよいよ、レコードストアで働きたくなってきた!

今までにたくさんの音楽リスナーや業界の先輩たちに良くして頂いて、今のぼくはいると思っている。その中でも、名前も存じ上げないから尚更なのか、あの時のバイヤーさんに会えることがあったら、重ね重ねの礼を申し上げたいと思っています。

 

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